ヒロイン、不在?

乙女ゲームの悪役令嬢に転生?

でもご安心下さい。

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 はっと目が覚めた。

 見慣れた天井……じゃなくて天蓋?

 私は周りを見回してみた。


 やたらに広いベッド。

 四方に支柱が立っていて屋根に繋がっている。

 天蓋付きの寝台か。

 部屋自体も凄い。

 豪華な調度に高級そうな壁紙。


 なぜ私がこんな所に?


 上半身を起こして深呼吸する。

 私は光瀬麻里、山野高校2年生。

 花の女子高生ではあるが親父は市役所勤務で母はパートの一般家庭だ。

 間違ってもこんな寝台で寝られる身分では……。


「奥様! 目を覚まされたのですか! 誰か! 誰かあ!」

 ドアを開けて入って来たメイド衣装の人がお盆をひっくり返して叫んだ。

 それから怒濤のような人波が押し寄せてきて。


 私はもう1週間も寝ていた、じゃなくて意識不明だったのだそうだ。

 庭でコケ、じゃなくて転んで頭を打ち、なぜか熱も出てそのまま。

 ちなみに今の私は日本の女子高生じゃなかった。

 グロリア王国という国の侯爵であるライル家の当主夫人。

 エメリア・ライルというのが私の正式な名前だ。


 夫とは同い年で22歳。

 結婚して2年目で熱々。

 いや、光瀬麻里の記憶もあるんだけどね。

 メインはむしろそっちだったりして。


 でもエメリアの記憶もちゃんとある。

 むしろエメリアが前世の記憶を思い出した、という事みたい。

 異世界転生って奴?

 光瀬麻里の記憶は高2までしかないから麻里、死んだのか。

 まあいいや。

 もう済んだ事だし。


 私がお医者様の診察を受けた後、問題ありませんがもう少しお休みになられた方が、ということで寝ていると夕方になって夫が帰ってきた。

 仕事を抜け出してきたらしい。

 ロベルト・ライル侯爵。

 3年前に引退した父親の後を継いだ。

 王政府の内務大臣補佐をやっている。

 詳しい事は知らないけど。


「エメリア! 気がついたのか。大丈夫なのか?」

 ベッドの枕元に跪いて心配そうに呼びかけるイケメン。

 じゃなくて旦那様。

「大丈夫です。ご心配をお掛けして申し訳ございませんでした」

 光瀬麻里が何か言う前にエメリアが返してくれた。

 日本語じゃなかった。

 よしお任せだ。


「ああ、心配したぞ。気がついたという連絡は受けたが仕事が片づかなくて」

「承知しております、貴方。お役目優先は当然ですし、わたくしも問題なかったのですから」

 やたらと謝りたがる旦那イケメンを宥めてようやく納得してくれた。


 「名残惜しいがまだ仕事が残ってるんだ」とか言いながら去ろうとする旦那にふと思いついて聞いてみた。

「貴方、学園にいたサリア様を覚えてらっしゃる?」


 そう、光瀬麻里の記憶にあった乙女ゲーム。

 グロリア王国、ライル侯爵家、嫡男のロベルト様、そして婚約者で悪役令嬢のエメリア・ロト伯爵令嬢。

 固有名詞が露骨に一致する。


 そしてそのゲームのヒロインはサリア・ノレラ男爵令嬢。

 桃髪の可愛いタイプで学園において攻略対象イケメンをゲットするという定番ワンパターンな話だった。

 メインルートは我がグロリア王国王太子殿下だったはずだか。

 でもエメリアの記憶にヒロインの存在がまったくないんだよね。

 王太子殿下は婚約者のルシンダ様と去年ご成婚なされて今は王陛下の補佐をしていらっしゃるし。


 私の問いにロベルトはちょっと考えてから言った。


「サリア、サリアね。ああ、思い出した。僕たちの2年下の令嬢だろう? 妾腹でノレラ男爵家に引き取られてそのまま学園に入ってきた」

「だと思いますが」

 だってエメリアの記憶にないのよ。

 むしろロベルトはよく知ってると思う。

 当時から王太子殿下の側近だったせいかな。


「ご存じでしたの?」

「ああ。ちょっとした事件、いや醜聞かな。入学早々に王太子殿下にまとわりついた挙げ句、婚約者のルシンダ様に不埒な振る舞いをしたとかで護衛騎士だったか侍女だったかに切られた。表向きは病気で退学したことになったんだけど、それが何か?」


 乙女ゲームのつもりでやらかしたな。

 やっぱヒロイン、転生者だったか(泣)。

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「逃げろヒロイン」シリーズの「ヒロインの末路」の裏側です。

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