SUB3 分かってる2人
[東所沢駅前_商店街]
律 「……やっぱり、1人で出て来ればよかった。西野先輩と2人なんて、うるさすぎて疲れる」
総介 「今日も初手からキビシー! 一緒に行こうよ~! ホントりっちゃんってば、オレのことどうでもいいと思ってるんだから~!」
律 「そうですね。どうでもいいですね」
総介 「即答入りまーす!」
律 「ハッ」
総介 「続いて嘲笑いただきましたー!!」
――――――
[回想]
[中都高校_演劇部部室]
――数分前。
ロキ 「喉が乾いた。律。コンビニ持ってこい」
律 「……本気で言ってるなら、頭悪すぎ。持ってこられるわけないでしょ」
ロキ 「フン。律はやっぱり、チビでひ弱だな!」
総介 「ハイハイハーイ、大事な打ち合わせ中にケンカしない! ちょうどオレも、コンビニ行きたかったんだよね♪ 買い出し行ってくるから、みんな、飲みたいものリクエストプリーズ! そしてりっちゃん! せっかくロキたんのご指名だし、たまには一緒に行こうか!」
律 「えぇ……」
――――――
総介 「買い出し誘ったくらいで、そんな冷たくしないでよー。さすがに傷ついちゃうよ~? オレと2人でしゃべることなんて、あんまりないんだからさー!」
律 「はいはい。さっさと行きますよ。のんびりしてたら、衣月さん喉乾いちゃうんで」
総介 「おっ。出た、りっちゃんの熱いツッキー推し! ホント、ツッキーのこと好きだよねぇ」
律 「はい。西野先輩の500倍くらい好きです」
総介 「かなりの差! 500ってなかなかよ!? んじゃ、アキのことはどんくらい好き?」
律 「衣月さんの500分の1ですね」
総介 「ふんふん。んじゃ、ヒロくんは?」
律 「東堂先輩の500倍くらい尊敬してます。ちなみにロキは―――すべての人の500000000000000分の1」
総介 「5百兆! アラビア数字では識別しづらい桁数! ……ぷふふっ」
律 「……なんなんですか、その下品な笑い方」
総介 「だって、ぷふふ。りっちゃんってば、もー! そんじゃ、クイズいくよ~!? 今からツッキーに買ってくる飲み物は!?」
律 「突然すぎ……。……アイスミルクティー、甘さ控えめ」
総介 「ヒロくんには?」
律 「そば茶。ホットで」
総介 「アキには?」
律 「ただただ普通のコーラ」
総介 「ロキには?」
律 「100%果汁のリンゴジュース」
総介 「正解正解、大正解~! ほら、全員の覚えてるじゃん! 可愛くないことばっか言うけど、ツッキー以外の部員のことも、ちゃんと大好きだよなーって!」
律 「バカにしてるんですか? 好きとか嫌いとかじゃなく、直接頼まれたことくらい、覚えてますよ」
律 「……。西野先輩が飲みたがってたのを覚えてるかどうかは、聞かないんですね」
総介 「ああ、オレのはいいのいいの。そりゃあさ、オレはりっちゃんのこと大好きだけど、りっちゃんにとっては“どうでもいい人”だからさ~! 気にしてません♪ あ、そうそう、適当にお菓子も買い足して……」
律 「……茶番」
総介 「はい?」
律 「いつもながら、無駄な茶番すぎます。俺が本気で言ってないの、分かってますよね。俺、本当にどうでもいいと思ってる人にわざわざ『どうでもいい』とか言いません。あと、バレてますから。わざわざ俺を誘った理由」
総介 「え」
律 「……最近、コンクールに向けてみんな切羽詰まってて、たまに、ちょっと空気が硬くなることありますよね。特に俺は、歯に絹着せないし。西野先輩は、演出担当って立場上、厳しく言うこともある。だから、この買い出しは、俺と行きたかったんじゃなくて……、俺たち以外のメンバーで、気分を緩めてもらうために俺を誘ったんでしょ」
総介 「……。……わお。驚いた。バレバレとは思わなかったなー! あはは。アキでも、ここまでは見抜かないよ~!?」
