第2話 智香 来店
智香 来店
開店した週の土曜日の閉店すこし前、鈴木智香が来た。
「はぁ、はぁ、、、ようやく来れた!」息を弾ませていた。走ってきたらしい。
「結花ちゃんっ、久しぶり!、、、元気そうで何より!」
「あっ、智香さん。お久しぶりです。……いつぞやは有難う御座いました。」結花、目を潤ませながらペコリと頭を下げた。
「何になさいますか?」
「うん、、、アイスのカフェオレ。エキストララージでっ!」
「畏まりました。少々お待ちください。」結花、エスプレッソマシーンで抽出し始める。
勝手口から、深緑の作務衣姿の龍彦が入ってくる。
「おっ!ともちんっ!元気か?久しぶり。」
「これはこれは龍彦さん。作務衣姿がお似合いになっちゃって、、、」
「カッコいいだろう。惚れ直したか?」
「直しまてせんっ!惚れてもいませんでした。」
「えっ!ショックっ!、、、あれは何だったの?、、、あの寒い冬の夜の事、、、」
「コラっ!今、そんな事言うなっ!忘れようとしてたのに、、、」笑いながらの掛け合い。
結花が驚いた様な顔。慌てて智香が
「結花ちゃん、パターンだから、気にしないで。ねっ。」照れ臭そうに言い訳。
「ゴメン、ゴメン。吉本新喜劇だと思っておくれ。」龍彦のフォロー。
結花からエキストララージのアイスカフェオレを受け取り、外を見通せるカウンターに座る。
アイスカフェオレを一口飲み、ふ~っと息を吐く。更に大きく鼻で深呼吸。ぼんやりと外を眺める。。
目の前は国道はトラックやバス。営業職らしき人が運転する名前の書かれた乗用車。若い女性がハンドルをしっかり持っている軽自動車。
色んな車が通る。只々目で行き過ぎる車を見る。
【みんな、幸せなのかな、、、辛い事、有ったりするのかな、、、】智香の思い。
「あの時は、本当に有り難うございました。智香さんが居て本当に良かったです。」結花が隣に座った。
「ううん、良いのよ。昔の事だから、もう気にしないで、、、。妹と同級生で名前とか知ってたし、妹も良い娘よって言ってたし、、、
それに、龍彦が必死に動いていたから私もしなきゃって。」
「妹さんの静香さんは、今ケーキとかお菓子を持ってきてくれてます。美味しいって評判で売り切れます。」
「良かった。静香に言っとくね。喜んでるって。」
「また、ケーキ買いに行きますって伝えといてください。」
結花、話していて智香から匂う香りが気になった。一般家庭では使用しない様なボディソープの匂い。高級ホテルに置いてあるようなボディソープ。
【デリバリーで、高級ホテルに行った時にあった香りに、似ている様な気がする、、、】
【今日、デートだったのかな?土曜日の昼間に会って、夕方に帰るのって、、、】
「智香さん、お仕事は何されてるんですか?」
「虎ノ門にあるIT企業で、ブログやインスタとかのウエブデザインをしてるの。ちょっとブラックなとこかも。ふ、ふ。」
「お仕事、遅くなるんですか?」
「遅い時は12時回るから仮眠室で寝たりする。2,3日帰らない時もあるから、お肌がボロボロっ!……結花ちゃんの肌、羨ましい!」
「そんな事、無いですよぉ、ようやく最近になってカサカサ治ってきた位ですよ。」
「や~ねぇ~。お肌のボロさ自慢なんて、年頃の女がするもんじゃないわねぇ。ハハハハ。」
「そうですね。フフフっ……今日もお仕事だったんですか?」探りを入れてみる。
「ううん、今日は違う、、、」智香の表情が沈んだ。伏目になった。しかし直ぐに
「今日は楽しいデートっ!愛おしい彼氏と逢引っ。」無理した笑顔で結花を見る智香。
「良かったですね。」結花、深入りはしない様にと自分へ言い聞かせる・
「龍彦とは上手くいってるの?」逆に、話を振られた。
「全然、そんなんじゃありませんから、、、」
「え、そうなの~?。二人でお店を始めるって聞いたから、てっきり、、、」
「あくまでも共同経営者ですから、、、」結花、複雑な気分。
龍彦さんは嫌いじゃない。むしろ好き。ずっと昔から好き。昔より今の方がもっと好き。出来る事なら一緒に居たい。
でも今は踏み出せない。今は共同経営者として傍に居る事に無理やり自分を納得させている。
「そっかぁ~。……じゃ、私が取っちゃってもいい?」意地悪そうな薄ら笑いを浮かべる智香
「……智香さんじゃ敵いません、、、てか、共同経営者ですから、良い悪いじゃ無く、、、えっ!、彼氏は?今日の彼氏はどうすんですか?」
「うそよっ、言ってみたかっただけ、、、」寂しそうな顔になった智香。残っていたカフェオレを一口飲み、
「じゃ、また来るからっ。多分、土曜日の夕方に。」と告げ、席を立った。
「ハイ。お待ちしております。」結花も席を立ち、一礼して見送った。
「智香と何、話してたの?」閉店後の掃除をしながら、龍彦が聞いてきた。
「智香さんの仕事の事とかです。」
「今日も、仕事だったってか?」
「そうらしいです。」結花、高級ボディソープの香りと智香の言う逢引の事は黙っていようと思った。
「ところで、結花さん。今日、飲みにでも行きませんか?」
「行きません。」
「早っ!ちょっと考えるとか無いの?」
「ありません。」
「うわぁ!冷てぇ~。良いよ、一人で行くから。ふ~んだっ、、、
そうだ、どうせなら新宿にでも行こうかな~、お姉ちゃん達のいる所にでも、、、」龍彦、.にやけた顔を結花に向けながら言う。
「どうぞ、ご自由に、、、」
「ハイハイ。自由にさせて頂きますっつ~の。」
【……何が気掛かりなのかなぁ~?自分の事か?それとも、、、奴か?、、、】
龍彦、結花の心のケアをしたいとは考えてはいるが、何からどうして良いのかわからないままでいる。
一歩目の居場所づくりはスタートしたばかり。二歩目は何か?心の拠り所か?心配事の除去か?俺以外の信頼できるパートナー探しか?
【結花が、本当に信頼して安心できる相手なら、俺じゃなくても良いかもしれないしな、、、】
【ごめんなさい。今はまだ無理です、、、時間をください、、、】
結花、本当はお酒でも食事でも龍彦と行ってみたい。求められれば応えたい。でも今は、だめ。
気になる事は二つ。一つは何時やって来るかわからない奴の事。茂、、、。二つ目は長い間、お金を稼ぐ為とは言え、身体を売っていた時の事。
【例えば、、、龍彦さんと智香さんが一緒になるなら、私は諦められると思います。】
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