ヒロイン? 聖女? いえ悪役令嬢のはずですが?

乙女ゲームの世界ならこういうのも有り得るかと。

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「シルバーナ侯爵令嬢! 私シズラ王国王太子ハインリヒはただいまを持ってそなたとの婚約を破棄する! そして可愛いエリザと婚約する!」


 キラキラしい美丈夫の宣言をぼやっとした表情で聞く私。

 もちろん扇で口元は隠してますが。

 そう、私はロッセナ侯爵家長女のシルバーナ。

 王太子殿下の婚約者で、たった今婚約破棄された所です。


 舞台は王立学園の卒業式会場。

 壇上に立つハインリヒ殿下は桃髪の可愛い美少女をしっかりと抱きかかえている。

 そしてその周囲を囲む高位貴族の令息たち。

 定番ワンパターンなアレです(笑)。


 もちろん私は転生者で前世女子高生。

 ここは「真実の愛をあなたに」の世界。

 もう説明いいよね?


 ヒロインの逆ハーが決まった所で私が溜息をついて口上を述べようとした瞬間、それは起こった。

 いきなり王太子殿下が硬直した。

 それ以外の人たちもそれぞれ個性に添った反応を示す。

 崩れ落ちたり叫んだり。

 何?


「いやあああーっ!」

 ヒロインの悲鳴が響くと同時に王太子殿下とヒロインがお互いから飛びすざる。

 ほぼ同時に逆ハー取り巻きの高位貴族令息の方々が私に向かって突進してきた。

 襲われる?

 違った。

 私に背を向け剣を抜く貴族令息たち。


「シルバーナ様! お気を確かに!」

「貴嬢は我々がお守りします!」

「聖女様には指一本触れさせないぞ!」


「あ、ありがとうございます」

 何がなんだかよく判らないけどとりあえずお礼を言っておく。


 でも何で?

 この方々は私の婚約者ハインリヒ様の将来の配下というだけであまり面識もないのに。

 それにヒロインを虐めたということで嫌われていたはず。


 その間にも周囲の混乱は加速度的に悪化していた。

 何とヒロインが追われている。

 さすがに殿方はいないが貴族令嬢が群がって、アマゾン河に迷い込んだ子牛がピラニアに襲われているみたい。


 王太子殿下にも剣を向ける紳士方が多数。

 ていうかモロに襲ってない?

 殿下もご自分の剣を抜いて応戦中。


 それ以外の人たちは抱き合ったり一人で泣き叫んでいたり、あるいは取り乱して会場を出て行ったり。

 そしてその状況は騎士団長が近衛兵を率いて突入してくるまで続いたのだった。




 種明かし。

 何と、この世界はループしているそうだ。


 シルバーナが断罪され国外に追放になり、長いこと行方不明だったけど最後は奴隷にされて虐待の挙げ句に死亡。

 ハインリヒ殿下はエリザ様と結婚したけど色々あって上手くいかなかった。


 そして私以外の皆さんは、貴族だけじゃなくて国民全員がシルバーナが死ぬと同時にハインリヒ殿下の婚約破棄の時点に巻き戻る。

 悲惨なのは全員が前世? の記憶を持ったままだということだ。

 最初の頃は巻き戻った後、知識チートで何やかやしようとする人が後を絶たなくて大混乱だったらしい。


 何度も国が滅びて、巻き込まれてシルバーナが死んでその度に巻き戻る。

 シルバーナが元凶だとされて殺される事もあったけど、その度に巻き戻るから意味がない。

 それを何度も繰り返して、今はとりあえず私が婚約破棄された時点で間髪を入れず保護することになったらしい。


 そして。


 今日は私の聖人? 式。

 どうも私が幸せに人生を過ごさないとこのループが終わらないらしくて、シズラ王国は全国民がひたすらシルバーナを安楽に過ごさせるために努力することになってしまっていた。


 聖女として崇め奉られるのには参ったけど我慢。

 だってこれ、どうも私が原因という気がする。


 ぼんやり覚えてるんだよね。

 前世で「真愛」をやり込んだ私の押しは悪役令嬢シルバーナだった。

 で、シルバーナの末路が悲惨過ぎて「絶対幸せにしてあげるんだから!」と何度も何度もロードを繰り返した覚えが。


 もういいから止めて(泣)。

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