善人として

バブみ道日丿宮組

お題:何かの善人 制限時間:15分

善人として

「ありがとう」

 と老人に言われ、

「普通のことです」

 と言葉を返し、老人に背を向け歩き出す。階段の上り下りは大変なのは知ってること。もう少しバリアフリー化してもいいじゃないか。今度本家に相談に言ってみようかな。

 さて……タイムロスはあったけれど、まだ学校のチャイムには間に合いそう。

 というのに、

「……大丈夫ですか?」

 ちょっと進んだところで、膝を抑え込んでる人がガードレールで苦痛の表情を見せてた。

「ち、ちょっと持病で、ね。た、大したことじゃないんだ」

 大したことじゃないなら、なんで苦しそうな顔をするんだと、問答無用で携帯電話で救急車を呼ぶ。

 しばらくすると、病院が近かったこともあるがすぐかけつけてきた。

 顔見知りの救急隊員でご苦労さまですと言われ、

「ありがとう」

 とまた言われたので、

「普通のことです」

 と言葉を返し、救急車を見送った。

 またタイムロス。

 毎日こんなことをしてるから、遅刻魔と学校で忌み嫌われてるけど構わない。

 自分の命で誰かが救われるなら、産まれた意味がある。嫌われて救われるなら、それでもいい。

 死んだ母と父のために善人として生きると決めたから、揺るがない。

 無理な交際で、無理な逃避行。そんな時に起きた事故で生き残ったのがーー赤ん坊の私。

 両親が残してくれたのは、別荘のような大きな家とお金。

 それは2人が逃避行する際に、本家から持ち出したものらしい。本当だったら返さなきゃいけないものだったらしいのだけど、おばあちゃんはまた2人のような過ちが起きてはならぬということで目をつぶることにしてくれた。

 ただ、私の行動は全部宗家、本家に送られる。

 悪い人間になることは許されない。

 そして後にこの街を仕切ることを要求された。

 表舞台に立たない裏舞台の仕事。

 それが本家。

 偽善者のようないいこともこれからするだろうけど、

「……」

 別に構わない。

「男の子が泣いてたら、強くなれないよ」

「お姉ちゃん、ありがとう」

 助けられるものを助けてた両親が逃避行中に行ってたことを私も繰り返す。

 本家にいく時間も迫ってる。

「まぁ……」

 まずは遅刻しないように時間短縮しないとね。


 明るいのか暗いのかわからない明日へと私は走り出す。

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善人として バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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