SUB2 中都文化祭 side 虹架
[東所沢駅前]
ヘイムダル「来たぞーーー!! 中都の文、化、祭っ!!!」
バルドル 「ふふ。ここはまだ駅ですよ? 今日のヘイムダルは、いつも以上に元気いっぱいですね!」
ブラギ 「今日に限ったことではないでしょう。この桃色頭は、いついかなる時も無駄に騒々しい」
有希人 「水を差したいわけじゃないけど、文化祭じゃなく、演劇部の公演を観に行くだけだからね?」
トール 「ああ。体育館の後ろのほうでこっそり本番だけ観て帰る、だろ? 分かってる」
バルドル 「有希人くんが来てるってお客さんたちに知られたら、大騒ぎになってしまうかもしれませんからね」
ヘイムダル「分ーかってるって! その話、今日だけで、100回は聞いたからなーーー!」
ヘイムダル走り出す。
トール 「さすがにそんなには言ってない。っておい、走るな! ヘイムダーーーーーーール!」
ブラギ 「……ノルンの手によって未来が確定しましたね。この一連の流れ、最悪の結末への伏線でしかない」
[中都高校_廊下]
ヘイムダル「おお! オバケヤシキだ! 中都のも面白そー! あっちの喫茶店は、みんな変な格好してるぞ! なあなあ有希人! どれから見て回る? どこ行きたい? なあ、有希人ってば!」
有希人 「……もう、ヘイムダル」
トール 「シッ。有希人の名前を大きな声で呼ぶな。言ったはずだぞ、“こっそり”だって」
ヘイムダル「覚えてるってば。けど悪いのはオレじゃない、こーんなに楽しそうな文化祭のほうだ!」
ブラギ 「まるで、どこぞの狡知の神のような言い草ですね。祭りに責任転嫁するなど、愚劣が過ぎます」
ヘイムダル「あ! あの丸いの、たこ焼きだぞ! タイムサービスで2つ増量中だって! 有希人―!」
有希人 「……はは……仕方ない。公演が始まるまで、ヘイムダルに付き合おう」
ブラギ 「懐の深いことですね。ここにいると知れて困るのは、貴方ではないのですか?」
有希人 「俺はいいけど、中都の人たちに迷惑をかけないように、気配りだけはしておくよ。それに、神様にとって、こういう行事は魅力的みたいだしね」
ヘイムダル「たこ焼き、10人前くれーー!!!!」
トール 「ヘイムダーーール!!! 誰が食うんだ、そんなに!!!」
有希人 「ふふ。それにしても……文化祭って、学校によってまったく違うものなんだね。虹架のは大人の手が入って、本格的なイベントになるから……中都は手作りって感じがして、いいな」
バルドル 「そうですね! 力を合わせて、文化祭を盛り上げようっていうみなさんの想いが伝わってきます。まるで、中都演劇部のお芝居を観ているみたいです!」
有希人 「……そう、かもね」
有希人 (中都の……真尋の芝居。君は今日も舞台に立つのか……。神之と、2人で……)
バルドル 「……? 有希人くん?」
有希人 「ううん。なんでもないよ」
ブラギ 「……兄さん、有希人。トールたちが呼んでいますよ。両手に、あの丸い食べ物を抱えて」
有希人 「本当だ。ふふ、あんなに大量のたこ焼き、見たことないな。俺たちも合流しよう」
ヘイムダル「──んんっ、このチョコバナナってやつも、美味い! 文化祭って美味いものだらけだな! オレなら、毎日文化祭やるぞ! やる期間が限られてるなんてもったいなさすぎる!」
トール 「学校は学びの場だ。毎日祭りをするわけにはいかないだろ。だが……料理がどれも美味いってのは同感だな。このチョコバナナの喉を焼くような甘さ、癖になりそうだ」
バルドル 「はい、ほっぺたが落ちちゃいそうです!」
有希人 「……って言いながら、バルドルはいつもの激辛スパイスを振りかけてるね?」
バルドル 「こうするともっと美味しくなるんです! あ、有希人くんもスパイス使いますか?」
有希人 「えっ。い、いや、俺はいいよ。お腹空いてないし。バルドルが全部食べて?」
バルドル 「もし必要なら言ってくださいね。スパイス、いつでもお貸ししますから! なくなっても大丈夫ですよ。予備のスパイスも、予備の予備のスパイスも、ちゃんと持ち歩いてるので!」
ブラギ 「…………あー……」
バルドル 「……ブラギ? なんだか顔色がよくないね。どうかしたの?」
ブラギ 「……なんでもありません」
トール 「さっき、ヘイムダルに引っ張られてオバケヤシキに入った後から、ずっとその調子だな」
ヘイムダル「オバケにビビって、震えてるのか? ブラギってやっぱ可愛いとこあるよな! ははは!」
ブラギ 「……その思い込み、万死に値します。ひるんでなどいません。ただ……相手を驚かせるためだけの施設を喜び勇んで作り上げ、またそこに好き好んで身を投じるとは、人間とは理解し難い生き物だと痛感しているだけです。……そして、兄さん。貴方のことも」
