第2節 ふたたび、合同合宿
[中都高校_演劇部部室]
章が静かに本を読んでいる。
章 「……」
真尋 「東堂。熱心に、何読んでるの? 少女漫画の新刊?」
章 「ち、違うよ! 漫画も確かに好きだけどな!? 今はこれ!」
真尋 「『図入り解説・北欧神話』」
ロキ 「……ふぅん」
章 「ロキや
総介 「オレも、アキから本の内容ざっくり聞いてるけどさ、ロキたん大活躍じゃん! “北欧神話最大のトリックスター”ってね! 悪いことも、イイことも、あれこれし放題!」
律 「俺も、ネットで少し読みました。ロキはトールと旅をしたり、ヘイムダルと戦ったり、あとは――バルドルの死因を作ったりしてたけど、あの人今虹架に普通にいるし。作り話っぽいところが多い印象ですね」
章 「けっこうエグめのことも書いてあるからさぁ、普段のロキとのギャップに戸惑うんだよな」
ロキ 「……フン。人間が作り上げた北欧神話なんて、1から10まで創作。何もかも、嘘ばっかりだ。そんなものに惑わされてる暇があったら、今ここにいる俺様だけを見てろ」
総介 「ヒュー! ロキたん!」
衣月が部室に入ってくる。
衣月 「みんな、お待たせ」
律 「お疲れ様です。竜崎先生からの話って、なんだったんですか?」
衣月 「うん。それがね──」
部員たちに説明する衣月。
ロキ・真尋「「えっ!?」」
章・総介・律「「「また、虹架と合宿!?」」」
律 「……って、なんで西野先輩が一緒に驚いてるんですか? どうせまた悪だくみして裏から手を回したんですよね」
総介 「悪だくみ!? 悪だくみですって!? オレはいつも演劇部のことを考えているだけなのに!」
章 「うん。こいつのは悪だくみっていうか、目的達成の手段に、悪知恵を使ってるだけだから」
総介 「どっちにしろ
ロキ 「ああ。なんにも聞いてないぞ。説明しろ、衣月」
衣月 「もうすぐ、虹架の冬の定期公演でしょ? 公演を観せてもらうことと、その後、夏の合宿の続きをやれるように、申し入れてくれたんだって」
真尋 「夏の……続きを……」
衣月 「『コンクールに突入する前に、喉のつかえは取っとけ』って。でももちろん、真尋とみんながよければの話だ。自分から言うと命令みたいになるから、『お前から伝えてくれ』って頼まれたんだよ」
総介 「育ちゃん。ちゃんと気ぃ遣えるんじゃん!」
章 「お前な。あの人も一応教師で大人だぞ」
章、少し考える。
章 「……んー、まあ、確かに前回の合宿は、叶やロキのこともあったから悔しかったけどさ。それ以前に、合同って言いながら、虹架の力を借りてばっかりだったしな。脚本は完全に向こうのストックだったし。口を挟む余地も、その意欲も、正直なかったし……。個人的には、もっぺん挑戦してスッキリしたいかも。でないと、コンクールで勝てる気しないわ……」
律 「相変わらず、自己評価が地面にめり込んでますね。だから東堂先輩はいつまでも泥臭いんです」
章 「それも俺の持ち味なの! 泥も磨けば光るの! ……って俺、別に泥臭くないから!」
律、真尋をまっすぐに見つめる。
律 「……真尋さん。俺は、合宿、やりたいです。東堂先輩の言う通り、夏の合宿は不完全燃焼でした。後から思ったんです。向こうの持ってる音源を使うだけじゃなくて、俺にも、もっとできることがあったんじゃないかって。それから……今度こそ、真尋さんが虹架の人たちと舞台に立つ姿、見たいです。真尋さんなら、虹架を飲む芝居だってできると思うんです」
真尋 「北兎……」
律 「それから、ロキのことも」
ロキ 「俺?」
律 「インプロゲームで上手く行かなかったり、役者に選ばれなくて子どもみたいに拗ねてさ。芝居の準備でも文句ばっかりで……ホント精神的に小さい」
ロキ 「小さい!? 小さいって言うヤツがチビなんだぞ! それに、俺だって――」
