SUB2 神様七変化
[中都高校_演劇部部室]
不機嫌さを隠さず、しかめっ面のロキ。
ロキ 「……………………」
ロキから少し離れたところでひそひそと会話する部員たち。
総介 「……ヒロくん。ロキたんからものすごいご機嫌ナナメオーラが噴き出てるんだけど、どしたの、あれ?」
真尋 「それが、部室に来る前に、ちょっと言い合いをしちゃって」
章 「痴話喧嘩ならさっさと仲直りしろよー。部室燃やされちゃたまんないぞ!」
衣月 「でも、どうして言い合いなんてしたの?」
真尋 「それが……」
ロキ 「お前ら、こそこそ話してるの聞こえてるぞ! 真尋が、変身したらダメだって言うからだ!」
律 「は? いや、ダメでしょ。何を今更」
ロキ 「そうだ! 今更って言うくらい、我慢してやってるんだぞ! この、神たるロキ様が! お前らは、もっと俺様の我慢を褒め称えろ。感謝しろ。喜べ。ひれ伏してむせび泣け!」
章 「うお……久々に超神目線来た~」
総介 「まあまあ、ロキたん。芝居だって、ある意味変身みたいなもんでしょー?」
ロキ 「全然違う! 芝居は芝居、変身は変身! どんなに芝居が楽しくたって、別物だ!」
衣月 「うーん……。僕が、公演に関係ない衣装を作るようなものかな? 見てもらうためじゃなくて、ただ作りたかっただけっていうような……」
律 「それなら、俺もなんとなく分かります。発表するつもりじゃなくて、気晴らしに作曲する感じ」
ロキ 「多分それだ! 好きなことダメだって言われたら、お前らだって暴れるだろ!?」
衣月 「はは。さすがに暴れはしないけどね。残念ではあるかな」
律 「それに、ロキの変身は人に迷惑がかかるんだから、別の話でしょ」
ロキ 「迷惑──それだ! 要は、誰にも迷惑かけなきゃいいんだな?」
章 「……嫌な予感しかしない……!」
ロキ 「この部室の中で変身する分には、誰にも迷惑がかからない。変身し放題ってわけだ!」
律 「飛躍しすぎ。俺たちへの迷惑はどうなるわけ?」
ロキ 「迷惑か? 真尋」
真尋 「迷惑か迷惑じゃないかって言われたら──……うん。別に迷惑ではないかな」
ロキ 「ほーら! 聞いたか! 見てろ。お前たちをアッと驚かせてやるからな!」
章 「叶も乗るなよ! って、あ……ちょ、ロキ!?」
ロキの周りに光が集まり、総介そっくりの姿に変わる。
章 「そ、総介が2人ぃ!?」
総介 「え~?オレって、もうちょっとイケメンじゃない?」
律 「いえ。ビジュアルは寸分違わず同じだと思います」
総介(ロキ)『真尋の演技力と、ロキの華! この2つがあれば、向かうところ敵ナシ、間違いナシでしょ~!』
衣月 「はは! しゃべり方や、仕草までそっくりだね」
真尋 「すごいよ、ロキ。本物の西野がいるみたいだ!」
章 「お前の演技力、うなぎ登りだな……。幼なじみの俺から見ても、立ち姿やしぐさもほぼ本人!」
律 「……うるさいのが2人とか、ホントやめて欲しいんですけど」
総介(ロキ)「そうだろ、そうだろ!もっと驚かせてやるぜ!」
ロキ、総介の姿から章そっくりな姿へと変身。
章(ロキ)『叶、寝癖がひでぇぞ。鳥の巣かよ。ロキ、お前は制服をちゃんと着てこい。って、脱ぐな! ここは風呂じゃないっつの! はあ……朝からツッコミが追いつかない……』
真尋 「はは! うん、朝の東堂そのものって感じだね」
章 「お、俺ってそんな? マジ?」
ロキ、章の姿から律そっくりな姿へと変身。
律(ロキ)『西野先輩、絡まないでください。東堂先輩、そこ邪魔です。衣月さんと真尋さんは、大丈夫です。え、ロキ? ……ウザい』
総介 「あはは! そっくり!! マジそっくりだよ、ロキたん!! よく見てる~!
