ヒロイン、前倒し?

悪役令嬢が悪役のまま主人公をやります。

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 学園の卒業パーティ会場は静まりかえっていた。

 卒業生やその家族である貴族、王族までが取り囲む中、中央にぽつんと立つドレス姿の令嬢。

 それがわたくし、レルモンド公爵令嬢アレクサンドラ。


 本来なら揃って学園を卒業するアーサー王太子殿下と婚約者のわたくしは皆の祝福を受ける主役のはず。

 だがわたくしは一人。

 相対するは王太子殿下を筆頭に将来の重臣と目される高位貴族家の御曹司たち。

 中にはわたくしの弟であるアモンもいる。

 そして王太子殿下の腕に縋る桃髪の小柄な美少女ヒロイン


 ここまでスチル通りとは。


 わたくしは思わず苦笑しかけて慌てて扇で口元を隠した。

 そう、わたくしは転生者。

 ゲーム世界のキャラとしてここにいる。

 でもこれは現実だ。


「アレク」

 殿下が押し殺したような声で言った。

「私にはまだ信じられない。御身は本当にマリアの死を目論んだのか」

「……身に覚えがございません」


 とりあえず返すと将来の重臣たちから非難の声が上がった。


「嘘を言うな!」

「目撃者がいるんだぞ!」

「証拠もある!」


 偽造された証拠でしょう。

 ゲームでもそうだった。


「アレク」


 王太子殿下はまだ半信半疑のようだ。

 理性を残しているのは素晴らしい。

 だが周り全部がわたくしの有罪を確信しきっていれば、それが何になろう。


「それだけではございません」

 一人の男が進み出た。

 宰相補佐官の何と言ったか。

 まあどうでもいいモブだ。


「レルモンド公爵令嬢アレクサンドラ殿は母方の母国であるターレ帝国と通じております。おそらくは我が国を陥れようという意図で」

「なんだって?」


 殿下は信じられないように叫ぶがその他の者どもは勝ち誇って叫ぶ。


「やっぱり!」

「人殺しだけじゃなくて売国奴だ」

「お里が知れるわ!」


 そんな中、殿下はわたくしを悲壮な目つきで睨んだ後、陛下を振り返った。

 そう、この場には国王陛下がいらっしゃる。


「父上。アレクは」

「そうだ。お前の婚約者、いや元婚約者は反逆の罪に問われておる」

 ここまでゲーム通りだと本当に笑える。


 実はこの状況、悪役令嬢ことわたくしアレクサンドラに勝ち目はまったくない。

 なぜならこの茶番は王家が仕組んだものだから。


 わたくしはレルモンド公爵家の令嬢ですが、母は隣国のターレ帝国の出だ。

 それも皇帝家の血縁。

 和平の証として母上が王国のレルモンド公爵家に嫁いでわたくしが生まれた。


 なぜ母上が王家に嫁がなかったかというと、当時釣り合いが取れる王族がいなかったため。

 母上はその後、原因不明の死を遂げられ、すぐに後添いが来た。

 弟のアモンは後添いの子だ。


 わたくしはターレ帝国と王国の約定に従って王太子殿下と婚約したが、強大な隣国の皇帝家の血を引くわたくしが疎まれるのは当然だろう。

 だがそれでもアーサー殿下とは心を通わせていたはずなのだが。


「……アレク。残念だ」


 沈痛な表情で断罪の言葉を吐く殿下。

 小柄な美少女が縋る。

 やはりこうなりましたか。

 まあ、判っていたことだけれど。


「カナレ王国王太子である私、アーサーはレルモンド公爵家アレクサンドラとの婚約を破棄する!」


 殿下の宣言と同時に国王陛下が頷く。

 すると例の宰相補佐官が進み出て言った。


「レルモンド公爵殿下。承認されますか?」

「御意。アレクサンドラはたった今、公爵家より追放した」

 わたくしの父上であるレルモンド公爵が冷酷に応える。

 やはりグルですのね。

 自分の血を引いているとはいえ帝国人との混血では親しみなどないのは判っていました。

 ゲームでもそうでしたし。

 仕方がない。


 わたくしは国王陛下にカーテシーをとってから奏上した。


「最後に一言、よろしいでしょうか」

「許す」


