ヒロイン、孤立無援!

「私、ソフィエ王国王太子ロビンゾ・ソフィエは今ここに宣言する!

 ローリエン公爵家令嬢アリアナーシャとの婚約を破棄する!」


 力強い声が響いた。

 突然の暴挙にシン、と静まりかえる王宮舞踏場。

 凜々しく仁王立ちする美男子は真剣な表情で私を見つめている。


「更にエティエンヌ子爵家リアレイラとの婚約を……」

「お待ち下さい」


 不敬だがしょうがない。

 私は一歩前に出る。

 その私から目を逸らせつつ、ロビンゾ殿下は顔を真っ赤にして叫んだ。


「これは決定事項だ! 異議は認めん!」

「そうだそうだ」

「みんな賛成しているぞ!」

「このままじゃ可哀想じゃないか!」

「殿下にはリアレイラの方が絶対お似合いだって!」


 殿下の取り巻きが五月蠅い。

 騎士団長の息子に宮廷魔術師長の次男、宰相の甥に国教会法王の孫までいる。

 そして殿下の腰に縋り付くようにして目をうるうるさせている美少女。

 私はついカッとなって怒鳴ってしまった。


「リア様! まだ貴方はそんなことを言っておられるのですか!」

 美少女はさらに強く殿下にしがみついて泣き出した。

「びえええええん」

「泣くな! それでも貴族か!」


 本当にもう情けない。

 貴族とはその矜持を持って平民共の上に君臨する者。

 泣き言を言って責任から逃れようとするなんて許せん!

 そのことを言うと不満げに押し黙る王太子主従。

 どうしてくれよう。


「何をしておる!」

 人波が割れて威厳のある方が現れた。

 国王陛下。

 王妃殿下も控えておられる。

 そしてローリエン公爵。

 良かった。

 これで何とかなると思ったのだが甘かった。


「父上! 今私がアリアとの婚約を破棄した所です」

「ほう。 それで?」


 さすがは陛下。

 息子の暴挙をご本人から聞いても些かも動揺をお見せにならない。


「早速リアレイラとの婚約を」

 言いやがった!

 そんなことが許されると思っているのか馬鹿王太子は!


「ふむ。 本人から承諾の返事は?」

 何言い出すんだよ陛下!

「これからです! 渋ってますので是非」

「あいわかった。 ということでエティエンヌ子爵、承知してくれるかな?」


 駄目だ。

 どうしよう。

 何とか気を取り直してカーテシーをとった後弁解する。


「身分が違いますし、宮廷作法も王族に関する知識も不足しております。血筋も怪しげ。出来ればご容赦を」

「しかしだな。身分については既に子爵位を自力で授爵しておるし、御身の王国に対する献身は広く民の知るところだ。

 自力で起こした事業は王国全土はおろか周辺の国々まで潤し、画期的な治療薬は幾多の病める者共を救っておる」

「巷では聖女の呼び声も高く」

「御身の戦術論は騎士団の錬成に革命を起こした!」

「魔術師団長から出来れば名誉顧問になって頂きたいと」


 口々に言い立てる取り巻き達。

 そして殿下の影に隠れていた美少女がおずおずと口を開いた。


「ぐすん。私、王太子妃なんか絶対無理です。リアレイラお姉様のお気持ちは嬉しいのですが、出来ましたらお姉様の主人より侍女になりたくて」


 アリアナーシャ様まで!

 ていうかローリエン公爵まで頷いてるんじゃない!

 どうすりゃいいのよ。


「そういうわけで陛下の許可も得ている! リア、婚約いや結婚してくれ!」

 調子に乗って言い立てる馬鹿王太子。

「リア、あなたのおかげですっかり身体が治ったの。是非娘と呼ばせて」

 王妃様が手を差し伸べてくる。

 私を除く舞踏場の全員が拍手。

 困った。


 日本の女子高生だった私がこのソフィエ王国の王都にちょっと転生して孤児院で育ったんだけど、別にヒロインでもないし乙女ゲーム臭もないから好き勝手やっていただけなのに。


 ペニシリンの製法とかクラウゼッツ戦術論、輪作農法なんかを導入してお金儲けて、魔術はラノベの知識で無双していたら女だてらに叙爵されてしまって。

 王太子の婚約者であるアリアナーシャ様の家庭教師を頼まれたので色々面倒みてやったら懐かれて。


 王妃殿下のお身体が少し悪かったので薬物療法と回復魔法の混成で何とかしたら王太子に興味を持たれて。


 取り巻き共が言いがかりをつけてきたので全員叩きのめしたら服従されて。

 どうしてこうなった。


 そしてエティエンヌ子爵リアレイラ、前世名菅原幸子は深く溜息をついた。

 私、ヒロインじゃ無いよね?

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