第6話

「素面で薫の部屋なんて初めてだ。」

「酔ってても素面でもあんまり変わらないでしょ。…焼酎とビールしかないけどいい?」

「うん。ありがとう。」


彼が、カバンを置いてソファに座るのを横目で見ながらお酒とおつまみを準備する。


「で?相手は今日の可愛い子?」


ビールの缶を強引に渡し、一方的に乾杯して圭の隣に座る。


「いや、違う子。」

「そうなんだ。どんな子?今回はなんて告白されたの?」

「いや、今回は告白されたんじゃなくて、俺の片思い。…そうだな。可愛い子だよ。見てて飽きない。仕事もすごく努力してる。」

「へぇ。」


圭とは仲がいいと自負しているけど、全てを見ているわけじゃないから好きな子がいるなんて知らなかった。

ただ、この顔を見る限り、ものすごく好きなんだということだけは分かる。


「今までは、告白されてからどうしようみたいな話ばっかりだったから、圭の片思いの話なんてすごくびっくりしてるんだけど、なんか安心したよ。」


彼の歴代の彼女は、どうしようと聞かれた私が"付き合ってみたら?"と助言をして、付き合ってみるが別れているという悪い習慣のようなものが出来ていたから、もう付き合ってみたらと言うのはやめようと思っていたところだった。


「いつから好きなの?」

「……分からない。その子今まで彼氏いたし、別れてもすぐ次の人できてるしで、見守ってるだけでいいかなって思ってたんだ。」

「うん。」

「だから俺も諦めて彼女作ってたんだけど、別れたって情報を昨日手に入れたからさ。そろそろアピールしていこうかなって思って。どう思う?」


プルタブをパチパチパチ弾きながら首を傾げる。


「圭がちゃんと好きならいいんじゃない?…じゃあ、もうこうやって2人で飲むのもあと残りわずかって感じだね。告白成功したら奢ってもらうから!」

「それはもちろん奢るよ。というか、いつも誘った時は奢ろうとしてるのにきっかり半分出すのは薫じゃん。」

「当たり前でしょ!でも、彼女ができた時は奢ってもらうよ。もう一緒に飲めなくなるかもしれないし。」

「だから大丈夫だって。むしろ今まで以上に付き合ってもらうよ。」

「え?何?私、圭の好きな子に刺されてもいいの?」

「そんなことしたら俺が怒るよ。」

「火に油を注がないで。」


2人で一頻り笑ったあと、圭は、プシュッといい音を立てて缶を開けてビールを流し込む。

数回喉が上下しているのを眺めていると、缶から口を離した彼は、体を私の方へ向けて微笑む。


「じゃあ薫に許可ももらったし頑張ろうかな。」

「何それ。私の許可が必要なの?」


"変なの"と笑ってビールを呷ると"大事な事だよ"と聞こえた気がするけど、意味が分からないのでスルーした。

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