バルドル 「え? 僕がオバケヤシキ楽しんじゃったからブラギが落ち込んでるの……? ごめんね? じゃあ、はいこれ。お詫びの気持ちだよ、口を開けて」
ブラギ 「え? ──ンぐっ!」
バルドル 「ふふ。美味しいでしょう、スパイスチョコバナナ! 美味しいものを食べれば、元気が出るよ」
ブラギ 「……兄さ……ん!? 辛っ!? ケホッ……ひ、舌が……業火に!」
有希人 「ブラギ。俺の水でよかったら、どうぞ」
ブラギ、水を勢いよく飲む。
ブラギ 「……んっ、んん……はぁ……。くっ、こんな形で、人間に助けられるとは……!」
バルドル 「ブラギ、もしかして、スパイスが足りなかった? よかったらもう少し……」
ブラギ 「兄さん。大丈夫です。味は筆舌に尽くしがたいですが、気持ちは、もう十二分に受け取りましたので……大丈夫です……!」
バルドル 「わあ! 力強いね、ブラギ。元気が出てよかったよ!」
ヘイムダル「……おっ? なんだこれ?! みんな見ろよ、このポスター!」
トール 「うん? “ミス中都”……? 中都は男子校だろ? 女装の美しさを競うコンテストってとこか」
ヘイムダル「今年の有力候補……ってとこに、ロキとリツがいるぞ! 昨年の様子? には、マヒロとアキラみたいな女がいる! なあ! ロキが出るならオレもコンテストに出たい! ジョソーするぞ! 女を演じればいいんだろ?」
ブラギ 「けほ……誰が喜ぶというのです。ここをニブルヘイムにする気ですか?」
ヘイムダル「なんだよ、オレたちは役者だぞ! 女だって演じられて当然だろ!」
トール 「……ま、向いてる奴がやるなら、そうかもな」
有希人 「俺たちは、中都のコンテストに参加資格はないけどね。女性を演じるっていうのは、確かに勉強になりそうだ」
有希人、一瞬で女性らしい立ち方に。
有希人 『みなさん、そう思いませんこと? ねえ、トールさん』
トール 「! 俺か? 向いてる奴がやるならって言っただろ。この見た目だぞ、事故にしかならないって」
バルドル 『何事もやってみなくては分かりませんわ。わたくしも、トールさんのお声を聴いてみたいです!』
トール 「バルドルは女役を
トール、無理やりな裏声に。
トール 『……しとやかな女性の真似ごとは、私には向いていませんことよ』
有希人 「あははっ! うん…………なんか、ごめん。トール」
トール 「笑ったな、有希人。だから事故にしかならないと言ったんだ」
ヘイムダル「お前ら、面白いぞ! よーし、オレもやる! えーと、女、女だろ。女といえば……!」
ヘイムダル『人間ども。この私に跪いて、リンゴを貢ぎなさい!』
バルドル 「あれ? その口調、どこかで聞いた覚えが……」
トール 「ああ……ロキが女に変身した時にそっくりだな。まったく、ヘイムダルのロキ好きは大したもんだぜ」
ブラギ 「……馬鹿馬鹿しい。私は先に──」
バルドル 『お待ち下さい。もう1人……わたくしの妹、ブラギがここにいますわ!』
ブラギ 「!?」
バルドル 『ブラギ……やってくださいますわよね? ……ね。ねっ?』
ブラギ 「……兄さん、その目をするのはやめてください。………………チッ。やったほうが早い」
ブラギ 『みなさん、実に稚拙ですこと。その程度の女ぶりで勝った気になれるなんて、浅はかにも程がありますわ』
トール 「これは……優勝だな」
有希人 「うん、見事だ。優勝」
バルドル 「素敵です! 優勝だよ、ブラギ!」
ヘイムダル「悔しい……けど、完璧だ! オレの代わりにコンテストに優勝する権利をやるぞ、ブラギ!」
ブラギ 「要りません、そんなもの。そもそも他校生徒に出場資格はないと……」
ヘイムダル「資格ならあるぞ、絶対だ! オレを倒したんだからな! 出ちゃえよブラギ! ほらほら~!!」
ブラギ (くっ……。これこそが、約束された最悪の結末だ……!)
男子学生1「ん? なんか騒がしいな。……あの制服、虹架か?」
男子学生2「ってかあれ、神楽有希人じゃね!?」
バルドル 「わ……わわわ……!」
竜崎 「……お前ら。こんなところで何やってんだ」
有希人 「! 竜崎先生。すみません、俺たちは――」
竜崎 「うちの芝居を観に来たら、まんまと神楽が見つかった、ってところか。生徒たちは俺がなんとかしておく。お前らはおとなしく公演だけ観て帰れ。いいな?」
[
ヘイムダル「文化祭、終わったあああ! つまんない! 次の文化祭まで、あと何回寝ればいいんだ!?」
バルドル 「ふふ、ヘイムダルは本当に文化祭が気に入ったみたいですね。あ! ネットに中都のミスコンの結果が出てますよ。わあ……結局、こんな結果になったんですね……!? 文化のお祭りと書いて文化祭……。人間の生み出す文化って、本当に、奥が深いです……!」
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