第9節 99%の嘘
[中都高校_体育館ステージ]
割れんばかりの拍手が起こり、
人々の笑顔が光になりロキの小瓶に集まっていく。
ロキ・真尋「「ご観覧、ありがとうございました!」」
ヘイムダル「おお! “心からの笑顔”、ロキの小瓶にたくさん集まってる! 芝居も面白かったなー! ふふん。さすが俺のライバルだ!」
バルドル 「はい! ……ここにいる人間たちの笑顔は、ロキが、仲間と一緒に生み出したものなんですよね。ロキは、きっと……僕たちが知っているロキから、変わってきていると思います……!」
バルドル 「これならきっと、オーディン様の条件も達成できますよね」
ブラギ 「……兄さん。あなたは、愚かなまでに優しすぎる。あのおぞましい狡知の神は、断じて、心変わりなどしません。人間は浅はかすぎる。あんな奴に騙されて、笑顔を振りまくとは。ラタトスクのほうがまだ利口だ」
トール 「……有希人。今日の中都は、どうだった」
有希人 「……。うん」
有希人、壇上の真尋を見つめたまま。
有希人 (真尋……。夏の合宿で、もう一度崩れていたのに……。君はまたすぐに、舞台の上へ戻ってきた。さらに深くなった芝居とともに)
有希人 「……真尋は、強いな。俺、どうやったら超えられるんだろう」
トール 「超える必要はないだろ。お前はお前だ。十分、よくやってる」
有希人 「……そうかな。ありがとう。……楽しみだね。中都との、“冬休み合宿”」
[中都高校_演劇部部室]
章 「お、見ろよロキ! 校庭でキャンプファイヤーやってるぞ」
ロキ 「キャンプファイヤー……焚き火のことか。大して寒くもないのに、なんでやるんだ?」
真尋 「うちの学校の伝統なんだよ。文化祭のシメに似合うでしょ?」
ロキ 「閉会の儀式みたいなもんか。儀式にしちゃ、地味すぎるけどな。俺様が盛大に演出してやろうか! あ。天まで届く炎の柱を作るのはどうだ!?」
総介 「お! ロキたん、突然の演出家宣言~!? ダメダメ、そのポジションはオレのだから! 日本では、終わりは素朴なのがいいんだよ。切なくて、ぐっとくるってやつ!」
衣月 「終わり、か……。高校最後の文化祭は、最高の思い出になったな」
律 「……あ……」
衣月 「来年の今頃は、僕はここにはいないんだね。全然、実感わかないな」
律 (衣月さんは、3年だから……)
衣月 「なんて。OBとして、誰よりも偉そうに部室に居座ってるかもしれないけどね。ふふ!」
律 「…………」
章 「……ぐああああ……!!」
律 「……なんですか、急に。怪獣の真似? 隠し芸? 文化祭は終わりましたよ」
章 「いやさー……ふと思い出して。じつは俺、運命的な再会をしたんだよ、昨日!」
律 「怪獣と?」
章 「んなわけあるか! お……女の子とだよ! 前に街で見かけて……その。一目で、いいなとか、思った子なんだけど……。昨日、文化祭に来てたんだ。せっかく話しかけられたのに、俺パニクっちゃって、連絡先とか、聞けばよかったなって……今更。はは。もう、二度と会える気がしない……」
ロキ 「それ、地味助の家に行く時に駅前で見かけた女のことか。見つけ出して声かけりゃ、どうとでもなるだろ」
章 「向こうから来たのにどうともならなかったから、頭抱えてるんだ! 自分で言ってて情けないわ!」
真尋 「できれば、また会えるといいね。どんな子なの?」
章 「そりゃもう、目が大きくて、髪はサラサラストレート。ちょっとクールな感じで……あ。そうだ。どことなくだけどさ、北兎の姉とか従姉妹とか、そんな感じ!」
律 「……姉……? ……まさか……」
律、眉間にシワを寄せる。
律 「……
章 「そうそう。クリーム色の……って、なんでそこまで?」
律 「……こいつ、ですか」
スマホで自分とツーショットの写真を見せる律。
章 「え!? そう! その写真の子!! なんで!? 北兎、知り合い!?」
