第15話
「あ〜時間を無駄にしてる気分!」
あれから数日、圭は諦め悪く、毎日私をご飯だデートだと誘いに来る。
更には、以前にも増してしつこくなった。
そのたびにはぐらかして、私は合コンの参加に精を出していた。
「また合コン失敗か?」
部長は呆れたように私を見ている。
「聞いてくださいよ部長〜!」
「圭が戻って来るまでなら聞いてやるよ。」
「じゃあ今日ご飯付き合ってください。」
「奥さんが飯作って待ってるからダメだな。」
「じゃあお家に招待してください。綾子さんよく誘ってくれるんですよ。部長がダメって言うから流れちゃうんですけど。」
「圭も一緒に来るならいいぞ。」
「…なんでよ。」
最近部長は何かと圭を引き合いに出してくる。
その度に、逃げるなと言われているみたいで居心地が悪い。
「お前、俺との予定作って圭の誘い断ろうとしてるだろ。」
「…ま、まさかそんなことないですよ。」
「俺はそういうことで名前は貸さないからな。…で?昨日はどんな男だったんだよ。」
「自分語りうるさい男。自分はどれだけの財や名誉があるかを永遠に語ってた。もう私になんか興味ないじゃん。私はただ、それなりに愛情表現をしてくれて疲れない彼氏が欲しいの。だってもう私20代後半になっちゃうんだよ?もう同級生の結婚式呼ばれるの辛くなってきたの。」
「お前はもっと周りを見ろ。いい男いるだろ。」
「え?私が仲良くしてる男の人なんて圭と部長くらいしか…もしかして不倫!?」
「はぁ…。柄にもないことするんじゃねぇわ。俺には向いてねぇなこういうの。」
「…?」
よく分からないが、かなり呆れられているというのは分かる。
ここ数日ずっと、合コンにいた嫌な男の愚痴を言いすぎたか。
少し控えよう。部長もなんだかんだ優しいからつい甘えてしまう。
よくない。
「それに圭が「戻りました。」」
「おう。圭、湊がまたご「ちょっと部長!圭には言わなくていいから!!」」
「ご?」
「午後何食べようかなって悩んでただけ。あはは〜。」
人生最大の愛想笑いを浮かべて、部長に蹴りを入れるふりをする。
なんで今1番楽しい盛りの人に愚痴を聞かせようとするんだこの人は。
動きが早くなった心臓を落ち着かせようと、温くなった紅茶に口をつける。
同じタイミングで、目の前の圭もカップに口をつけていて、目が合った。
その様子を見ていた部長が、"お。"と口を開く。
「お前らペアマグカップなんて使ってんの?なんだ、全然仲良いじゃねぇか。」
オフィス内にいる人全員に聞こえるような声量で"ペア"と言われ、口に含んでいた紅茶の嚥下に失敗して咳き込む。
なぜ私が見て見ぬふりしたものを公衆の面前で暴露してしまうのか。
「薫、大丈夫?」
圭がこちら側に来ようと動いたのを見て、手のひらを突き出して制する。
私の心配をするより先にすることがあるでしょ。なんで真っ先に否定しないの?
「大丈夫か、湊。」
「"大丈夫か"じゃないですよ…。別に意図的に色違いにしたわけじゃなくて、圭が、お気に入りのデザインを共有してくれただけですから。」
そうでしょ?とでも言うように圭を見ると、メガネを押し上げながら私の発言を否定する。
「俺がお揃いにしたくてそうしたんだよ。仲良く見えるでしょ?」
にこにこと話す圭の後ろで、『女子の会』メンバーの女性たちが私を睨みつけている。
何回言ったら思わせぶりなことを言うのをやめてくれるんだろうか。
私が刺されたらどうしてくれるんだ。
「あんた好きな子に誤解されていいの!?」
痛いほどの視線を送ってくる女性たちに、この男の好きな人は私ではありませんアピールをしつつ、圭を叱る。
「もうされてるから誤解を解くために言ってる。」
「余計誤解されるでしょうが!ばか!」
必死に抗議するが、私の言っている意味が分からないとでも言うように首を傾げている。
意味が分からないのはこちらの方だ。
「よかった。」
「何が!?」
へらっと笑い、こちら側に歩み寄ってくる彼を睨む。
「部長、ちょっと時間もらっていいかな。薫と少し話してきたいんだけど。いいよね?部長が薫怒らせてるし。」
話すことなんてないから断って部長!!
懇願するように視線を送るが、圭に笑顔を向けられた部長は、呆れたように"好きにしろよ"と言った。
「おいで薫。」
そう言って手を引かれる。
全部部長のせいだと振り返って彼を睨むと、片目をつむって"ごめん"と手を合わせていた。
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