第5節 前へ
[中都高校_演劇部部室]
サクラ演劇コンクール決勝 前日
竜崎 「お前ら。稽古はここまでにしとけ。まだやりてえだろうが、キリがねえぞ」
総介 「……ん。そだね。体力も温存しておきたいし、明日の準備もしなくちゃだ。2人とも。この辺にしよっか」
肩で息をするロキと真尋。
真尋 「……はい」
ロキ 「分かった……」
草鹿 「お。終わったみたいだなー! 南條。ここの荷物、全部車に運べばいい?」
衣月 「はい。ありがとうございます、草鹿さん」
草鹿 「トラック借りたから任せろって。ま、会場、すぐそこだけどな! さっき廊下で会ったけど、大道たちも後で手伝いに行くって言ってたよー」
竜崎 「しゃべってねえで早く行け。後が詰まってんだよ」
草鹿 「はいはーい。草鹿使いの荒いことでー」
草鹿 「よーし。これで全部積み込めたかー? ……って、南條、衣装は乗せないの?」
衣月 「はい。これは、手持ちで行きます。特にロキの美しさを最高の形で見せられるように、生地から縫製まで、こだわらせてもらったんです。装飾の1つも欠けさせたくないから、着せるぎりぎりまで、自分で抱えていこうと思って」
草鹿 「そっか、そっか! 楽しみだなー!」
竜崎 「北兎。機材のほうはどうなってる?」
律 「はい。予選の時とは違って、ホールの勝手もだいぶ分かってきたので、音響も照明も、大丈夫だと思います。あとは明日、現場で確認できれば問題ありません」
竜崎 「そうか。なら、今日は休んで明日に備えろ」
一同 「はい!」
律 「……よし。後は、会場での作業だけですね」
章 「はあ……北兎、よくそんな落ち着いていられるな……。俺なんか、ソワソワしちゃって……。毎回思うけど、脚本担当って本番近付くとできること少なくて、緊張ばっか募ってくんだよ……」
総介 「あはは! 本番になりゃ、オレだって、役者2人に託すのみよ。それとも、まだ何か足りないと思ってる?」
章 「……いや。そんなことない。バッチリだろ。衣装も、音楽も、芝居も! 完璧だ!!」
総介 「ん。もちろん、台本もね?」
総介、ロキと真尋を見る。
総介 「……真尋、ロキ」
総介 「今回の2人芝居は、間違いなくこれまでの中で最高の出来だ。自信を持って送り出せるよ。……うん。これまで、みんないろいろあったけどさ、あれもこれも全部、糧になったと思うし」
律 「できる準備は、全てやりました。不安はありません。2人を、信じてますから」
衣月 「コンクールで最優秀賞を目指すのは、もちろん、ロキの“条件”達成のためだ。けど、俺たちが子どもの頃に観て、すごいと思った真尋の演技を──、ロキという最高の共演者を得て、もっと深くなった叶真尋の芝居を、もっとたくさんの人に知ってもらえる機会でもある」
総介 「“叶真尋ここにあり!”ってね。オレ、そのためにこの演劇部を立ち上げたんだし!」
真尋 「……みんな……。舞台に立てなかった俺のことを、諦めずにいてくれて……、ありがとう。俺自身が、諦めようとしてたのに。本当に、幸せ者だと思う」
真尋 「それと、ロキ」
ロキ 「……っ」
真尋 「あの時、俺を舞台に引き上げてくれてありがとう。ロキがいなかったら、今日の俺もいなかった。みんなには、本当に、心から感謝してもしきれない。……最優秀賞を取ればきっと、ロキの小瓶は“心からの笑顔”で満ちて、俺の“真実の願い”──仲間と一緒に大きな舞台を成功させたいって願いも、叶う」
真尋 「絶対に、最優秀賞を取る。これまで、みんなにもらったものを返すためにも。今度は、俺たちが笑顔になる番だ」
章 「おう」
総介 「だね」
衣月 「うん」
律 「はい」
ロキ、真尋の強い眼差しと、呼応する4人の表情を見つめる。
ロキ 「…………」
ロキ (……俺、やっぱ変だ。この決勝が終わったら、何もかもがゼロに戻るのに……こいつらの顔見てたら、芝居がしたくてたまらない)
ロキ (なんなんだよ、芝居って。役者って。……胸がつまって苦しいのに……楽しい。……ああ、俺、やっぱり、芝居が──)
誰かのスマホがメールの着信を知らせる。
総介 「ん? 誰か着信?」
真尋 「……あ、俺か。メールだ。……!」
総介 「どした? 誰から? なんか、まずいことでもあった?」
真尋 「……ううん。大丈夫。ちょっと用事ができたから、出かけてもいいかな」
真尋 (そう。俺は、きみとも話を付けなきゃいけない。もう二度と、立ち止まらないために。これからも芝居で生きて行くために──)
真尋 (──会いにいくよ。……有希人)
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