『臭いがでない、死体の隠し方』

木立 花音@書籍発売中

第1話

『臭いがでない、死体の隠し方』


 検索。カチっとわたしはマウスをクリックした。


 実は乾燥させるだけで大丈夫なんですよと言うと、とても驚かれる方が少なくありません。

 ですが、対象がとても柔らかい場合、「そのまま乾燥」という方法では、縮んで干からびてしまうため、見た目があまりよくありません。

 そこで、これらは腐らない液体につけた状態でおきます。


 おお、腐らない液体、とわたしは身を乗り出した。


 液体としてはエチルアルコールを使うのが最も簡単です。薬局に消毒用のアルコ ールが売っていますので、それを使うと良いでしょう。無水アルコール(濃度99%以上のやつだそうです)ではすこし濃度が高く固くなってしまうので、70~ 80%ぐらいに薄めるか、すでに薄め てあるものを購入します。 アルコールは置いておくと、すぐに蒸発してしまいますので、保存には口のパッ キングがしっかりしたものを用います。昆虫のように体サイズの小さなものは──。


 なによ。昆虫標本じゃないしょや。わたしが知りたいのは死体のことなのよ。

 カチカチ。また別の情報を表示させた。


 死体さえ発見されなければ、殺人の事実は存在せず犯罪者とはならないのである。

 死体の処理に方法について、過去色々と試みられてきたがほぼ発見されてしまう。

 白骨化の状態で発見されたとしてもDNA鑑定により身元が分かり、交友関係から逮捕されてしまうケースである。なかなか、後始末は奥が深い。


 おお、これはほんかくてきですね。


 犯罪者が考える根本的な間違いは、人目に付かないように死体を『隠そう』とすることにある。『消す』と『隠す』とは大違いである。

 隠す行為には、地中に埋める、海に投げ込む。


 海。つまり簀巻きですね。風の噂で聞いたことあります。


 ──ドラム缶のコンクリート詰めにする等など。

『隠す』ことで、一番のお粗末な例が隠し場所から発する異臭を考えないことである。死体の腐臭は百メートル先でも臭うらしい。


 百メートル先まで! これは少々うかつでした。埋め方について昨日決めておきましたが、考え直さないといけないかも。

 それにしても、ちょっと本格的すぎる気もするのですが。


「こーら、沙也加ー! 早く来なさい! 昼から埋めるって言ったでしょ?」

「あ、はーい。いまいくー」


 階下から聞こえたママの声に元気に答えました。勝手に使っていたパパのパソコンの電源を落としながらふと考えます。

『に』と入力しただけで、『乳輪がでかい女の子』という予測変換がでてくるのは、ちょっとまずいかもなのです。



 死体を土のなかに埋め、ママと並んで黙とうをささげます。

 結局、庭の土を掘って普通に埋めちゃったけど、臭いだいじょうぶかな? ちょっとだけ心配。まあ、『死体が埋められています』と玄関にでも張り紙をしておけばいいよね。


「これで、ギョギョちゃんも天国に行けるわね」とママが言いました。ギョギョちゃんとは、夏祭りの夜店で掬った金魚の名前。

 酸素を送らなかったのが悪かったのか、わずか二日で死んでしまいました。

 こんどはもっと強い金魚がいいです。目からビームがでるやつとか。なんちゃって。


「おやすみなさいギョギョちゃん」


 わたしは立ち上がると、最近お気に入りのキメポーズをします。


「ギョギョ立ち」

「やめなさい。保育園で嫌われるわよ」


 ~おしまいなのです~

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