[瑞芽寮_ロキと真尋の部屋]
ロキ 「あーあ。残念だなー。外に出て、人間の世界のこともっと知ったら、もっともーっと、いい芝居ができるんだけどな～」
真尋 「……ロキ。言いたいことは、はっきり言おう？」
ロキ 「ヒマだ！ つまんない！ どっか連れてけ！」
真尋 「うーん。やっぱりそうか。でもこの前、一緒に遊園地行ったよね？」
ロキ 「この前はこの前！ 今は今！ 俺は今ヒマなの！！ もてなせ！ 喜ばせろ！ 俺を！ 今！！」
真尋 「もう……。……ロキが喜びそうなもの、か。それなら、あれはどうかな？」
[東所沢公園]
ロキ 「すごかったな……！ あの店！！ 数え切れないくらいアイスがあったぞ！」
真尋 「多分、３０種類くらいだと思うよ。でも、ホントに俺が選んだ味でよかったの？」
ロキ 「リンゴはなかったけど、知らない名前のがたくさんあったからな。真尋が選んだ“俺の好きそうな味”で、今日のところはよしとしてやる！」
真尋 「けっこう悩んだよ。ロキはリンゴ以外だと、どんな食べ物も、同じくらい好きだっていうから」
ロキ 「よし。食べてみるぞ！ あー……ん！ な……なんだ？ 甘いのに……甘くない？ スーッっとするけど……甘い？ ……ハハッ！ なんだこれ！ 面白いぞ！」
真尋 「チョコミント。色が綺麗だし、味も一筋縄ではいかない。ロキにぴったりでしょ？」
ロキ 「？ どういう意味だよ？」
真尋 「魅力的だって意味」
ロキ 「へへっ。ならいい！ あ、真尋のバニラも食わせろ！」
真尋 「逆に、俺のはロキが選んでくれたけど、なんでバニラなの？」
ロキ 「アイスはこれが一番、基本の味だろ？ 色も白いし、なんにでも染まれるって感じだ。お前はなんにでもなれる役者だからな。これが一番似合うぞ」
真尋 「……そんな風に思ったことなかったな。そう言われると、いつもより美味しく感じるよ」
ロキ 「美味いか？ 一口食わせろ！ あーーーーーあむ！ うん、美味い！」
真尋 「あは。一口が大きいってば。なら、俺にもチョコミントちょうだい？」
ロキ 「ヤダ。これは俺のだ」
真尋 「俺のは食べたくせに……」
ロキ 「俺のものは俺のもの！ 真尋も真尋のものも、俺のもの！」
真尋 「そんな“スモモもモモもモモのうち”みたいな……。いいよ。じゃあ――」
真尋 「俺だって勝手に一口、もらうから。あーー……ん」
ロキ 「あー、こらっ！ お前の一口だって、でっかいぞ！」
[都内繁華街]
律 「衣月さん、荷物１つ、持ちます」
衣月 「いいよ、大丈夫。……と言いたいところだけど、さすがに布、買いすぎたかな。ありがとう。じゃあお言葉に甘えて、こっちの袋持ってくれる？ 律がいてくれてよかった。衣装の意見もいろいろもらえたし。何かお礼しないとね」
律 「……俺は、衣月さんと出かけるの楽しいんで、気にしないでください」
衣月 「そういうわけにはいかないよ。何かないかな、律の好きそうなもの。……あ、あそこのセレクトショップ。前に入ったことあるんだけど……」
律 「そうなんですね。俺は、入ったことな――」
律をじっと見つめる衣月。
衣月 「………………………………」
律 「……い、衣月さん？どうしたんですか……じっと見て」
衣月 「……律」
律 「え、はい」
衣月 「似合うと思うんだ！」
律 「……な、何がですか！？」
衣月 「あの店に置いてあるブランドの服！ 僕は背があるせいかあんまりしっくりこないんだけど、律の華奢でシャープな雰囲気には、きっとぴったりだ！ もっと早く気付けば……いや、今気付けてよかった！ さ、早く行くよ、律！」
律 「…………スイッチ入っちゃたな……」
[東所沢_喫茶店]
衣月 「ごめんね、長い時間付きあわせちゃって。僕、服のことになると、ちょっと感覚がおかしくなるみたいで」
律 （自覚はあるんだよな……。寝起きのことも、自覚してくれればいいのに。今朝も……）
――――――
[回想]
[瑞芽寮_衣月と律の部屋]