律 「知り合いも何も……。……はぁ……。名前なら分かりますよ。
ロキ・真尋・章・総介・衣月「「「「「ええっ!」」」」」
章 「ぇぇえぇええぇ姉ぇ!? 嘘ぉ!?」
律 「嘘なら俺もよかったですよ。この、昨日無理やり撮られたツーショ写真が証拠です」
章 「ぎえええ……!! 写真可愛い……! けど、北兎の姉ちゃん……っ!」
律 「間違っても、連絡先を教えろとか、絶、対、に、言い出さないでくださいね。あいつはどう考えても東堂先輩の手に負える人間じゃないですから。それ以前に……俺の顔、次にその目で見たら、はっ倒します」
章 「だ、だって、似てるんだから仕方ないだろ!!」
律 「目つぶししていいですか?」
衣月 「こ、こら、律。そのテンションは、今までになく本気だよね?」
総介のスマホにメッセージが届く。
総介 「……ん? 新規メッセージ…………はは。これは、これは」
真尋 「ん。どうしたの、西野?」
総介 「育ちゃんに無理やり連絡先聞いてさ。鷹岡洸に、例の件でお礼のメールしておいたんだよね。ああいう人だし、反応なんかなくて当然だと思ってたんだけど。今、返事来た」
ロキ 「ふーん。なんて書いてあったんだ?」
――――――
『礼は要らない。“期待してる演出家”と言ったのは、99%嘘だ。この借りは、俺を超える演出家になって返せ。できるならな』
――――――
総介 「……だって、さ」
章 「端的に感じ悪い。相変わらず“王様”だな……」
真尋 「ふふ。でも99%嘘ってことは1%は期待してるってことでしょ?」
ロキ 「俺、やっぱあいつ嫌いだぞ。超えろとかなんとか、偉そうに! 総介はもともと、あいつに劣ってなんかない。俺と真尋が、舞台の上でどんなふうに芝居したらいいか、分かってるのは総介だけだ」
ロキ 「俺の“条件”を達成する芝居も、お前にしか作れない。あいつの1%の期待なんかどーでもいから、俺様の100%の信頼に応える芝居を作れ、総介!」
律 「いつから、西野先輩のこと100%信頼するようになったわけ?」
衣月 「ふふ。鷹岡さんの作るものもすごいけれど、きっとロキの”条件”を達成する芝居は……総介と、ここにいるみんなでしか作れない。そう思うよ」
総介 「……へへっ」
真尋 「でも、西野が鷹岡さんを超える……か。それは、中都演劇部が虹架を超えるってことだね」
ロキ 「ああ。“
総介 「ヒュ~ゥ。神様ァ! ……ってなところで、片付けはそろそろいいかな! んじゃ、文化祭の成功を祝って打ち上げしよー! ジュースは買ってありまーす!」
章 「食べ物、もっと欲しいよな。まだどっか出し物やってるかな」
ロキ 「なら、リンゴも買ってこい」
章 「リンゴは売ってないって」
ロキ 「なら、答えは1つだ。地味助が1人でスーパーへ行け」
章 「わざわざ!? 行くのはいいけど、なんで1人!?」
衣月 「僕もついていくよ。スーパーのほうが品揃えがいいだろうし」
律 「衣月さんが行くなら、俺も行きます」
総介 「あ、外に出る感じ? それなら、打ち上げファミレスとかでしちゃう?」
真尋 「いいの? せっかくジュースを用意したのに」
総介 「いいのいいの。未開封だし! それに、なんか願掛けしたくなったから。このジュースは、コンクールで最優秀賞とったら飲む。そういうことにしない?」
ロキ 「フン。その時は、こんな量で足りると思うなよ。飲み物も、ごちそうもだ!」
総介 「もっちろん! それじゃ、総介くんと最高の仲間たち! ファミレスで、打ち上げ……兼、今日の反省会ね!」
真尋 「反省会……。そっか。そうだよね。うっかり、ただ浮かれるところだった」
章 「やれやれ。騙し討ちかよ……いい笑顔しちゃって。こういうのも、お前らしいわ」
<第9章 本編終了>
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