第17話

「湊さん、これお願いね。」

「あ、は…え?」


ドサッと置かれたのは、どう見ても数人分はある仕事。

私の担当では無いものもある。

仕事を持ってきた先輩は、威圧を含んだ笑顔を向けて立っている。

困って周りを見るとくすくすと笑い声が聞こえた。

あぁほら、だから嫌だったんだ。

元凶は確実に部長と圭だが、こんな子供のような嫌がらせをしてくる圭のファンはどうかしている。


「はぁ。」


女の子たちの視線から逃れるように給湯室に入る。

デスクの上は書類でいっぱいで、マグカップを置くスペースなんかひとつもない。

と言っても、この状況でこのマグカップを使えるほどの度胸はないのだけれど。


「薫。」


ぼうっとマグカップを眺めていると、後ろから圭に呼ばれ、急いでカップをしまう。


「どうしたの。」

「今日、仕事終わったら時間くれない?」

「今日は残業の予定だからごめん。」

「残業?今そんなに忙しくないでしょ。」

「私は忙しくなっちゃったの。だからしばらく話しかけないで。」


圭には悪いが、余計な火種は増やさない方がいいに越したことはない。

お決まりの"なんで"を聞く前に給湯室を出る。

自分の仕事をこっちに回してきているのには腹が立つが、変な争いを起こすわけにも、ここで音を上げるわけにもいかないのだ。


「だって今日は部長のお金で焼肉だから!」


陰湿な女の攻撃など私には効かないのだ。

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