ヒロイン、肩すかし?
転生者がヒロインだけだと誰が言った?
------------------------------------------
いよいよゲームが始まる。
あたしは前世で見た通りの華麗な門ををくぐった。
乙女ゲーム「憧れは虹の彼方に」。
通称「あこにじ」。
口の悪い人たちは「憧れの二次」とか言っていたけど、思わず納得させられてしまうほど綺麗な二次絵がこれでもかと言うほど大量に出てくるゲームだった。
ていうかそれしか取り柄がなかったとも言える。
低予算なせいもあって設定はショボいし進行は単調。
平民上がりのヒロインが某男爵の落とし胤だということが判って学園に入り、イケメンと恋愛するというだけの話だった。
予算をケチッたためか声優も聞いたこともないキャストばかり。
あまり上手くなかった。
ひょっとしたらどこかの声優学校の生徒でも引っ張ってきたのかも。
ストーリーは極端で、とにかく地雷が多い。
攻略対象のイケメンには欠かさず完全無欠な悪役令嬢がついていて、ヒロインがちょっとでもしくじると破滅。
逆にやり過ぎると攻略対象自身が悪役令嬢と一緒に破滅。
それも学園追放とか修道院とかの生ぬるい処置じゃない。
露骨に処刑。
領地に追放程度でいいんじゃないのかと同情してしまうほど酷い結果ばかりなのだ。
というのはヒロインが定番の光の魔力持ちで聖女だから。
ヒロインがいるといないのとで国力の桁が違ってくるというチートぶり。
でもヒロインが圧倒的かというとそうでもない。
聖女なのに光の「魔力」って笑えない?
この力は核爆弾みたいなもので、絶大な威力と危険性が表裏一体なのよ。
そんなに危険なのになぜイケメン攻略するのかというと、ほっといたらヒロインは自滅するから。
誰かを攻略して立場を得ないと王家や神殿や他国や魔王なんかが殺到してきて国を道連れにして滅ぶ。
乙女ゲームというよりはサバイバルものよね。
あたしも前世では意地になってやり込んだ。
何百回もエンドスチール見たっけ。
ハッピーエンドもバッドエンドも本当にすぐ到達出来るのよ。
下手すると15分くらいで終わる(笑)。
大抵はバッドエンドで。
スマホゲーム並にお手軽なので、逆にハマッて無駄な時間と手間を費やすユーザーが多かったと聞いている。
あたしもその一員だ。
だからこの乙女ゲームについては表も裏も知り尽くしている。
ハッピーエンドどんとこい。
まあゲームと違ってバッドエンド後のリスタートはないだろうから慎重にいかなければならないけど。
幸い、あたしが「目覚めた」のはまだ少女の頃だった。
すぐに気がついて調べた結果、まさしく「あこにじ」の世界であることが判った。
国の名前や王族名、高位貴族家の構成とか王都なら庶民でも知っているからね。
だからあたしは来たるべき将来に向けて努力した。
ゲームでは平民あがりということでマナーや貴族の知識に欠けるヒロインが苦労していたから、平民の分際で近所に住んでいた没落貴族のおじいさんに取り入って鍛えてもらった。
知識チートでささやかだけどお金を儲けて、ゲームのヒロインが行っていなかった平民のお金持向け学校にも通った。
だから男爵家に引き取られてからみんなに驚かれたくらいで。
それからも修行に励んだ。
マナーは家庭教師のお墨付きを貰ったし、聖女の力も何とか安定して使える所まで持ってきた。
そして今日がいよいよ学園入学の日。
気合を入れる。
というのは「あこにじ」は初日が重要なのだ。
何と(脚本担当が面倒くさかったからか)全ての攻略対象とのイベントが初日に集中しているのよ。
ヒロインは初日で攻略対象を選び、そのまま一直線に攻略していく。
逆ハーはないし隠しキャラもいない。
ある意味シンプルで判りやすいというか。
係員に案内されて豪華絢爛な講堂に入る。
これから同窓生になる貴族子弟たちが興奮して囁き合っているのが聞こえる。
そう。
乙女ゲームだから特に今年は
攻略対象筆頭は現生徒会長でこの国の第二王子殿下のイザーク・マハル様。
金髪碧眼長身の偉丈夫だ。
婚約者はシーム公爵家のイザベラ様。
このお二人は三年生だ。
次にホイット公爵家嫡男のイワン様。
眩い銀髪に紫の瞳で生徒会副会長。
もちろん婚約者もいてロンド侯爵家のサマンサ様。
このお二人は二年生。
その他にも宰相子息のアラン様や学生ながら魔法師団所属のフランシス様、学生ではないけれど次期法王と見做されている学園付き神官のロデール様など、とにかく全員が眩いばかりの美形。
低予算乙女ゲームなのに二次元絵だけに予算を注ぎ込みすぎてその他が残念になったという評判が立つほどの麗しき世界が展開されるはずなんだけど。
入学式が始まり、学園長挨拶の後生徒会長が祝辞を述べる。
あれ?
何で黒髪眼鏡のヒョロい人が挨拶してるの?
慌てて壇上を見てみたら生徒会席に座っているのはモブばかり。
いや人をモブ呼ばわりするのは失礼だけど、全員が外見上はくすんだ色合いのフツメンだった。
どういうこと?
生徒会長挨拶が滞りなく終了し、その他の人達が色々話したけどあたしは混乱するばかりだった。
あの美形たちはどこに?
最後に祝福のために壇上に昇った神官様もフツメンだった。
どうなっているのよーっ!
するとあたしの背後で囁き合っている学生の声が聞こえてきた。
「やっぱり目の保養は出来なかったわね」
「どうして? 麗しの生徒会を期待してたのに!」
「それが、生徒会長になるはずだった第二王子殿下は急遽ご婚約者のイザベラ様と一緒に隣の国に留学したそうなの。
副会長候補だったイワン様は領地で修行するということで慌ただしく結婚して学園をお辞めになって」
「知らなかったわ!」
「宰相子息のアラン様はもう宰相府で見習いとしてお働きになっているというし、フランシス様は実戦修行のために前線に。
そして学園付き神官になるはずのロデール様は自ら志願して布教のために辺境に旅立ったと聞いているわ」
「そう。残念ね」
あたしはそれを聞きながら怒りを抑えられずに呻いた。
奴等、逃げやがったな!
-----------------------------------------------------
悪役令嬢や攻略対象が転生者な話を読んで思いついて1時間で書きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます