第4節 バラバラの気持ち

[中都高校_廊下]


雄一   「よお、南條。次の演目用の廃材、持ってきてやったぜ。ありがたく思えよ!」

雄三   「思えよ! 今回も、兄ちゃんがガッツリ交渉して用意したんだ。しっかり使え!」

衣月   「うん、大事に使わせてもらうよ。大道、いつもありがとう」

律    「……ありがとうございます」

雄一   「フン……お前ら、一応元気そうだな。いや、心配してるワケじゃねーぞ。……最近の演劇部、なんかごちゃごちゃ言われてるだろ。ウゼえよな。オレたちがシメてやろうか」

衣月   「はは。ありがとう。でも、きっと大丈夫だよ。問題の投稿も、ちゃんと消したしね」

律    「衣月さん、そろそろ部活に戻りましょう」

衣月   「そうだね。文化祭は待ってくれないから、ちゃんと準備を進めて――」

雄二   「……! あの。ちょっと……」


 スマホを触っていた雄二が律に話しかける。


雄三   「雄二兄ちゃん、どうしたの? いいバナナ情報とか見つけたー?」

雄二   「北兎。……このSNS投稿……お前、あの曲アップしてる“リツ”なのか? 顔バレしてるぞ」


律    「……は?」




[中都高校_演劇部部室]

  

章    「顔バレ? どういうことだよ、それ!」

衣月   「うん。大道たちと一緒に、ちょっと調べたんだ。総介があの投稿を消して、更新も停めたことで、炎上は収まりかけていたんだけど……。注目されたかったのかな……。中都の生徒の誰かが、僕たちを隠し撮りして、投稿してたみたいなんだ。1人1人の顔が、しっかり分かる状態でね。“今話題の演劇部”ってコメントつきで拡散してる」

真尋   「でも、俺やロキは公演動画で顔を出してます。みんなも記念写真がSNSに載ったことありますよね」

衣月   「うん。今回の問題は、不特定多数の人たちに面白半分の炎上ネタとして使われてるってこと。それに……」

律    「俺の写真は、ネットに曲アップしてる“リツ”らしい、って噂と一緒に出回ってます」

章    「え……!」

律    「“メジャーデビューするから退学するかも”とか、今さらって感じの情報つきで。“リツ”は、ただの趣味です。ネットに素性とか、絶対出したくなかったのに。あれで収束しないだろうとは思ってましたけど。俺的には、最悪の事態です」


総介   「……っ……」

章    「総介。これ、どうする?」


総介   (……でも。オレが、ここで諦めたら……)


総介   「りっちゃん。ごめんね。謝る。でもさー! りっちゃんもさ、これを機会に“リツ”の力、貸してくれるとかはどうよ! うちの芝居のBGMが“リツ”の作品だって知ったら、観に来てくれる人、もっと増えると思うんだよね!」


律    「は……?」

衣月   「総介。さすがに、それは――」

総介   「ね。そうすれば、2人の芝居はもっとよくなるし、ロキたんの“条件”達成も近づく! ほら、いいことだらけ。りっちゃんだって、大好きなヒロくんの役に立てるなら嬉しいっしょ~?」

律    「……。“リツ”の音楽目当てで集まった有象無象が、ロクに芝居も見ずに、好き勝手言う。それでも真尋さんの役に立ちますか? それで、西野先輩はいいんですか? そもそも、俺が“リツ”だってことは、西野先輩に気付かれるまで、演劇部でも言うつもりなかった」


律    「……前に、上辺だけのオトモダチ作らせようって、クラスメイトに裏で声かけたことありましたよね。あの時は、俺のためだったって分かったし、結果的には俺も、大事なものに気付けました」


律    「けど……俺のこと勝手に決めつけて、気持ちを無視するやり方は好きじゃないです」


総介   「……」


9章4節


律    「また、同じことするつもりですか。この間のテレビだって、東堂先輩に無理させて。言いたくないですけど言います。先輩、一体、何様なんですか?」

章    「北兎……」

律    「……俺、しばらく部活に顔を出すのをやめておきます。少なくとも、この事態が収まるまでは」

衣月   「律……気持ちは分かるけど、今は、部の中で仲間割れをしている場合じゃ……」

律    「……衣月さんも、もし素性を詳しく書かれたら、無事じゃすまないかもしれません。気を付けようもないですけど。……失礼します」


 律、部室から出ていき、扉をピシャリと閉める。


ロキ   「……なあ。サッパリ分からないぞ。お前ら、何をそんなに気にしてそんなウジウジしてんだ? 写真撮られたり、噂されたり。そんなの、人気が出れば当たり前だろ?」

真尋   「俺も、今更気にしないけど……。北兎は心配だし、これ以上騒がれて、稽古ができなくなると困る」

章    「……」


章    (……分かってる。総介のあれは悪手だった。俺が今、こいつにガツンと言ってやるべきなんだ。明らかにやりすぎだ、いい加減にしろって。でも……俺は……俺だけは総介の味方でいてやりたい。そうじゃないと、こいつは……。でも……どうすりゃいい……)


章    「…………くそっ」


総介   「……『くそ』、ね。だよな。アキも、そっち側だよな」

章    「え?」


総介   「あはは。りっちゃんには、もっぺん謝らなきゃね! でもさ、後悔しても遅いし、過去は戻らないし! こうなっちゃった以上、前向きに考えよーよ! あ。いっそ、公開稽古とかしちゃう!? こういうのはさ、隠すから騒がれるんだって。俺たち潔白でーすってオープンにすれば大丈夫!」

衣月   「総介……。さすがにそれは、やりたいことと違うんじゃないかな」

真尋   「公開稽古……。西野、本当に心からそう思ってる? このやり方で、西野はいいの?」


 竜崎が部室に入ってくる。


竜崎   「おい。全員揃ってるな――いや、北兎がいないか。まあいい。お前ら、今すぐ部活やめて帰れ」

章    「え……どういうことっすか」

竜崎   「部活動停止だ。今日だけじゃなく、落ち着くまでな。あの炎上からの写真流出。職員室で大問題になってる」

真尋   「そんな。文化祭まで日もないんです。稽古させてください」

ロキ   「道具作りとか衣装とか、まだまだやることあるんだぞ! それに、写真ばらまいたのは、俺たちじゃないだろ!」

衣月   「真尋、ロキ。仕方ないよ。確かに、写真を投稿したのは僕たちじゃない。でもこれ以上、生徒たちや周りを刺激できない」

竜崎   「そういうことだ。西野。いい機会だと思って、一度頭を冷やせ」


総介   「…………」

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