SUB3 カッコいいとこ見せちゃうよ

[東所沢駅前]


総介   「じゃ~ん! ヒロくん、見て見て! 今日ゲットした新商品はこちら~!」

真尋   「“ナゲットくん 酢豚味”……へえ。そんなの出てたんだ」

総介   「うまそーでしょ! はい、口開けてー!」

真尋   「あー……ん。……ちょっと酢っぱい……?」

総介   「酢豚味だからね! 酢とパイナップルの酸味よ! それにしても、ヒロくんてば素直~! アキなんて、こんなすぐに口開けてくんないよ~?」

真尋   「あはは。東堂は新商品より定番のほうが好きそうだしね」

総介   「そうそう! この間だってさぁ――……! ヒロくん、危ない!」

真尋   「えっ?」


 2人の真横を自転車がすれすれで通り過ぎる。


真尋・総介「「!!」」


総介   「……ひゅー、あっぶないな……! 自転車であんなスピード出してさ~! ……ヒロくん、大丈夫だった?」

真尋   「うん、西野がかばってくれたから、なんともないよ。ありがとう。西野こそ、怪我とかしてない?」

総介   「いやいや、オレはいーの! ヒロくんさえ無事なら大丈夫だよ~!」

真尋   「でも俺、わりと頑丈だし。自転車くらいもしぶつかっても、擦り傷とかで済むと思う。西野が危ないほうに回ってまでかばったりしなくていいのに」


総介   「…………ヒロくん。大丈夫じゃないよ」


真尋   「え?」

総介   「……今のが、もしトラックだったら? 万が一、怪我してたら? オレが一緒にいるときは、絶対、そんな危ない目には遭わせられない。どうしてか分かる? ヒロくんは、ただの友達じゃない。オレの……オレたちの大事な役者だから」

真尋   「……西野」

総介   「オレは怪我しようが、這ってでも演出はできる。だけど役者は違う。ヒロくんの代わりなんていない。自覚を持てとまでは言わないけど、ケガしても大丈夫だなんて、言わせないよ」


総介   「もちろん、ロキたんにもね!」

真尋   「……西野。ごめん、ありがとう。そうだよね。みんなに協力してもらって舞台に立ってるんだ。俺も、もっと気をつけ――」


総介   「……なーーーーーーーーーーーーーーーーーーーんてね!」


真尋   「え?」

総介   「あはは! 今のオレ、どうだった!? ねえねえ! カッコよかった!? ねえ!?」

真尋   「……う、うん」


総介   「言いよどんじゃイヤ~!」

真尋   「うん。カッコよかったよ」

総介   「目が本気じゃなーい! やりなおし!」

総介   「看板役者渾身の、本意気の『カッコよかったよ』じゃなきゃイヤ~!」

真尋   「本意気の……。よし。『カッコよかったよ、西野』」

総介   「キャーーーー! ヒロくんこそカッコいーー!!!」

真尋   「うっ。声でか……」

総介   「そのテンションを、ぜひとも部室に帰るまで維持して! そしてみんなに、今の感じでオレの武勇伝をカッコよく語って!?」

総介   「300倍増しでね!」

真尋   「300倍か……。30倍くらいなら、なんとかなるかな?」

総介   「あははは。ヒロくんてばホント素直! 素直なのは、いい役者の証拠ってね~!」

真尋   「だけど、西野」

総介   「うん?」


真尋   「俺にとっては西野だって、大事な友達で、代わりのいない演出担当だよ。俺やロキを守るために、ケガなんてしてほしくない」


9章サブ3


総介   「……。……ずるいよ、ヒロくん。それこそ本意気じゃん。セリフの迫力ありすぎ!」

真尋   「いや、今のはセリフじゃなくて――」

総介   「もー、そんなヒロくんには、ナゲットくんもう1つサービスしちゃう!」

真尋   「むぐ。きゅうにくひに入れないれよ……」

総介   「あはは。……これだから、ヒロくんの魅力をもっともっと知らしめたいって思っちゃうんだよね」

総介   「役者としても、人としても」

真尋   「うん?」

総介   「なんでもありませーん!」




[中都高校_演劇部部室]


