第14章 神様しばい
第1節 神5の真骨頂
[アースガルズ]
男神 「オーディン様! オーディン様、どちらへおいでになるのです? まだ、ご報告したいことが
オーディン「……後にするがよい。私はこれから、人間界へ行かねばならない」
男神 「最近、そればかりではありませんか。人間界ばかりでなく、アースガルズにも目を──」
オーディン「控えよ。これも、アースガルズにとって重要な局面なのだ」
男神 「ロキごときに、なぜそのようにお心を砕かれるのです!」
オーディン「……確かに、今回の制裁は、ロキの改心が目的だった。だが、それはきっかけに過ぎなかったのだ。“人間とは何か”、“なぜ神は人間に安寧をもたらさねばならぬのか”──トールら4人の神にとっても、それを学ぶ貴重な機会となっている」
オーディン(……いや、あやつらだけではない。私にとっても、同じなのかもしれんな……)
男神 「オーディン様……」
オーディン「私は、あやつらを人間界へ送った者として、行く末を見届けねばならん。故に、人間界へ行く。あとは任せたぞ!」
男神 「あ! オーディン様!?」
オーディン、人間界へ向かう。
男神 「……いろいろ言ってたけど、結局、彼らの芝居が間近で見たいだけなのでは……?」
[サクラパビリオン_ステージ]
スタッフ 「──サクラ演劇コンクール、高校の部決勝。虹架高等学校演劇部の上演です。演目は『5人の男』」
バルドル 『……みんな。ここでお別れだ。変だよね。もとは1人の人間なのに、人生が5つに別れる時が来るなんて』
ヘイムダル『ここを一歩出たら振り返らない。別々の5人として生きていく。全員、それでいいな?』
ブラギ 『ああ。……あのさ。うまく言えないけど……、俺、お前らと会えてよかったと思ってる』
トール 『オレもだよ。つーか、みんなそう思ってるだろ? なんせ、全員“俺”なんだからさ』
有希人 『うん。……だから……約束しないか? もしいつかどこかの街角ですれ違ったら、笑って手を振るって。そして、心から祈るんだ』
有希人 『“それぞれの我が人生に、幸多からんことを”──って!』
歌唱とともにエンディング。
客席からは、割れんばかりの拍手が起こる。
[サクラパビリオン_客席]
真尋 (……圧巻だな。有希人、2次予選の時とは別人みたいだ。1次予選も2次予選も、有希人は孤独だった。技術的には、きちんと1人に見えるように声も動きも表情も、作り込まれていたけど)
真尋 (目の奥や、ほとばしる思いや……見えないけど見えてる演技が、他の4人を置き去りにしちゃってた。でも今回は、同じ人間から生まれた5人が、確かにそこにいた。合わせただけじゃなく……前以上の存在感で)
真尋 (これが、“神楽有希人”……。ここに来て、まだ成長するのか)
真尋、悔しさと嬉しさをにじませる。
真尋 (……追いつけそうだと思ったのにな。また、先を行くんだ。有希人は俺のことをすごいって言ってくれるけど、すごいのは有希人だよ。いつか、また──今度はみんなの前で、一緒に舞台に立ちたい)
総介 (……“神楽有希人ここにあり”ってか。まあ、吹っ切れたいい顔しちゃって……付け入る隙無しって感じかな? ……ユキがずっとヒロくんにこだわってたのは分かってた。異常な執着と言ってもいい)
総介 (それがユキの歪みであり、虹架最大にして、ほぼ唯一の欠点だったんだけど。決着ついちゃったか。これまでは1人だけで何かを求めて、もがくような焦燥感があったけど……それも消えてるし)
総介 (周りも客席も、これまで以上によく見えてる。──
章 (……うっそだろ。同じ演目なのに、こんなに変わるのか! 3回目だぞ、3回目! 飽きてもおかしくないのに、初めて観るみたいに新鮮で……。よくなるだろうとは思ってたけど、こんなの、予想外すぎるぞ……)
衣月 (鬼気迫る演技は前回までも感じたけど、神楽くんの“個”が前面に出てしまってたんだって今なら分かる。それなのに、この短い間でこれほど変わるのか。完成度も密度も、段違いによくなってる。これまでと同じ演目だからこそ、この進化は、繰り返し見てる観客に衝撃的に響くはずだ……)
律 (……鳥肌が消えない。これまでの公演もすごかったけど、こんなのは初めてだ……。まるで俺まで、5人の男の1人になったみたいに飲み込まれた……。きっと、神楽有希人と役がピッタリ重なったから……それだけ、役への理解が深まった証拠だ)
ロキ (あいつら……こんなに、すごかったのか。ブラギ……いつも気取った嫌味ヤローだと思ってたけど……セリフ回しは
ロキ (バルドルは出てきただけでその場が華やいだ。惹きつけられる魅力がある……悔しいくらい……。なのに、その華に甘えてない。役を理解して役になろうとしてた……努力、したんだろうな)
ロキ (ヘイムダル……騒がしいだけのヤツじゃなかったな。セリフに合わせた身のこなしやダンスは一番上手い。そのおかげで、全体的な質が底上げされてた。俺をライバルだって言うだけのことはある)
ロキ (トールは、いるだけでシーンが引き締まる。バルドルの華とはまた違う、安定した存在感だ。それに……特に、ユキトとのかけ合いはこれまでよりもずっと息が合ってた)
ロキ 「……」
ロキ (……あいつらが、変わったのか? 上手くなった? ……違う。俺だ。俺が変わったから……。ハッ。今になって、あいつらの芝居のすごさに気付くなんてな……)
ロキ (……決勝の演目を稽古する中でも、俺は変わった。今まで見えなかったものが、見えるようになった……。俺が、芝居の“本質”を掴んだから……)
ロキ (……真尋や、リューザキとか他のヤツらは、いつもこんな風に芝居を観てたのか。なんだ……観るのも悪くねーじゃん)
ロキ 「っ!」
ロキ (……なんだよ。そんなことも、今分かるのか。もっと早く分かっていれば、これまでの舞台も、虹架との合宿も、もっと楽しくやれたのに)
ロキ (ああ、くそ……もったいねー。つまんねー意地張って、俺は……、なんで……。けど……まだ終わってない。この悔しさを、全部真尋との芝居にぶつけたい)
ロキ (……決勝やったら全部終わっちゃうのに、やりたくてたまらないなんて、変だけど)
ロキ 「……」
ロキ、拳を強く握る。
真尋 「……ロキ。手、そんなに強く握ったら跡がついちゃうよ。痛くない?」
ロキ 「真尋」
真尋 「うん?」
ロキ 「……今、めちゃくちゃ芝居したい」
真尋 「うん。……俺もだ」
総介 「……虹架は、最高の芝居を見せてくれた。少しでも隙を見せたら──負ける」
ロキ・真尋「「……」」
総介 「先に、虹架の芝居を観れたことを幸せに思おう。あとは、虹架以上の本気で
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