ヒロイン、サバイバル!

転生ヒロインに貴族についての知識があったらこうなります。

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 曲がり角の壁から少し顔を出して辺りを窺う。

 よし、誰もいない。

 素早く廊下を駆け抜けて階段を駆け下り、目立たない扉を開けて滑り込む。

 壁に耳を押し当てて気配を絶っていると、がやがや話しながら階段を昇っていく物音が聞こえてきた。

 オルレアン侯爵令嬢とその取り巻きご一行だ。

 完全に聞こえなくなってから扉を開けて廊下に出る。


 さてどうするか。


 中庭にはアレン王太子殿下がいらっしゃるし、食堂では宰相嫡男のリチャード様がご待機なさっているはず。

 研究室や実験室は錬金術師団長のご子息であるアルル様が出没する可能性がある。

 体育館や運動場はオリバー騎士団長嫡子様が危ない。

 そして教室にはマウントバッテン公爵令嬢エリザベス様。


 とにかくこの乙女ゲーム、じゃなくてそれを模した世界、というよりは学園には遭遇ポイントが多すぎる。

 噂を立てられるのはもう仕方がないけど、とにかく攻略対象や悪役令嬢の方々に接触さえしなければイベントは発生しないはず。

 だから回避だ。

 授業中はもうしょうがないけど、終わったらダッシュして逃げ回っている。

 私はヒロインだから(泣)。



 私が「目覚めた」のは学園の入学式でだった。

 平民だった私は両親が事故死した後、呆然としていたら叔父と名乗る貴族が保護を申し出てくれた。

 何でもその男爵閣下の御妹君が私の母親ということで、駆け落ちして勘当されていたそうだ。

 兄である男爵閣下は妹の事を心配していたのだけど、父親が生きているうちは助けられなかったと。


 私の両親の事故死の直後に母の父親である男爵閣下が病死し、男爵位を継承した叔父が妹を訪ねてみたら孤児になった私がいた。

 私はその時14歳。

 叔父の養子として貴族籍が与えられたのはいいけど、この国では貴族の子弟は全員、15歳になったら学園に通う必要がある。

 逆に言えば学園に通って卒業しなければ貴族社会では受け入れられない。

 私はたった1年で貴族令嬢としてのマナーや知識を身につけなければならなかった。

 それはいいんだけど。


 入学式で思い出した。

 これ、前世でコミュ障OLだった私がヲタク仲間の友達にしつこく勧められてプレーした乙女ゲームじゃない?

 ストーリーは王道と言えば聞こえはいいけどパターン通りの二番煎じ、似非中世ヨーロッパ風の異世界にしては社会体制はいい加減。


 大体登場人物キャラの名前はアレンだのリチャードだのマウントバッテンだの、適当過ぎない?

 私の名前はドロシーだし。


 ちなみに設定が面倒だったのか魔法はなし。

 学園ものなので異様に整った校舎や設備があるけど、この国の規模でこれだけの施設を運営する予算って無理しすぎてない?


 まあそれもいい。


 問題はヒロインのドロシー(変更可)がイケメンの人たちを攻略する方法だ。

 ヒロインは別に光の魔力とかを持っているわけでもないし、聖女でもない。

 普通の平民から成り上がった男爵令嬢だ。

 それでどうやって対象イケメンを攻略するのかというと、カウンセリング(笑)。

 つまりイケメンの人たちは全員心に闇を抱えていて、ヒロインはお話しすることでその闇を払って気に入られると。


 無理すぎでしょう!

 ていうか心に闇を抱えた高位貴族の御曹司なんかに気に入られたくない!

 悪役令嬢の皆さんも全員心に闇を抱えていて、反感を買ったらすぐに敵に回る。

 地雷だらけなのよ。


 まあ、ストーリー的にはヒロインは嫌がらせに耐えつつイケメンの心を掴み、最後に悪役令嬢が断罪されて幸せになるんだけどね。

 でも私は知っている。

 これでも前世では某国立大学の史学部歴史学科出だから。

 卒論は中世欧州の貴族体制の考察だった。


 中世ヨーロッパの貴族って凄いものよ。

 まず、平民なんか家畜よりちょっとマシ程度にしか思ってない。

 身分の差は絶対。


 貴族同士の暗闘や暗殺も日常茶飯事。

 それどころか、例えば公爵令嬢が男爵令嬢を気にくわないと思ったら嫌がらせどころじゃない。

 無礼があった、ということでその場で切り捨ててもお咎め無し。

 これが平民だったら理由なんかなくても始末は当たり前。


 つまり、もと平民の男爵令嬢なんか、この学園では吹けば飛ぶような存在なの。

 イケメン攻略なんかしてたら命がいくつあっても足らない。

 だったら学園やめればいいんじゃないかって?


 駄目なのよ。

 私を引き取ってくださった男爵家は、前代が浪費しくさったせいで破産寸前。

 このままでは男爵閣下のご家族もろとも路頭に迷いそうなのだ。

 そんなことは許せない。

 私は何としてでも学園を卒業して王城か官庁に採用されてお金を稼がないと。


 そのためにはまずイケメンや悪役令嬢に目をつけられないこと。

 もちろん成績も重要だ。

 こないだの定期試験で学年5位になってしまって目立ったのは失敗だったけど、いい成績取らないといい就職先がないし。

 学園を卒業さえすれば、イケメンも悪役令嬢の方々ももう絡んで来ないはず。

 身分が違いすぎて接触の機会がないから。


 だからヒロインは今日も逃げる。

 目指せ就職ノーマルエンド

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ヒロイン逃亡ものを読んで思いついて45分で書きました。

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