第7話

「薫?」

「ん〜?」

「眠い?」

「大丈夫〜。」


圭の声が心地よくて自然と目が閉じる。


「も〜寝てるじゃん。話聞くって言ったくせに。」

「寝てない!」

「分かった。メイク落とさなくていいの?」

「いい。」


いい訳がないが、アルコールと睡魔のおかげでそれどころではない。


「ベッドで寝なよ。休まらないよ。」

「うん。……ねぇ、圭の好きな人は圭を幸せにしてくれるかね?」

「うん。多分薫次第かな。」

「ふーん。そっかぁ。」


誰であれ、圭を幸せにしてくれる人なら応援しなきゃ。

圭は何故か私に懐いていて、よく映画や買い物に誘ってくれる。

さっきもあんなことを言っていたけど、そんな不誠実なことを圭にはさせられない。

私が周りから嫌な女だと言われるより、圭が非難される方が悲しいに決まっているから。


「ほら、早くベッド行くよ。そうしたら俺帰るから、鍵はポストに入れておくね。」


俗にいうお姫様抱っこのような形で支えられ、体が浮く。

華奢だなぁと思っていたけれど、意外と肩幅が広くて力があるんだなぁ。

そんなことを考えていると、そっと冷たいベッドの上に下ろされた。


「じゃあ、俺行くね。」


抱きかかえられていた温もりがゆっくり離れていく。

急に寂しさを覚えた私は、"待って"と彼のネクタイを掴んでいた。


「薫?」

「…1人は寂しいの。お願い。寝るまででいいから。…まだ、居てよ。」

「分かった。本当に…昔から困るな、薫には。」


楽しそうに笑う彼は、ネクタイを掴んでいた私の手を解いて抱きしめてくれる。

その安心感からか、私はすぐに意識を手放した。

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