もし乙女ゲーム世界の脇役が破滅を回避しようとしたら

乙女ゲームの脇役に転生した主人公が足掻きます。

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「婚約を解消したかったらすぐに言って下さいね」

「は?」


 私の言葉に仰け反るグロースター侯爵令息のライン様。

 それはそうですよね。

 お見合いの席で初対面の相手にいきなりカマされれば私だって仰け反ります。


 私はシルビア。

 グロム伯爵家の長女です。

 今年で12歳。

 ライン様も同い年。

 妹がいますが嫡男はいないので私が婿を取ってグロム伯爵家を継ぐことになります。


 というわけで本日は某所にてグロースター侯爵家三男のライン様とお見合いしているのです。

 さっきまでお互いの両親と一緒に歓談していたんですが「それでは若い者同士で」ということで二人きりにされた途端に私がやらかしたという状況です。


「……判りました」

 ライン様は意外にも数秒後におっしゃりました。

 判ったのでしょうか。

 何を。


 その後すぐに解散となり、あっけに取られた表情の両親と帰宅した翌日。

 父上に呼ばれた私は告げられました。


「グロースター家から断られた」

「そうですか」

「シルビア、何を言ったんだ?」

「ちょっと」

「……まあいい。相性というものもあるからな」


 ええ、もうお判りかと思いますが私は転生者です。

 ここは乙女ゲーム「愛を求めて~ステイ学園物語」の世界。


 ライン様はグロースター家の気楽な三男なのですが優秀さを認められて第二王子殿下の側近候補になります。

 そして平民として育った男爵令嬢のヒロインに攻略されるのですが、「愛求」はハーレムエンド有りでしたので婚約は当然破棄されるわけです。


 よくある王道じゃん、とお思いでしょうが「愛求」はひと味違います。


 第二王子殿下が卒業パーティで婚約者であるランド公爵家のエリザベス様に婚約破棄を宣言し、側近も全員がそれに習ってヒロインへの愛を誓う所でハッピーエンドになるわけですが、このゲーム怖い事にハッピーエンド以外が存在しません!


 そもそもゲームというよりは電気紙芝居のようなもので、好感度やパラメータ的なものは一切なし。

 選択肢はあるのですがバッド対応がない。

 プレイヤーがどのルートを選んでもハッピー!

 最悪でも王子が臣籍降下してヒロインが公爵の嫁になってラブラブという。


 ちなみにその場合、側近候補だった人たちは例外なく責任を取らされて没落します。

 婚約者も同罪と見做されるんだからたまらない。

 ヒロイン以外にはとことん冷たいゲームなのです。


 なので前世の乙女ゲーム業界ではデスゲームとして有名でした。

 ヒロインと選ばれた攻略対象以外は全員没落ってどんな地獄よ。

 声優と絵師に予算を投入したせいで演出やストーリー、あるいはプログラミングが犠牲になったという噂もあって、でもそれなりに売れたのはどうして?


 まあいいです。


 問題は私が攻略対象の婚約者だということ。

 没落必至じゃないですか!


 というわけで婚約の打診があった時には世をはかなんだものですが、別に強制力もなかったみたいであっさり婚約する前に撤退出来ました。

 乙女ゲーム世界と言ってもキャラクター全員に自由意志がある以上、当然ですね。

 ライン様からしたら将来は平民落ちの所を伯爵家の婿になれるはずで、だから粘られるかと思ったのに少し意外でしたけどまあ。


 ライン様はその後、某子爵家の跡取り娘と婚約したらしいです。

 その他の攻略対象の皆様はゲームにあった通りのお相手と婚約しました。


 私?


 色々とお話はあったのですがとりあえず全部断りました。

 だって何が起こるか判らないじゃないですか。

 矯正力はないにしてもヒロインが私の婚約相手を狙ってくる可能性もあるし。


 時は流れて私を含めたゲームの登場人物キャラの皆さんが学園に入学し、そして卒業しました。

 みんな無事です。

 ヒロインが現れなかったんですよ!

 従って断罪も婚約破棄もなしです。


 いやそれはそれで目出度いことですが。

 学園を卒業して家でぼんやりしていたらお父様に呼ばれました。


「領地に離れを用意したから行くように」

「は?」


 私の婿取りの話はどうなったのでしょうか。


「シシリアの婚約が決まった。アルター侯爵家のご子息だ。よってお前に王都にいて欲しくない。外聞が悪いからな」


 シシリアは妹です。

 もうそんな歳なのか。


「ちょっと待って下さい! 私が婿を取って家を継ぐのでは」

「私が持ってきた話を全部断ったのはお前だろう。おかげでお前の悪評が社交界に蔓延してどうにもならん」


 何てことを!


「ならどこかに嫁入りは? この際子爵家でも男爵家でもいいです! いえ大商家なら平民でも」

「悪評が広まっていると言っただろう。気づかなかったのか? 最後の方は男爵どころか騎士家や平民の商家の子息だったんだぞ? それをお前は全部断った」


 気づかなかった(泣)。

 とにかく婚約したくない一心で。


「……仕方がありません。修道院に行きます」


 すると父上はうんざりした表情になった。

「そんなことが出来ると思うか? 妹が婿を取って家を継いで姉が修道院などと。よほど酷い醜聞があったと邪推されるぞ。シシリアにも悪評が立ちかねん」


 それか!

 確かに修道院行きってそういうものだけど。


「しかもだ。修道院といっても色々あるが伯爵家の令嬢が入院するためには多額の付け届けと継続的な援助が必要になる。お前が生きている間ずっとだ。シシリアにそんな負担をかけるつもりか?」

「いえ! そんな貴族の格式がなくても」

「平民向けの修道院の事は知らないようだな。あそこは奴隷収容所だ。粗食の上にろくに寝る暇もないほど働かせられる。しかもあれだぞ。裏では貴族や大商人向けの売春宿だ。そんなところに行ってもいいと?」


 無理(泣)。


「なら女官とかお城の侍女とかは? 貴族家の家庭教師とかでも」

「お前の学園での成績を見たが酷いものだ。卒業がやっとだったようだな。私も打診してみたが全部断られた」

 だってゲームが怖くて出来るだけ学園に近寄らないようにしていたし。

 なので就活に役立つコネどころかお友達もいない。


「だからこれは温情だ。離れをやるからそこで暮らせ。生活費くらいは出してやる」

「……ありがとうございます。それでメイドは何人くらい」

「最初の三ヶ月は一人つけてやるから家事を覚えろ」


 駄目だ詰んだ。

 こんなことなら婚約破棄されて修道院行きの方が良かった(泣)。

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引きこもりエンド。

ネットもアニメも宅配も同人誌もないから厳しいぞ。

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