第7節 予選を終えて

[サクラパビリオン_客席]


真尋   「…………」

ロキ   「…………」

律    「…………」

衣月   「…………」

章    「…………」

総介   「…………いよいよ、予選結果発表だね」

章    「……~~~っ、くそ。この時間が俺、人生で1番嫌いかも……!」

衣月   「……正直、僕もだよ。大丈夫だとは思ってるけど、胃が痛くなりそうだ」

律    「大丈夫ですよ。……客の反応はすごくよかったですから。 みんな、役者が2人だけなんて想像すらしてないところに、あれを観たんですから、当然です。終演したとたん、“心からの笑顔”もたくさん集まったんだし」


12章7節


ロキ   「ああ。増えた量もこれまでの比じゃない」

総介   「そういうこと。たぶん、間違いない。……でも、あー……! 早く発表してくれ……! 焦らさないでよね、もう~~」

真尋   「……」

ロキ   「……真尋」

真尋   「……うん?」

ロキ   「……俺、変だ。なんか、ちょっと手が震えるぞ。人間界に長くいすぎて、病気かなんかになったのか?」

真尋   「……ほんとだ、震えてるね。でも大丈夫。これは、心から何かを願ってるときに、誰でもなるものだから」

ロキ   「……心から、何かを……」

真尋   「そう。ロキは、震えるほど本気で勝ちたいんだ。オーディンの条件だからじゃなくて」

ロキ   「……ああ。勝ちたい。願うって、こういうことなのか……」


 ステージに審査員が登壇し、客席がざわめく。


審査員  「ご来場のみなさま、大変長らくお待たせいたしました。サクラ演劇コンクール。高校の部、予選通過校を発表いたします」


章・総介 「「きたーーー…………!」」

衣月   「……ここで参加校は半分以下に絞られる。たぶん、発表は50音順」

律    「中都なかつは……“な”だから、呼ばれるとしたら真ん中くらい、ですかね」

審査員  「予選を通過し、準決勝に進んでいただく学校を発表いたします。青木商業高等学校演劇部。田崎東高等学校演劇部。手塚女子学院演劇部──」


 学校名が挙げられるたび、会場にはざわめきと拍手が上がる。


章    「たざき……てづか……ってことは、次か?」

総介   「次来るよね? “な”から始まる、“なかつ”!」

ロキ・真尋「「……な……」」

総介・衣月・律「「「……な……!」」」


審査員  「……戸山台高校演劇研究会」


ロキ・章・総介「「「“と”かよ……!!!!!」」」

真尋・衣月・律「「「“と”か……!!!!!」」」


審査員  「……中都学院高等学校演劇部」


ロキ・真尋「「っ!!!」」

章・総介 「「…………きた……」」

衣月   「……きたね」

律    「……きました」

真尋   「……ロキ」

ロキ   「……っ、真尋!」


一同   「「「「「「よっしゃああああ!!」」」」」」                        




 中都演劇部から少し離れた後部席に座る虹架演劇部。


ヘイムダル「ナカツは通ったぞ! 早く! 次すぐ! 次!」


審査員  「……虹架高等学校演劇部」


ヘイムダル「よっしゃああああああ!!!!! ………………って、あれ?」


 1人だけ立ち上がるヘイムダル。


バルドル 「よかったですね!」

トール  「ま、そうじゃないと困るからな」

ブラギ  「当然です。特段、騒ぎ立てることでもありません」

有希人  「……よかった。みんな、お疲れさま」

ヘイムダル「なんだよ、お前らー。もっと喜べよ。当然のことでも、しっかり喜んだほうがもっと嬉しいぞ! ん? どこいくんだよ、有希人」

有希人  「稽古だよ」

バルドル 「えっ……?」

有希人  「予選の次は準決勝だ。あまり時間がないし、他の仕事もあるからね。今日の残りの時間は、コンクールの稽古に当てる」


 ホールから退出する有希人。 


ヘイムダル「すげーな、有希人は! 今、予選が終わったばっかなのに。すげーけど……なんか、ちょっとつまんねーの」

バルドル 「……有希人くん、疲れているはずなのに。また、無理をしすぎないといいんですけど」

トール  「俺も行くわ。また倒れないように見ててやらねえと。俺の近くで誰かが傷付くのを見るのは、もう、ごめんだからな」


 有希人の後を追うトール。


ブラギ  「……。トール……。その道の先には、花ひとつ咲いていないというのに」

ヘイムダル「トールは心配性っていうか、困ってる奴見たらとりあえず助けちゃうからなー。アースガルズでも、ロキだけじゃなくて、いろんな奴のこと面倒見てたし! ロキだけにしとけば、あいつだってもっと楽しそうな顔してたと思うんだよな~。有希人のことも心配なのは分かるけど、結局、神と人間じゃあな」


12章7節


バルドル 「……難しいですね。すごく……難しいです。僕たちは、ロキの“条件”の達成を、時に助け、時に必要な障害となるために、ここに遣わされました。そのためには、中都のみなさんに最優秀賞を取っていただかないといけません。……だけど……」


バルドル 「……僕は本当に弱い存在です。有希人くんと一緒にお芝居をすればするほど、有希人くんを喜ばせたくなる。このコンクールも一緒に勝ち進みたいと思ってしまう。ブラギの言う通り……その先に、望む未来がなくても」


ブラギ  「……兄さん」

ヘイムダル「オレだって、もっと虹架で芝居したいぞ! 中都ともあと2回しか戦えないなんて、早すぎだ! ……こんなに一緒にいたのにな」

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