SUB3 甘えてもいいんだ

[中都高校_演劇部部室]


総介   「よーし、だいぶいい感じ! じゃ、次はシーン5の頭からね~! あ、そうそうロキたん。ここの立ち位置だけど――」

ロキ   「……っ……。い……いた……。……痛い……っ!」

真尋   「え……ロキ? どうしたの?」

ロキ   「く……っ、……なんで……っ、あ…………頭、が……っ!」


 ロキ、頭を抱えてうずくまる。


章    「え!? ちょ……どうした!? そんなシーンあったっけ!??」

総介   「静かに。ロキたん、大丈夫? ヒロくん、これ何か分かる?」

真尋   「分からない……。急に、頭を抱えて……」

衣月   「ロキ、ちょっと見せて。……顔色は、あまりよくないかも」

律    「ロキ。頭、どんな風に痛むの? チクチクするとか、締め付けられるとか」

ロキ   「分か、らない……っ! ……痛……っ! ああっ……!」

章    「ロキ! くそっ……! どうすりゃいいんだ!」

衣月   「落ち着いて。ひとまず保健室に運ぼう」

総介   「りっちゃん、先に保健室に知らせててくれる? アキは育ちゃんに。ヒロくんとツッキーで、ロキを支えて。オレは、応急処置を調べつつ、心ちゃんにも連絡――」

真尋   「……待って、西野。その必要、ないと思う」

総介   「え?」


真尋   「ロキ。ダメだよ。これ以上は、イタズラじゃ済まない」


ロキ   「…………ちぇっ、バレたか!」

章。衣月 「「ええっ!?」」

総介・律 「「………………」」


ロキ   「あーっはっは! 引っかかった、引っかかった! お前ら、慌てすぎだぞ! 総介も衣月も、深刻な顔しちゃってさ。地味助は驚きすぎだ。律だって! ぜんぶ俺の芝居だ。驚いたか?びっくりしただろ! ははっ!」


律    「……っ。……ロキのバカ。嘘つき。最低。人――神でなし」

衣月   「律。言い過ぎだよ。ああ、でも……本当によかった……!」

ロキ   「え……」

章    「……ってことは、今の仮病!? あれが!? っ……もーーーーー、勘弁してくれよ……!! マジでビビった。さすがの演技力だけどな、ロキ! お前、今のはないぞ!」

総介   「まったく……。やっていいことと、悪いことがあるよ、ロキたん」

ロキ   「ちょ……ちょっと待てって。いつものイタズラじゃん。なんで……」


真尋   「『なんで、そんなに怒るのか』って? 当然だよ、ロキ。俺たち役者が一番倒れちゃ芝居ができなくなる。今は一番大事な時期だ。みんな本当に怖かったと思う。それに……俺たちは、ロキが大事だから。たとえ嘘でも、苦しむところなんて見たくないんだよ」

ロキ   「……真尋も……怒ったのか……?」

衣月   「そう。きっと、真尋が一番怒ってる。ロキ。どうして、こんなことをしたの?」

ロキ   「どうして……って、だからただのイタズラだよ。……ただの、いつものイタズラだ……別に――」

衣月   「別に……? 何かあったんだね」


ロキ   「……この間、食堂で――」


――――――

[回想]

[瑞芽寮_食堂]


ロキ   「うわ! 味噌汁こぼれた! 熱……!」

真尋   「! 大丈夫、ロキ!?」

章    「どこにこぼした!? かかったか!?」

衣月   「手にかかった? 早く冷やさないと!」

ロキ   「……いや、別に、そんなたくさんこぼしたわけじゃ。お前ら、慌てすぎ――」

律    「慌てて当たり前でしょ!」

総介   「氷持ってくるから、それまでお手拭きで冷やしてて」

ロキ   「……」

――――――


総介   「なるほどね。要するにその時、思ってた以上に心配されたのが嬉しくて……」

章    「図に乗って、今度は全員に心配させてやろうと、仮病を思いついたってことか……」

律    「呆れた。親の気をひこうとする子どもじゃあるまいし……甘えすぎ」

ロキ   「……あ、甘え……!? 甘えてなんかないぞ! 俺はただ、驚かせたかっただけで……!」

真尋   「……ふふ。ロキ、困らせるくらいなら、もっと普通に甘えていいよ。ロキはずっと、寂しいのを我慢してたでしょ。今、やっと俺たちと出会えたんだ。甘えたくなる気持ち、分かる気がする。だから、いいんだ、甘えても」


13章SUB2


ロキ   「…………っ」

総介   「その方法が問題だけどねー。にしてもヒロくん、よく仮病だって分かったね?」

章    「な! 俺には全っ然見抜けなかったぞ。なんで分かったんだ?」

真尋   「うん。この間、俺が眠気に負けそうだったとき、頭のツボを押してたのを、ロキが見てたんだ。頭を抱えた時の仕草が、それと同じだった。本当に頭が痛い人は、そんな風にはならないよ」

衣月   「なるほど。真実はいつも1つってわけだね」

総介   「身体は役者、頭脳も役者! その名は……名探偵マヒロ……!」

律    「名探偵……。あ。テーマソング降ってきた」

章    「名探偵マヒロの!? ていうか総介、お前。前は俺のこと、名探偵トームズとか言ってなかった? 名探偵、好きすぎだろ!」

総介   「うん。ミステリーは頭使うからねー♪ いつかミステリーものの芝居もやってみたい!」

真尋   「名探偵……。ミステリー……か。……ショウコりもなく、ショウコ集める名探偵。ミステリーなんか、もう見捨てりー」

章・総介・律「「「…………出た…………!」」」

衣月   「新作……! しかも、複数かかってる! くく……っ、あははっ。……はははははは!」

律    「……よかったですね、衣月さん。新作が聞けて」

章    「北兎が、もはや優しすぎる目になってる……!」

総介   「いや、でも、今回のはかなり力作だよ。一般人にも通じそうなレベルのダジャレ」

真尋   「ん? いつものは、通じないってこと? ねえ、ロキ。そんなことないよね?」

ロキ   「え……。お……俺にフるなよ。人間のダジャレのセンスなんか、知るか…………」

真尋   「ロキ?」

ロキ   「……。……その。みんな」


 ロキ、気まずそうにつぶやく。


ロキ   「……俺は甘えてなんかないぞ。ないけど……。心配かけて、悪かった」

衣月   「ロキ……」

律    「今回は素直に謝ったから許す。けど、二度としないでよね」


 大げさに目頭を抑える総介。


総介   「くっ……アキ。オレはね、りっちゃんがこうして、ロキたんに対しても心を開いてく様に弱いんです……!」

章    「大丈夫。俺もだ。見てると目頭が熱くなる」


律    「ちょっと。そこの2人……! 勝手にいい話にしないでください!」

ロキ   「……ハハ」


ロキ   (……俺は、こいつらに甘えてるのか。甘えるって……心があったかくなるもんなんだな。誰かとこんな風に、心を許しあえる時が来るなんて思ってなかった。……あったかい。嬉しい。寂しくない。今は――……)


真尋   「ほら、ロキ。そろそろ稽古の続きをしようよ」

総介   「そうそう! コンクール決勝は目前よ~!? それこそ、“甘え”は許されないからね!」

ロキ   「……おう!」


ロキ   (だけど……、アースガルズに帰ったら、こいつらは、俺を忘れる。俺はこのあったかさを、……失うのか……)

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