星のオクリモノ

はちゃこ

星のオクリモノ

 あるところに一人の男がいた。男は世界有数の凶悪犯として恐れられていた。長年非業の限りを尽くしてきたが、とうとう捕まり、「島流し」ならぬ「星流し」の刑となった。「星流し」とは、遥か彼方の星への流刑。


 一人用の宇宙船に乗せるため、元の記憶はそのままに、赤ん坊の姿に変えられ眠らされる。そして長い時間をかけて、見知らぬ星に流れ着くのを耐えるのだ。


 男が送られた星の名は…地球。


 川上から流れてくる宇宙船を見つけたのは、近くに住む老婆だった。一抱えもある球体の…桃のような宇宙船。

 自宅に持ち帰り、老爺とこじ開けたところ、中には赤ん坊がいた。二人は、これを「桃太郎」と名付け、大切に育てた。

すくすくと立派に成長した桃太郎。昔の星の記憶など、とうに薄れていた。

 そのころ、人里を荒らす鬼の話を聞きつけた、桃太郎。早速、鬼退治に行くことを決めた。お供には、犬、猿、雉と呼ばれる、3人の用心棒も従えて。


 鬼ヶ島に着くと、そこには鬼がいた。いや、正確には「桃太郎と同郷の宇宙人」たちがいた。なるほど、彼らもまた、星流しになった犯罪者たちだったのだ。

 彼ら宇宙人は、幼少期こそ人間に近いなりをしているが、成長すると頭部に角が生え、体も倍以上大きくなる。人に擬態することが困難になった鬼たちは、次第にこの島に身を寄せ合うようになったのだという。

「たまに人里へ行き、少し畑の野菜などを拝借することもあるが、荒らすなんてとんでもない。ホラを吹いたやつがいたんだろう」と鬼たちは笑った。つられて桃太郎も笑った。

 鬼……と呼ばれてきた、宇宙人たちは、桃太郎を歓迎した。星流し同士、一緒にここで暮らさないか、と。

 しかし、桃太郎は優しい老夫婦のことが頭をよぎり、即答ができなかった。そんな桃太郎を咎めることもせず、鬼たちは宴会を開いてくれた。酒を飲んだ桃太郎は、すっかりいい気分で眠ってしまった。


 お供の三人がいないことに気が付いたのは、翌朝のことだった。怖気づいて先に帰ってしまったんだろうと、鬼たちは笑っていた。

 が、破り捨てられた衣服、血痕、そしてまだ新しい骨……島の裏でそれらを見つけた桃太郎は、酔いつぶれている間に何が起きたのかを悟った。


 その時、背後から鬼たちの会話が聞こえてきた。

「鬼の秘密を知った人間を、この島から出すわけにはいかない。そうだ、ついでに桃太郎を育てた老夫婦も殺してしまおう」


 そんな会話を聞いて、桃太郎は怒りに震えていたが、一方で、新たな力が湧いてくるのを感じていた。

「自分には、護るべきものがある」

 あの星で一人で生きていた頃には、抱いたことのない感情だった。


 桃太郎の懐には、老婆が持たせてくれたきび団子がひとつ。迷わず、きび団子…もとい手榴弾のピンを引き抜いた。爆音とともに、鬼ヶ島ひとつ、きび団子の威力で吹き飛んだ。

 桃太郎も死んでしまったが、それでも彼は満足だった。もともと凶悪犯として生きてきた過去。人を殺めることの罪悪感など、持ち合わせてはいない。

 だが、自分をここまで導いてくれたあの心優しい老夫婦だけは、命を懸けてでも護りたかった。


 桃太郎が鬼退治に旅立った数日後、鬼ヶ島の方角から、閃光と爆音が届いた。それを聞いた老婆は、にんまりと笑みを浮かべた。

「あぁ、桃太郎はあいつらを、うまく仕留めたようですよ。まったく…星流しの連中ときたら、せっかく更生プログラムを使って矯正してやっても、またすぐ悪事に手を染めてしまう。今まで何人もの桃太郎を育ててきたけれど……みんな鬼になってしまった。

その点、今回の桃太郎は、いい出来でしたね、お爺さん」


 老婆が東の空を見上げると、ちょうど一筋の雲が流れていた。また新しい宇宙船が、地球に届いたようだ。

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星のオクリモノ はちゃこ @hacha_upa

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