SUB1 ギャグでほっこり

[中都高校_廊下]


真尋   「あ。お疲れ様です、南條先輩」

衣月   「お疲れ様、真尋。……あれ? ふふ。どうしたの? 制服にたくさん埃がついてるよ」

真尋   「あ、ホントですね。気付かなかった。ロキに頼まれて、体育用具室に入ったからかな……」

衣月   「体育用具室? なんでまた?」

真尋   「ロキが、マンガかなにかに影響されて、跳び箱の中に隠れてみたいって言い出したんです」


――――――

[回想]

[体育用具室]


ロキ   「真尋! ほら早く! 体育倉庫の鍵も、ちゃんと爺ちゃんから借りてきたぞ!」

真尋   「もう、倉庫に忘れ物したなんて嘘ついて……。お爺ちゃん先生は疑わないからなあ……まあ、いつものイタズラに比べれば、誰にも迷惑かけないし……ロキが嬉しそうだから、いいか」

ロキ   「あったぞ! 跳び箱だ! さっそく中にっ……と……。う、上のふた、意外と重いな……。真尋、手伝え!」

真尋   「はいはい。じゃあ、持ち上げるよ、せーのっ」


 2人で跳び箱上段を持ち上げる。


真尋   「ふう。開いたよ。どうぞ」


 跳び箱の中に入るロキ。


ロキ   「よっと……おお! すっぽりで落ち着くぞ! あはは! 決めた! 俺、今夜はここで寝る! 真尋も入るか? 入れよ!」

真尋   「2人入るには狭くない? まあ、やってみようか。よいしょ、っと……」

ロキ   「狭いぞ」

真尋   「だから言ったのに」

ロキ   「そっか。あははっ。よし! じゃあ、次はあっちの8段だ!!」

――――――


真尋   「しばらく跳び箱に収まって楽しそうにしていたんですが……、中で寝るのはダメだって言ったら『なら、部屋に持って帰る!』って言い出して。止めるの、けっこう大変でした」

衣月   「寮に跳び箱を持ち込むのは、さすがに許可できないな。けど、ロキは純粋で面白いね。跳び箱の中に入りたいだなんて、思ったこともなかったよ」

真尋   「ふふ。俺もです。面白がるもののツボがズレてるっていうか」

衣月   「でも、この埃はちょっと大変だ。じっとしてて? 今、エチケットブラシで取ってみるから」


 ブラシで制服のほこりを払う衣月。


真尋   「エチケットブラシ……?」

衣月   「衣装を作ってると、すぐに埃や糸くずが付くから、それを取る必須アイテムの1つだよ。ガムテープでも取れるけど、やっぱりちょっと生地が毛羽立ったりするんだ。真尋やロキが着る衣装は、布を傷めず、埃ひとつ、残したくないからね」


 真尋の制服についていたほこりが綺麗に取れる。


衣月   「……よし。ほら、綺麗に取れたよ」

真尋   「本当だ。ありがとうございます」

衣月   「いえいえ。取れると気持ちがいいから、僕にとっても、趣味みたいなもの……」

真尋   「……あっ!」

衣月   「えっ?」

真尋   「いいの、思いついちゃいました」

衣月   「おっと。久しぶりに来たね?」


9章サブ1


真尋   「来ました。じゃあ、いきますよ。──埃で、心がほっこりしました」

衣月   「……。……ふふふ、ふふふふ。埃で……ほっこり……」

真尋   「埃で、ほっこり」

衣月   「埃で……くくくくっ、あははは!」

真尋   「よかった、ほっこりしてもらえて」

衣月   「あはは。僕、本当に真尋のダジャレのファンなんだ。いつも真顔で言うのが、おかしくて」

真尋   「それは、誇りに思いますね」

衣月   「あははっ! やめて、また、夜に思い出し笑いして、律に不審がられちゃうから」

真尋   「そんなときは……コッソリ、ホッカムリしてジックリ、マッタリするといいですよ」

衣月   「あははは! ホッカムリって、久しぶりに聞いた。くくくっ……!」

真尋   「南條先輩の笑いのツボも、独特ですよね。こんなに笑ってくれるの、先輩だけです」

衣月   「そう? 心底楽しいから、僕は独特でよかったよ。ふふふ……このネタで3日は笑える……!」

真尋   「それはちょっと、長持ちさせすぎですよ。ちゃんと、新ネタ発表します。3日経つ前に」

衣月   「あはは。ありがとう。楽しみにしてる!」




[虹架高校_廊下]


ヘイムダル「布団が?」

バルドル 「吹っ飛んだ……!」

ヘイムダル「アルミ缶の上に?」

バルドル 「あるミカン……!!」

ヘイムダル「あっはっは! いいぞ、バルドル! すっげー上手になったじゃん!」

バルドル 「はいっ! ヘイムダルが教えてくれたおかげです。これで、クラスのみなさんと、もっと仲よくなれますね」

ヘイムダル「マンガで見たんだ! “オヤジギャグ”ってのは、仲よくなるためのあいさつみたいなもんらしいぞ!」

ヘイムダル「『バルドルはキレイすぎるから、恐れ多くて話しかけづらい』とか言ってる奴らもいるじゃん? そういう奴には、バルドルのほうから近付いていって“オヤジギャグ”をかましてやるんだ!」

バルドル 「はいっ!」


ヘイムダル「最後にもう1発行くぞ! ……トイレに?」

バルドル 「いっトイレ……!」

ヘイムダル「あははは! トイレに! いっトイレ! 最高だぞ、バルドル! あははははははは!」


ブラギ  「…………………………………………」


バルドル 「あっ、ブラギ! ふふっ、聞いてくれる? “オヤジギャグ”たくさん覚えたんだよ。例えば……」

ヘイムダル「本が本当に驚いた!」

バルドル 「ブックりしたなあ、もう……!」

バルドル 「……ねっ?」


ブラギ  「…………………」


ブラギ  「何が『ねっ?』なのか……皆目見当が付きませんが」

ヘイムダル「ブラギは本が好きだから、本をネタにしたのを選んだんだぞ! 違うネタの方がよかったのか?」

ブラギ  「いえ。そういうことではありません」

ヘイムダル「分かりづらかったか? “本”と“本当”と“ブック”がかかってて、“びっくり”をもじってるんだぞ」

ブラギ  「……そういうことでもありません。ご丁寧に構造まで解説していただかなくて結構です」


ヘイムダル「あっ! じゃあ、これは? イチゴがおいしくて……」

バルドル 「イチコロだ……!!」


ヘイムダル・バルドル「「あははははは! イチゴだけに!!」」


バルドル 「これも、イチゴが好きなブラギのためにヘイムダルが用意したんです! これで、ブラギとも、もっともっともーっと仲よくなれますね!」

ブラギ  「……。オヤジギャグは、あいさつではありません。仲を深めるためのコミュニケーションツールとしては、時と人を選ぶものです」

ヘイムダル「えー? マンガに、あいさつだって書いてあったぞ。それに、ちゃんとブラギを選んで言ってるぞ?」


ブラギ  (この2人、人間文化の学び方が、根本からおかしい。何より――兄さんに「いっトイレ」などと下品で低俗な発言を教えたヘイムダルは、厳科に処して然るべき)


ブラギ  (それにイチゴとイチコロは、かけかたが雑だし、駄洒落そのもののレベルも低すぎる。言葉遊びはもっと響きや語感を大事に――)


ヘイムダル「バルドル! この屋根どう?」

バルドル 「やーねー!」


ヘイムダル・バルドル「「あははははは!」」


ブラギ  「……もう……、……本当に、アースガルズに帰りたい……」

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