悪役令嬢、婚約解消?

断罪されたのは誰だったでしょう?

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 ウロテア王国ウロテア総合学院の卒業パーティが始まろうとしていた。


 王立のこの学院は貴族にとっての義務課程であると同時に平民にとっては登竜門だ。

 貴族もしくは貴族家の者はこの学院でしかるべき成績を上げて卒業しなければならない。

 何らかの理由で卒業資格を得られなかった場合、最悪貴族籍の剥奪にまで至ることすらある。


 一方裕福な平民の子弟や優秀な者は特待生資格を得て入学し、無事卒業出来れば前途は洋々。

 上手くやれば騎士一代貴族や男爵世襲貴族への道も開ける。


 ウロテア王国は実力主義であり、血統や身分は努力と実力なくして維持されるものではないという国是なのである。

 それが建前だけではない証拠として、過去には平民が特待生資格を得てこの学院を卒業し、最終的には宰相や王妃にまで至った例もあるほどだ。


 そんな実力主義の卒業パーティは、それは豪華絢爛たるものだった。

 このパーティで祝われる者はウロテア王国において将来を約束されたも同じ。

 卒業生やその父兄は歓喜に満ちているはずなのだが。


 今しも最後の参加者がパーティ会場に入ろうとしていた。

 ウロテア王国公爵令嬢セシリア・タウンゼント。

 タウンゼント公爵家の長女であり第一王子の婚約者である。

 見る者全てを魅了する美しい姿のセシリア。

 だが参加者からの歓声はない。


 セシリアは一人だった。


 学院の卒業パーティとはいえ、むしろ王国の公式行事に近い。

 従って夫婦や婚約者同士、あるいは将来を約束した者はペアでの参加が基本だ。

 増してセシリアは第一王子の婚約者なのである。

 単独での参加など礼儀マナーから言っても有り得ない。


「……あの噂はやっぱり」

「平民の特待生が……」

「……あんまりだわ。お可哀想に」


 ヒソヒソと囁かれる中、セシリアは無表情で進むと少し高くなった演台の前で立ち留まった。

 そのままカーテシーを取る。

「セシリア・タウンゼント参りました」

 少し震えを帯びた声。

 あまりの哀れさに顔を背けたり泣き崩れたりする者すらいる。


「うむ。苦労をかけたな」

 セシリアの正面に立つのは王冠を被った美丈夫。

 中年の熟した魅力満載の美男子で、微笑めば大抵の貴族女性が失神するという評判のウロテア王国国王ムア。


 だがムアの表情は沈んでいた。

 隣に立つ王妃は扇で顔を隠している。

 息子である第一王子の失態に、その心痛はいかばかりか。


 ムアは溜息をついた後に言った。


「報告は受けた。スチュアートは来ないのだな」

「はい。今もサラと共におります」

 セシリアはちょっと躊躇ってから付け加えた。

「宰相様のご子息であるタール様、騎士団長様の甥のボルトン殿、それから神官長様の末子であるタイル殿もご一緒に」


「……やはり!」

「あやつめが!」

「何ということだ……」


 国王陛下の後ろでよろめいたり顔を手の平で覆って項垂れる男たち。

 宰相、騎士団長、神官長。

 いずれも王を支える重鎮たちである。


「サラ、か」

 ムアが呟いた。

「学院始まって以来の秀才である特待生だったか。期待しておったのだがな。いや、責任転嫁は良くない。すべては我が息子の失態だ」


 セシリアは黙って頭を下げた。

 陛下の心遣いが嬉しい。

 自分も婚約者として精一杯の努力はした。

 だが駄目だった。

 その責任は取らざるを得ない。


「陛下。奏上をお許し願います」

「許す」


 セシリアが手招くと壁になっている参加者の中から3人の令嬢が進み出た。

 いずれも若くて美しく、そして本日ウルテア学院を卒業する才媛たちだ。

 それぞれ宰相子息、騎士団長の甥、神官長の孫の婚約者。


「このような事態に至った責任は私どもにもございます。どうか婚約の解消をお許し願いたく」

 セシリアに続いて3人の令嬢も深く頭を下げる。


「うむ」


 ムアが再び大きく溜息をつく。

 振り返れば沈痛な表情の重鎮たち。

 仕方がないか。


「許す」


 その途端、歓声が沸き起こった。


「やった!」

「セシリア様フリーだ!」

「夢にまでみたドロテア嬢が」

「セイラ様! 是非私と!」


 たちまち婚活会場と化す卒業パーティ。

 何せ身分と美貌と才能を兼ね備えた高嶺の花が4人もいっぺんに自由フリーになったのだ。

 1年も前からこの時を予期して身辺を整理していた前途有望な独身男たちが行動を開始する。


 その狂乱をよそにムアや重鎮たちは輪になって愚痴っていた。


「あの馬鹿ども! 最終試験に落ちて留年しおって!」

「せっかく無理言って最高の特待生を家庭教師につけたのに!」

「追試も7度目だというではありませんか。そこまで出来なかったとは」

「もう廃嫡しかありませんな」



 その頃、平民出の特待生である桃髪可愛いタイプの美少女サラは土下座する教え子のハーレムたちに怒鳴り散らしていた。


「何で名前書き忘れるのよ! それ以前に白紙答案って何? 裏に4コマ漫画なんか描いてるんじゃないわよ! 学院長先生に言われちゃったじゃない! 貴方達が合格するまで私も卒業出来ないって!」


 ヒロイン。逆ハー達成(泣)。

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ヒロインはこの後、ダメンズを何とか卒業させた功績が大きすぎるということで男爵位を授爵しました。

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