律 「……ほんと、ウザい」
ロキ、律の姿から衣月そっくりな姿へと変身。
衣月(ロキ)『こ~ら、ケンカするな。律もロキも、僕にとってはすごく可愛い後輩だよ。だからほら、笑って』
律 「……っ、……悔しいけど……よく、似てる」
衣月 「はは。僕ってそんな風に見えてるんだね。なんだか、新鮮だな」
ロキ、衣月の姿から真尋そっくりな姿へと変身。
真尋(ロキ)『ロキって本当に面白いよね。一緒にいると俺まで羽が生えたみたいな気分になる。……え? うん。全部ロキのおかげだよ』
真尋 「わあ……自分を演じられるって、すごく面白いね」
衣月 「さすが、1人5役を演じきっただけあるよ。見た目がほぼ本人っていうのももちろんだけど……、これだけの短時間に、口調やしぐさまでカチっと切り替えられるのがすごい」
真尋(ロキ)「だろ! もっといろいろ変身できるぜ! 特別に見せてやる!」
ロキ、調子に乗ってあらゆる人物に変身を繰り返す。
雄一(ロキ)『兄ちゃ~ん! バナナ食お! バナナ!』
総介 「あははは! ロキたん最高! なんでそのチョイス!?」
章 「それ言うの、長男じゃなくて三男じゃん! やば……ヤバい、笑いすぎて、腹筋が……あはは!」
真尋 「あはは! 本当にロキはすごいね。こんなに笑ったの、久しぶりだよ」
律 「けど……こんなに騒いでたら、他の部活に迷惑なんじゃないですか……?」
衣月 「ああ、そうだね。つい楽しんじゃった。ロキ、そろそろ──」
ロキ 「おう。大分、気もすんだしな! それじゃあ最後に……どうだ!」
ロキ、竜崎の姿へ変身。
竜崎(ロキ)『やれやれ。今日も二日酔いで死にそうだぜ……』
章・総介 「「育ちゃんだー!!」」
竜崎(ロキ)『……神之。お前は素晴らしい役者だから、テストは免除してやる』
章 「ふはっ! 絶対言わねーし! 絶妙に似てねー!!」
総介 「クオリティーが! ロキたん、クオリティー! もっと、育ちゃんのことも観察してあげて!」
衣月 「ふっ……ふふ。顔が本人だから、余計……。……ふふふ……!」
真尋 「でも……っ、特徴は、捉えてるんじゃないかな。ふ、二日酔いとか……んっ、ふふ……」
律 「そん……そんなこと、言ったら……おこ、怒られますよ……っふ」
次の瞬間部室の扉が開き、竜崎が現れる。
真尋・章・総介・衣月・律「「「「「!!!」」」」」
竜崎(ロキ)「……!!」
総介 (やっば! 本物来ちゃった! なんとかごまかさないと……って、どうやって!?)
章 (はい、イリュージョンでーす……は通じないよな!? サクラ演劇コンクール、どうなるんだよ……!!)
律 (ああ……嫌な予感はしてたんだ。ロキがバカなことするから……)
衣月 (……こうなったら、いっそ、先生にもロキの正体を知ってもらったほうが……)
真尋 (ええっと……。先生にバレたら、どうなるんだっけ……?)
ロキ (やべー! 竜崎の気配全然気付かなかった! どうする、神の力でごまかすか!?)
竜崎 「……………………」
一同 「……………………」
竜崎 「……騒ぎすぎだ。他の部活からうるせえって苦情が来てる。そこそこにしろ」
竜崎、一言だけ放って部室を後にする。
律 「い……行っちゃいましたね」
章 「え? 何、どういうこと? なんでなんも言わないんだよ。逆に怖ーんだけど!」
衣月 「驚きすぎて、見なかったことにしたのかな?」
竜崎(ロキ)「もしかして、半分寝てたんじゃないのか?」
ロキ、変身を解いて元に戻る。
ロキ 「それか、俺の完璧な変身に見とれたんだろ!」
総介 「いやー……育ちゃんのことだから、二日酔いで、幻覚だとか姿見見間違えたとか思ったんじゃない?」
真尋 「そうなのかな。なんにせよ、問題にならなくてよかった……」
[中都高校_廊下]
竜崎 「…………」
竜崎 (……なんっだ、今の……。俺、だったよな? ……夢か? 頭でも殴ってみるか。いや。夢にしてはリアルすぎる。ってことは……)
――――――
[回想]
竜崎 (もし“神之ロキ”のが北欧神話の“ロキ”なら──変身の力があってもおかしくない。人間界でふらふらしていることにも納得がいくが……)
――――――
竜崎 (……やっぱり、そう、なのか)
竜崎 「ったく。超弩級に面倒じゃねえか……! ……」
竜崎、しばし思考を巡らせた後、思考停止。
竜崎 「………………よし。決めた。二日酔いで幻覚を見たってことにする」
竜崎 (あいつの正体がなんであれ、今は演劇部の一員だ。俺が口を出して、かき回す意味はない。俺は、あいつらのために必要ならフォローしてやるだけだ)
竜崎 「……それにしても、あいつらから見た俺って、そんな二日酔いばっかなのか……? ……酒……少し控えるか……」
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