 本当は国王陛下にこちらからお声がけするのはご無礼に当たるのですが、最後ということで寛容になられたみたい。

 駄目なら駄目で良かったのですが。


「ありがとうございます。これまで陛下の臣下として生きて参りましたが、これまでのようです。心よりご健勝をお祈りさせて頂きます」

 何とか言えた。


「何を今さら!」

「売国奴が!」

「平民風情が偉そうに!」


 罵声を浴びながら立ち尽くすわたくし。

 宰相補佐官が近衛騎士に命じた。

「連れていけ。ご丁寧にな」


 すぐさま屈強な甲冑姿の騎士が二人現れてわたくしの腕を取る。

「さっさと歩け」

「反逆者が!」

 ほとんど引きずられるようにしてパーティ会場から連れ出される。

 これもゲームの通り。


 前世では荒唐無稽な進行だと思いましたが、現実にも有り得るのですね。

 とすればこれからのストーリーも同じでしょう。

 わたくしはこのまま地下牢に連れ込まれて拷問にかけられる。

 ありとあらゆる屈辱を味合わされ、肉体の一部が欠損するまで辱められた後、半死半生のまま魔獣の餌として魔の森に投げ捨てられるのだ。


 それでおしまい?

 違います。

 これは悪役令嬢ヒロインの物語。

 片目片腕となったわたくしことアレクサンドラが成り上がり、王国に復讐するというストーリー。


 成り上がり方法は色々あって、娼婦として多くの高位貴族を手玉に取ったり冒険者としてギルド筆頭になるまで力をつけたり、あるいは知識チートで大商人となって王国経済を破綻に追い込んだり。

 それがゲームの本筋で、婚約破棄はオープニングなの。


 ゲームの題名は「銀色の復讐姫リベンジャー」。


 そう、つまり酷い目にあわされた公爵令嬢ヒロインが自分を陥れた王国王族や貴族たちにざまぁするというゲームなのよ。

 なぜ銀色なのかというとわたくしの髪が銀髪であることと、失われた片目の代わりに銀の義眼を入れるからだ。

 ちなみに婚約者だった王太子は陰謀には関わっていなかったが、やはりざまぁされる。

 裏切った男を許すほど寛容な女じゃない。


 だけどゲームでは拷問されて片目片腕を欠損させられるのはデフォルトなのよね。

 痛いのは嫌なので、そこんところはちょっと修正させて貰いました(笑)。


「ぐわっ!」

「何者……ゲッ」


 突然襲われて倒れ伏す近衛騎士たち。

 わたくしは捕まれていた腕をさすりながら立つ。


「姫殿下。遅くなりまして申し訳ありません」

 整列して片膝を突く黒装束の男たち。

 帝国の「影」。


「状況は?」

「我等は既に展開を終えております。軍も国境に集結を」

皇帝陛下おじうえは何と?」

「全てアレクサンドラ姫殿下にお任せする、と」


 よし。


「ならば実行せよ」

「御意」

 命令すると一斉に頭を下げてから散る影たち。


 そう、わたくしは反逆者だ。

 王太子殿下のお気に入りに対する暗殺などはやってないけど、数年掛けて帝国に情報を流し続けた。

 わたくしの情報を利用して帝国国境に近い地方領主たちの大半は調略済みのはず。

 そうでない領地もその戦力配置は帝国に筒抜けだ。


 皇帝陛下おじうえには王国を手土産に帝国への帰還を願って許されている。

 帝国皇女として。

 今このパーティ会場には王国の主な王族や貴族の大半が集結している。

 その分、地方領の意志決定は遅れる。


 今宵を待って帝国軍の精鋭部隊が多方面から国境を越え、王国軍部隊を各個撃破しつつ王都を直撃する。

 王国の戦力は分散していて組織的な抵抗は難しいだろう。

 わたくしの手引きで王都に潜入した「影」は百名以上。

 軍も騎士団もピンポイントで指揮官級を葬られては抵抗するどころではあるまい。

 王国が帝国の属領となるまで7日程度か。


 さて。


 前倒しの復讐ざまぁを始めましょうか。

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「にげろヒロイン」シリーズでついにヒロインが攻勢防御に転じました!

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