律 「けど。……今のロキの芝居は、あの時とは比べ物にならないと思う。俺、ロキと真尋さんがすごいってこと、ちゃんと証明したいです」
ロキ 「……律」
律 「……」
ロキ 「フーン? おい、チビ。律ってば。お前、照れてるな。ちゃんと俺の目見ろよ」
律 「見ない。絶対」
総介 「あは♪ りっちゃんに全部持ってかれちゃったね。オレも同じ意見だよ」
総介、全員を見回す。
総介 「冬休みを終えたら、すぐにコンクール本番だ。夏の雪辱を果たして、自信付けときたいよね。それに何より、最優秀賞候補の虹架と一緒に稽古できるのは、やっぱり得るものが大きいよ」
ニヤリと口角を上げる総介。
章 「……総介。その笑い方、あわよくば虹架がコンクールでどんな演目やるか、聞き出そうと思ってるだろ」
総介 「トーゼン!」
衣月 「ふふ。それは向こうも漏らさないと思うよ? でも、僕も同じ気持ちだ。真尋。ロキ。どうしたい?」
真尋 「…………俺は、夏に虹架にもみんなにも迷惑をかけた。その理由も、全部みんなに話した通りです。だから……やりたいって言う資格がないんです。有希人といたら、また同じことになるかもしれない」
衣月 「資格だなんて……」
真尋 「……でも、あれから、みんなのおかげでまた公演ができて、文化祭の舞台にも立てた。今、昔よりも、もっと芝居が楽しい。虹架と稽古できるって聞いただけで、ドキドキする」
真尋、顔を上げる。
真尋 「前までの、ロキがいるから大丈夫としか思ってなかった俺とは、違うと思います。だから、できる、やりたい、って……思ってしまっています」
章 「“芝居バカ”、ここに極まれりだな」
衣月 「うん。それを聞けて嬉しいよ、真尋」
真尋 「でも、虹架との合宿なら、俺よりきっと、ロキのほうが……」
ロキ 「……」
真尋 「ロキ。きみはやっぱり、トールやバルドルたちと……その……」
ロキ 「『仲悪いのに、合宿なんか平気か?』って? 平気じゃねーな。顔合わせるだけでイラつく。けど、もっとイラつくのは……そんなあいつらの前から、逃げることだ。律の言う通り、夏の合宿のインプロは失敗した。タカオカにも選ばれなかった。けど、あの時とは違う」
ロキ 「オーディンの条件のために、嫌々やってるんじゃない。今の俺は……芝居が楽しいからやってるんだ。中都の芝居は、虹架に負けない。だから合宿からも逃げない」
ロキ 「タカオカにも、今度は、ロキ様舞台に立ってくれって頭を下げさせてやる! 合宿でたっぷりビビらせて、コンクールだっていっそ辞退させてやろうぜ!」
衣月 「……ロキ」
律 「調子に乗りすぎ。……でも、俺もそう思う」
ロキ 「だから、真尋。俺は大丈夫だ」
真尋 「……うん!」
総介 「それじゃ、満場一致だね! ……くぅーっ、再びの2校合同合宿、盛り上がってきたきたー! あ、オレ、虹架から盗むべきポイント、リストアップしなきゃ!」
章 「すっげー笑顔で、小狡いこと言うな! だから悪だくみって言われるんだ。ったく」
衣月 「ふふ。それじゃ、さっそく竜崎先生に伝えてくるよ。6人みんな合宿に賛成です、って。そして……」
衣月 「僕たち中都の真骨頂を、彼らに見せてあげますってね」
律 「あ……衣月さんのスイッチが」
章 「しっかり入ったな。カチリと」
真尋 「俺も、ちょっと分かってきたよ。こういう時、気持ちで一番攻めてるのって、実は南條先輩だよね?」
ロキ 「ああ。俺も分かってきた。決めたら絶対折れないのが衣月だ」
総介 「いいね、いいね~! それもまた、中都の真骨頂!」
真尋 「……」
真尋 (有希人。今度こそ、俺、真正面から、きみの目を見られると思う。この合宿で、もう一度2人で話したい。そして──)
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