第12話
月曜日。
朝一番にオフィスに入り、もらったマグカップにコーヒーを注ぐ。
もらったマグカップは、外側がシンプルな白地で、内側にワンポイントのようにウチワサボテンの絵が描いてある。
一見、女の子らしさがあまり感じられないそれに、圭が私の好みを把握していることが垣間見えて笑ってしまった。
ちょっと早いけど、金曜日の私が残した仕事をやってしまおう。
気合を入れて、パソコンに向き合っていると"早いな"と後ろから声がする。
振り向くと、部長と圭が立っていた。
「あ、部長おはようございます。」
「おう。おはようさん。」
「圭もおはよ。」
「おはよ。」
「この間割ったやつ、やっと新しくしたのか。」
部長が自分の荷物を置きながら私のマグカップを見る。
「可愛いですよね。」
「可愛いも何も白無地じゃねぇか。」
そうか。コーヒーが入っているからサボテンは見えないのか。見せてあげられないのは残念だ。
ふふふと笑っていると、部長に"気持ち悪い"と言われてしまった。
「部長も飲みますかコーヒー。」
「お。圭が淹れてくれるなんて珍しいな。もらう。ありがとな。」
「さっきのお礼ってことで。」
「会社のコーヒーだけどな?」
圭は、左手に持つ部長のカップを手渡し、右手に持っている見慣れないシンプルな黒いマグカップに口をつける。
「圭も新しくしたの?」
「うん。プレゼント選んでる時に見つけて良さげだなと思って。」
「へぇ。」
「圭お前プレゼントってまた彼女できたのか?」
部長が呆れ顔で彼を見ていて笑いそうになる。私たち3人は、それなりに長い付き合いだから、もちろん部長も私と同様に圭の女性遍歴を知っている。
2人は本当の兄弟のように仲良くしているし、心配なのだろう。
「彼女じゃないよ。まだ。」
「いつになったら捕まえられるやら。」
「だから今日頑張ってるって話したのに。」
「気付かれないんじゃ意味ないだろ。」
他の人がいないからこそ聞ける兄弟喧嘩のような言い合いが微笑ましい。
「大丈夫だよ部長。今日プレゼント渡すんだもんね。」
そう言って圭を見ると、曖昧に微笑まれた。
「へぇ?」
「何、部長。その目やめてよ。ね、薫。使い心地どう?」
パソコンの横から顔を出し、私のマグカップを見る。
「あんまり使い心地を聞かれるようなものじゃないけど、そうだな。手に馴染むし、絵がハートとか花とかじゃなくてサボテンっていうのが気に入った。ふふっ。それも内側にウチワサボテン…ふふっ…。」
「湊はほんとにそういうの好きだな。何が面白いのかさっぱりだ。」
「気に入ってもらえてよかった。これで会社に来る楽しみが増えたよ。」
へらっと笑う。
「それは私のセリフでしょ。圭は、彼女が出来たらもっと楽しみになるんじゃない?」
「そうだね。早く彼女になってくれないかな。プレゼントは上手くいったし。」
「えっ。もう渡したの?」
「うん。喜んでた。」
「…そっか。」
上機嫌で微笑む彼に少しモヤモヤする。
なんでモヤモヤしてるんだ?
圭が知らない間にプレゼントを渡していたから?そりゃ私の目の前でプレゼントを渡すなんて恥ずかしいことしないでしょうよ。
……嫌だな。
圭といると私の嫌なところがよく見える。このままじゃ本当に彼の邪魔をしてしまいそうだ。
「圭も湊も始業過ぎてるぞ。仕事しろ。」
「「はーい。」」
部長の言葉に返事をして、再びパソコンに向き合う。
鼻歌でも歌い出しそうな圭と裏腹に、私は言葉にできない不快感を抱えていた。
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