第8節 中都の文化祭

[中都高校_2年廊下]


 文化祭初日。


竜崎   「文化祭ってのは相変わらず苦手だ。目がチカチカしやがる……」

草鹿   「それ、また二日酔いだからじゃない? そうでなければ歳だよ、歳」

竜崎   「お前こそもう少し歳を考えろ。さっきコスプレ喫茶を手伝ってたって聞いたぞ」

草鹿   「コスプ……はは、誰から聞いたのそれ~。語彙というか、発想が古くない? あれはコスプレ喫茶じゃなくて、“異世界喫茶”だから」

竜崎   「異世界だ?」

草鹿   「そう! お客さんは異世界から来た人って設定で。謎のメニューでおもてなしするんだよ。と言っても、メニューの名前が独特なだけで食べ物自体はごくごく普通だけどね~」

竜崎   「……楽しいのか、それ」

草鹿   「意外と。みんなノリノリだよ? 村人とか吟遊詩人とか、預言者とか職業になりきってお客さんの応対したりするし」

竜崎   「俺にはさっぱり理解できん」

草鹿   「はは。だからモテないんだよ、育ちゃん。オジサンなんだからー。それはそうと、こんなところでブラブラしてていいの?」

竜崎   「ああ。演劇部の公演は明日だからな。今日は俺も、見回りという名のフリーだ」

草鹿   「そっか。じゃあ育ちゃん、俺と一緒にお化け屋敷に挑戦だ!」

竜崎   「断る」

草鹿   「あっちだよー、ほら行こう、すぐ行こう! 生徒ががんばって作ったお化け屋敷、見てあげないと!」

竜崎   「おい、引っ張るな!」




ロキ   「おおお……! これが、文化祭か! この前の東所沢まつりと比べれば質素だが、いつもの学校が、見違えたぞ! どれも美味そうだし! どのクラスも、ヘンテコな出し物やってるし! あははっ!」

真尋   「ロキ。あわてずに、ゆっくりまわろうよ」

ロキ   「ゆっくりなんかしてられるか! なあ、総介!」

総介   「んー、オレは意外と、写真でも撮りながら、のんびりまったりがいいかな。年に1度の行事だし、じっくりと噛みしめるように楽しみたいね~」

ロキ   「ほう……なるほど」


 ロキ、少女の姿に変身する。


少女ロキ 「……あたしがお願いしてるのに、言うこと聞いてくれないんだ?」

総介   「んにゃっぴ!? ひえ、ロ、ロキ子ちゃん……!」

真尋   「西野。口から変な擬音出てる」

総介   「で、出るよ普通! 出ないの? ロキ子ちゃんがいるんだよ、オレの目の前に!」

真尋   「でも、中身はロキだよ?」

総介   「分かってる。分かってるけど……っ。やばい無理、心臓んにゃっぴすぎて止まらない。いや本番は明日だ。今止まっちゃマズい! けど……あ~、ダメだ。この、人のものとは思えない魅力にはやっぱり――っ!」

少女ロキ 「なにしてるの、総介? さっさとついてきて。まずは食べ物からよ」

総介   「は、はい……喜んで!!!!」

真尋   「あはは。腕組んで引きずられてる。身も心も、振り回されてるなあ」




[中都高校_1年廊下]


 衣月が他校の女子生徒に囲まれているところを、遠目に見る律。


律    (……なんなの、あれ。知らない女子が、衣月さんに群がってる。一緒に写真を撮りたいとか、図々しい。あの人は文化祭の出し物じゃないのに。衣月さんも衣月さんだ。断ればいいのに、丁寧に対応して。優しすぎるんだよ。そういうところ含めて、尊敬はしてるけど……)


 衣月、他校女子生徒をいなして律の元へ。


衣月   「お待たせ、律」

律    「お疲れ様です。……けど別に、待ってないですよ」

衣月   「そう? 僕は、律とまわるの楽しみで待ち遠しかったよ。僕と写真撮りたいって盛り上がってくれるのは、演劇部の宣伝にもなってありがたいけど、正直、ようやく解放してもらえてホッとしてる。やっぱり律のそばが一番落ち着くよ」

律    「……衣月さん」

衣月   「さ、一緒にクレープ食べに行こうか。バレー部のは、毎年すっごく美味しいんだよ」




[中都高校_2年廊下]


少女   「ふん。人が多すぎて何が何やら……。これだから、他校って好きじゃない。あ……ねえ。そこのあんた」

章    「はい……。……いぃいいい!?」

少女   「演劇部の公演を観たいんだけど、どこでやってるか教えてくれない?」


章    (あ、あの時駅で見かけた女の子だーー!! ひえぇえ、近くで見ると本当に美人……! こんなところで再会するなんて……運命。英語で言うと、デスティニーってやつなのでは!?)


9章8節


少女   「ねえ、話聞いてる?」

章    「は、はいっ! 演劇部の公演? 公演は、体育館である……んですっけどっ。今日じゃなくてあし……明日! 明日やります、はい!」

少女   「明日? とんだ無駄足ね……。あいつ、そんくらいメールで教えときなさいよ。……ありがと。あんた親切ね」


 少女が立ち去る。


章    「さ、さようなら……」


章    (はー、すごいオーラだった……。美少女・オブ・美少女。あの顔、本当好き……。……でも、やっぱどこかで見たことある気がするんだけど……うーん?)