律 「東堂先輩は、そういうことだけちょっと鈍いところがいいんじゃないですか。だからロキも、東堂先輩のことからかうんです。そういうバランスが大事なんでしょ。西野先輩こそ、うちの演劇部のそういうとこ、大好きなくせに」
総介 「……はは。あはは! りっちゃーん!!」
総介、むりやり律と肩を組む。
律 「!? ちょ……急に来ないで! 重! うざ! 暑苦しい! 最悪……!!」
総介 「ヒュー! あらん限りの言葉で罵られるぅ~!!」
律 「なら、罵られるような、こと、しないでください……っ!!」
総介 「あはは! いやー、だってオレ、嬉しくて。ちょっとマジメに、だいぶ相当かなり嬉しいよ」
律 「日本語崩壊してます!」
総介 「うん。そんくらいハッピーだから。だってさ。これまで、部のこと、ここまで分かって立ち回れる奴、他にいなかったから。アキはりっちゃんの言う通りちょっと鈍いし、ヒロくんはのんびりしてる。ツッキーは分かっててもめったに言わないし、ロキたんはあの通り、ロキたんでしょ?」
総介 「オレ、1人で部の空気、取り回してるつもりだった。文化祭以降、ちょっとはみんなに頼ってるけど……。今、マジで実感した。りっちゃんは、オレと同じくらい、部のこと分かってる。そして、部を好きでいてくれる。
総介 「これなら、来年からも安泰だって。オレとアキが、中都にヒロくん追いかけてまで、演劇部再始動した意味、あったなって……! それが嬉しくて、つい肩組んじゃいましたー!! あははは! ……ははっ」
律 「……え……嘘。なんかちょっと、泣いてません? 引くんですけど」
総介 「引かないで!? もっと本気で泣くよ!?」
律 「どうぞ。まったく……。ほら。さっさとコンビニ行きますよ」
律 「新商品の“リンゴラテ・冬のあったかバージョン”、買うんですよね?」
総介、目を見開く。
総介 「……覚えてるし。オレの飲みたがってたやつ。もう、りっちゃんってば。演劇部入ってくれてありがと! 大好き!!」
律 「……うざ……」
[中都高校_演劇部部室]
章 「で、なんでなんだよ。なんでみんなには頼まれた通りのもの買ってきて、俺にだけ、ワケわかんないの買ってくるの!? “キャラメルもずくシェイクの山椒仕立て”……って何!? 何味だよ!?」
総介 「ノンノン、逆! アキだけ特別待遇! それ、あのコンビニ限定の新作ドリンクよ~!? 今日はりっちゃんのおかげで、アキのありがたみを再確認できちゃったからさ! 感謝の気持ち☆」
章 「気持ち☆ じゃねーよ! 北兎、お前も一緒に行ったんなら止めろよ……!」
律 「俺が東堂先輩をイジるのは、演劇部でのもう1つの役目だと思ってますから」
章 「何、その要らない使命感!? うう……さっきまで穏やかな時間が流れてたのに……!」
ロキ 「そうだ。さっきまで、俺が1人で地味助をからかって遊べてたんだぞ。律が帰ってきたら半分になった! あ。イイこと考えた! 地味助、半分に割れろ!」
章 「これまでで一番ひどい命令!」
総介 「あははは!」
律、総介にだけ聞こえるようにささやく。
律 「いつも通り、ですね」
総介 「ん。……でもさ、りっちゃん、これは気づいてた?」
律 「え?」
総介 「オレがりっちゃんを誘った、本当の、本当の理由はね。『自分がいるから、部の空気が硬くなる』なんて……優しい勘違いをしちゃうほど、いい子なりっちゃんを、ほぐしてあげたかったからだよ」
律 「……!」
律 「……どこまで本当なんですか」
総介 「どうだろねー?」
律 「……はぁ。やっぱり、分かるようで分からない人」
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