ロキ   「おっそーーーーい! 遅すぎるぞ! 真尋と総介のヤツ!」

律    「うるさい。神サマは、たった10数分程度静かに待つことすらできないわけ?」

衣月   「2人が買い出しに行ったの、駅前のコンビニだから。もうすぐ帰って来ると思うよ」

章    「総介の奴が、新商品がどうとか、頼んでもないもの買い漁って時間食ってる気はしますけどね……」

ロキ   「大事な大事なかけがえのない看板役者の腹が減りすぎて、しぼんでも知らないぞ!」

衣月   「ふふ。それは困るかな。今、ピッタリのサイズで衣装作ってるからね」

律    「どうせ、反動でアホみたいに食べるからむしろ太りますよ」

ロキ   「地味助、ちょっとあいつら呼んで来い! ほら! 行け地味助! しっしっ!」

章    「『しっしっ』は追い払う時のやつだろ!? 俺が呼びに行っても、大して変わらないって!」


 真尋と総介が部室に戻ってくる。


総介   「たっだいまーーーー! 中都演劇部の看板役者と、天才演出家のお帰りだよー!」

ロキ   「やっときた! 真尋! ほかほかアップルパイ!」


 ロキ、真尋へ飛びつく。


真尋   「ただいま……わ、ロキ、飛びついたら危ないよ」

総介   「さあヒロくん! さっきの! 武勇伝を! 演劇部の民に聞かせて差し上げるのです!」

章    「武勇伝? 叶が何かやったのか?」

律    「真尋さんなら、知らず知らずのうちに1日3善くらいしてそうですもんね」

衣月   「聞きたいな、真尋。どんないいことをしたの?」

真尋   「いや、俺じゃなくて、西野が――」

総介   「オレオレ! オ・レ・の武勇伝だってば!! みんな、なんでヒロくんだと信じて疑わないの!?」

律    「日頃の行いじゃないですか」

衣月   「総介の武勇伝か……。危険なことをしたわけじゃないよね?」

章    「懸念は分かります。けど、大したことない話でもいつも3倍くらい盛ってるだけですから」

真尋   「あ、そうだ。30倍にしなきゃいけないんだった。ええと……よし。行くよ」


真尋   「太古の昔、この国には自転車を危険に乗り回す、通称、チャリ族という野蛮な種族がいて――」


ロキ   「タイコの……チャリゾク……? 駅前のコンビニに、そんなのいたのか?」

総介   「ヒロくぅん! 盛る方向性と盛り方がちょっと違ぁう!」

章    「いったいなんの話だよ。タイムスリップでもしてきたのか?」

真尋   「簡単に言うと……、西野がカッコよかったって話」

総介   「ヒロくぅぅぅうん! 30分の1に割愛しないで!? 小出しにしている、オレの貴重なかっこいい瞬間を……!」

律    「そもそもありましたっけ、そんな瞬間」

章    「いや。もう10年以上一緒にいるけど、めったに拝めない瞬間だな、それは」

総介   「りっちゃん! アキ! そんなこというお口には『ナゲットくん 酢豚味』お見舞いしちゃうぞ!」

章    「むぐ。うわ酸っぱ!! なんだこれ!!」

律    「……まず……」

衣月   「ふふ。大丈夫、総介がカッコいいことはみんなちゃんと知ってるよ」

真尋   「うん。それに……俺、西野のためにも、もっと自分を大事にしようと思った。そんな風に思わせてくれるんだ。西野はやっぱり、最高の演出担当だよ」

総介   「……自分を大事に……。ん。それが伝わったなら、すげー嬉しい」

ロキ   「つーか、一番カッコいいのは俺だろ? だから、そのナゲットをよこせ、総介!」

章    「ロキ。悪いことは言わない。それはやめとけ! お前も自分を大事にしてくれ……!!」

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