第16話
圭に手を引かれ連れてこられたのは、今はあまり使われていない第2会議室。
目の前の椅子を引いて、座れと促される。
大人しく座ると、彼は私の右隣にストンと腰を下ろした。
椅子の向きによって、自然と向き合う形になった私は俯いてしまう。
「で、なんで最近目を合わせてくれなくなったの?」
「別に普段から目を合わせようとしたことは無かったけど。」
「でも逸らすこと増えてない?」
「気のせいでしょ。」
これ以上好きになりたくないから目を合わせないようにしてるだなんて言えるわけない。
逆に圭はなんでそんなに目が合うんだ。
ちらっと彼を見ると大抵目が合ってしまうから、急いで目を逸らしてしまう。
今、あの慈愛に満ちた目を向けられたら、もう逃げ出せなくなりそうだから。
「じゃあ今、目合わせられるよね?」
急に顔をのぞき込まれ、反射的に顔を仰け反らせる。
「やめてよ。意味が分からないのずっと。」
「何が?」
「好きな人がいるって言ったのに、思わせぶりな態度ばっかり。振られたばっかりで傷心の女をからかうのが楽しいの?」
泣きそうになってぐっと歯を噛み締める。
ここで泣いたら圭を困らせてしまう。それに、ここで女が泣くのはずるい。と思う。
「薫が好きだからだよ。」
「もういい。」
もうやめてよ、私をからかうのは。
圭が何かを言おうとしていたが、何も聞かずに部屋を出て自分のデスクまで足早に戻る。
「湊。」
「何も言わないでください。仕事に戻ります。」
部長が何か言う前にパソコンの画面をつける。
カタカタとキーボードを叩いていくけれど、頭の中が何も定まらない。
頭の中は会議室を出る時に見た少し寂しそうな圭の顔でいっぱいだ。
寂しいのはこっちの方だ。
圭を見る度好きだと思ってしまうし、他の女が頭をチラついてモヤモヤする。
本当は、話したいし今までのように買い物に行ったりや映画を見たりしたい。
でも、その相手に私は望まれていない。
圭がそう言ったのに。なんでそんな寂しそうな顔をしたんだ。
というか。
「やっちゃったなぁ。」
喧嘩…とは違うけれど、気まずくなってしまった。
元々諦めようと思っていたし、これで圭への気持ちが無くなるならそれもいいかもしれない。
「湊。」
「なんですか?部長。」
「今日時間あるか?お詫びに何か奢る。」
「え!じゃあ焼肉連れていってください!お金置いていってくれるだけでもいいですよ!!」
「少しは遠慮しろよ。」
「冗談ですよ。」
安堵の表情を浮かべる部長に笑ってしまう。
気を遣ってくれている部長のためにもいつも通りに戻らなくては。
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