布団の中から出ない衣月。
衣月 「……約束……？ 今日は日曜だろ……寝かせろ！ チッ。……なんで、朝なんか……来るんだよ……」
――――――
律 （あんなに荒れても、自覚ないんだもんな。覚醒したら、いつも通り優しいし）
衣月 「律？」
律 「いえ。なんでも」
衣月 「たくさん試着してくれてありがとう。あの中からどれか、誕生日にでもプレゼントさせて？」
律 「今日もう、買ってくれたじゃないですか。だてメガネ」
衣月 「それは１日付き合ってくれたお礼だよ。すごく似合ってたから。知的な感じと抜け感が出るし、フレームの濃さで律の目力が強調されて、可愛かったよ」
律 「…………」
衣月 「あれ……気に入らなかった？」
律 「…………いえ。見た目のことそんなに直に言うの衣月さんだけなので……ちょっと……」
衣月 「照れた？」
律 「……照れました」
衣月 「ふふ。じゃあもっと褒めて、もっと慣れてもらわなきゃね。僕はまだまだ、律の素敵なところを見つけるつもりだし、ちゃんと伝えたいから」
律 「ええと……。お礼にお礼って、変ですけど、ここのモンブランセットおいしいんで……おごらせてください。俺も、少しくらい衣月さんに、カッコつけたいです」
衣月 「ふふ。ありがとう。僕はコーヒーと合わせようかな。律は？」
[東堂家]
総介 「たっだいまー！ ふぃーっ、久々の我が家は、やっぱほぐれるぅ～！」
章 「勝手にほぐれるな。ここは一応、お前の“我が家”じゃない」
総介 「文子さん、オレの麦茶、濃いめ＆氷多めね！ あ。当然覚えてる？ だよねー！ ラブユー！」
章 「人の母親をアゴで使うな！ 母さんも乗るな！ ……やれやれ。この感じ、久しぶりだな」
総介 「オレら揃って帰るのはね。アキはこないだ帰ったばっかっしょ？ ロキたんと♪」
章 「そーだよ。母さんがアルバム出してきたり、中学の時の台本が出てきたりで、大恥かいたぜ」
総介 「あっ！ オレもアルバム見たーい！ ふみぽよー、追加オーダーいいー！？ アルバムー！」
章 「人の母親をあだ名で呼ぶな！ 喫茶店かよ！ アルバムはメニューじゃない！ ああもう……追いつかねえ！」
しばらくアルバムを見て盛り上がる２人。
総介 「そーそー！ この合唱祭、アキ、音痴すぎて周りの奴に口閉じてろって言われて、泣き出したんだよなー！」
章 「お前はお前で『なら、オレがアキの倍歌う』とかフォローになってないフォローするしな……」
総介 「だってオレ、子どもの頃から歌うまいもん。今からでもアイドル目指そっかなー。モテそうー！」
章 「アイドルぅ？ せいぜい、俺とお笑いコンビが関の山だっつーの。つーかお前、モテたって仕方ないだろ。女の子、苦手なんだから」
総介 「まーねぇ。でもいつか平気になって、女の子とカラオケ行ったりして、惚れられちゃったりするかもよ～？ そしたらアキ、どうする？」
章 「どうするって……泣く？」
総介 「えっまた泣くの！？」
章 「だって、お前にそんな奇跡が起きても俺には絶対起こんないからな」
総介 「分かんないよ～？ アキ、じつは内面イケメンだからなぁ」
章 「はいはい。ふざけろふざけろ」
総介 「ふざけてな……あーっ！ これ遠足で水族館に行った時アキが水槽にガチでぶつかって、鼻血出したやつ！ こっちは運動会！ アキがリレーですっ転んで、鼻血出したやつ！ あっはははは！」
章 「鼻血出しすぎだろ！ 昔の俺！ つか総介、お前、はしゃぎすぎ！」
総介 「あ、やっぱりそうだよね。だってオレ、今、楽しいもんね！」
章 「……はいはい。まあ、今度いつ来られるかわかんねーし。付き合ってやるよ」
総介 「アキぃ～！ やっぱ、カッコいい！ 一緒にお笑いの天下獲ろうね！」
章 「お笑いコンビ案、通ってたのかよ！ 獲るなら芝居の天下だろ！」
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