雄一   「おらあ、どいたどいた! 大道兄弟様のお通りだぜ!」

章    「のわっ!?」

雄二   「兄ちゃん、たこ焼き屋はあっちだ」

雄三   「その後はたい焼き屋に突撃だよな! あ、兄ちゃん! チョコバナナも食いたい! バナナ!」

雄一   「うるせえ! 文化祭巡りにはな、流儀ってモンがあんだよ。俺についてこい!」


雄二・雄三「「兄ちゃん、カッコいい……!!」」


 風のように通り過ぎる大道兄弟。


章    「あいつら、まるで嵐みたいだな……」


章    (でも、部活動休止中も、しっかり大道具制作、進めてくれてたんだよな。見た目はアレだけど。“おとこ”だよなあ、あいつら)


総介   「やっほー、アキ。お1人様満喫中~?」

章    「総介。って、ええ? みんな一緒じゃん。俺以外一緒に行動してたのかよ。ひどー!」

真尋   「ううん。南條先輩と北兎とは、さっき合流したばかりだよ」

衣月   「最初は別行動だったのに。なんだかんだつるんでしまう僕たちなのでした。ふふ」

律    「東堂先輩、ぼっち、すっごく似合ってますよ。そのままでもいいと思いますけど」

章    「そうそう、どうせ俺は地味だしぼっち……って何て悲しいセリフを言わせるんだ!」

総介   「そうそう。アキにはオレがいるから! 毎年一緒にまわってるオレが!」

章    「あ、うん。サンキュ。それはそれで、口に出されると虚しいけどな……」

ロキ   「地味助も一緒に行くぞ。まだ、校庭の方をまわってないんだから……」


 遠くから、総介へ駆け寄る人影。


芸能記者 「――あ。やっと見つけましたよ!」

総介   「……ん?」

芸能記者 「こんにちはー! “芸能スプラッシュ”です! 突然ですが、西野かずささんの息子さんですよね!」

律    「こいつら……。こんなところまで」

ロキ   「おい。写真撮るなら俺を撮れ。カッコよくな。じゃなきゃどっか行け! 燃やすぞ!」

総介   「あー、ロキたん、いいよいいよ。ここはオレが……」


 大道兄弟がドタバタと戻ってくる。


雄一   「おらおら、そこの怪しい奴! 演劇部に用ってんなら、俺を通してもらおうか!」

雄二   「兄ちゃんは中都のカオだからね」

雄三   「最近は、演劇部の裏のカオもやってるんだよね!」

雄一   「やってねえ! ……ただ、俺が大道具作りに関わってる以上、恥ずかしい芝居にはさせられねえからな。その障害になりそうなモンは俺がシメる。それだけだ」

雄二・雄三「「兄ちゃん、カッコいい!」」

章    「嵐が戻ってきた……」

雄一   「例え火の中、水の中! 炎上なんざ怖くねえ。さあ、かかってきやがれ。何を聞きたい?」

芸能記者 「え、ええと……。君たちじゃなくてね?」

総介   「あはは。ありがと、大道ブラザーズ。でもここはオレにまかせて。どーも記者さん! 中都の文化祭へようこそ! そしてそして、取材あざーっす♪ じゃーん、この2人がオレたちの看板俳優です!」


 総介、ロキと真尋の肩を抱く。


真尋   「わっ。西野」

ロキ   「なんだよ。引っ張るな」


総介   「キラキラしてるっしょ、宝石みたいでしょ!? 見た目もいいけど、演技力だって抜群。オレたち演劇部は、最高で最強なチームなんですよ! モチロン、そっちの兄弟も含めてね!」

雄一・雄二・雄三「「「イエーイ!!!」」」

総介   「虹架にじかけの“神5かみファイブ”も敵じゃないんで。明日の本番、ご期待よろしくぅ♪」


律    「はぁ……。また煽ってる。本当に、西野先輩は……」

章    「懲りてないな。ま、憶測で勝手なこと書かれるよりマシか」

衣月   「そうだね。きっと、いい宣伝になるよ」


章    (やれやれ。結局、突っ走ってばっかりか。でも……これが俺たちの総介だ)




[中都高校_体育館舞台袖]

 

 文化祭2日目。

 演劇部公演、本番前。


章    「いよいよ、本番だな……! くそ。緊張しすぎてやばい……! 叶、ロキ。いけそうか?」

ロキ   「フン。当然だろ。俺を誰だと思ってる」

真尋   「俺も平気……と、言いたいところだけど……。部室や視聴覚室とは、規模が全然違うから。不安がないと言えば、嘘になる」

衣月   「真尋……」

総介   「ま、そうだよね。けど、もう、ヒロくんだけが抱えなくていい」

律    「はい。真尋さんなら大丈夫です。俺たち、信じてますから」

真尋   「……うん。ありがとう。俺も、きっと大丈夫だって思える。みんながいるから、不安よりも、演じたいって気持ちのほうがずっと強い。まるで、子役の頃に戻ったみたいだよ」

総介   「子役の頃……か。……ばあさんや。ヒロくんは立派に育ちましたねえ」

章    「孫を見る目で叶を見るな。ばあさんを見る目で俺も見るな! つーか、叶はもともと立派だし、育ったのは叶だけじゃないだろ。ここにいる全員だ。……お前も含めてな」

総介   「……はは。そーだな!」

真尋   「今日、成功させられれば、“心からの笑顔”がたくさん手に入る。がんばろうね、ロキ」

ロキ   「フン、当然だ。いつもの1億倍は手に入れてやるぞ!」

総介   「幕が上がる時間だね。……2人とも。演出担当にできるのはここまで。あとは、任せた!」


ロキ   「おう。行くぞ、真尋!」

真尋   「うん!」

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