SUB1 ラブレターの行方
[中都高校_2年廊下]
章 「ん? カバンの中に、ピンクの封筒……? ……なんだっけこれ……。……っ、あああ!? 叶宛てのラブレターだ!」
――――――
[回想]
章 「……って……え? 『叶くんへ』? 叶くんへって……叶真尋くんへ!?!?」
他校女子生徒「はい! 私、このあいだの演劇部の公演がきっかけで、2年の真尋くんのことを知ったんです。そのあと動画を見て、一気に好きになって。気持ちが抑えられなくなって……!」
――――――
章 「ヤベー、いろいろあって完全に忘れてた……! うわ。もらったの、けっこう前だぞ……。あの子に申し訳なさすぎる……! 今更になっちゃったけど、叶に渡しに行かなきゃ!」
[中都高校_教室]
章 「叶は……っと。……うん? いないのか?」
ロキ 「地味助、地味なのに目立ってるぞ?」
章 「うぉあ!? ロロロ、ロキ!? い、いきなり後ろに立つなよ、びっくりするだろ!?」
ロキ 「俺様は、存在自体が驚きと感動の塊だからな! で? ひとの教室で、なんか用か?」
章 「えっと……叶は? 一緒じゃないのか?」
ロキ 「職員室で、ジジイに面倒なこと頼まれてた。面倒だから、置いて1人で帰ってきた!」
章 「ジジイって……お爺ちゃん先生は大事にしろよ。そっか。いないのか……。うーん……」
章 (……ラブレターだもんな。やっぱロキがいないところで渡したほうがいいよな)
章 「分かった! じゃあ、えーと、ちょっと俺、叶を探してみるわ!」
ロキ 「わざわざ探すぅ? 部活でも会うのに? ……神の直感が告げている。怪しい」
章 「あああ、怪しくなんてねーよ! 全然、何も、隠してもねーし!?」
ロキ 「隠して……? あっ! 今ポケット触ったろ! 何隠してるんだ、見せてみろ! えいっ!」
ロキ、章のポケットに手を突っ込む。
章 「あ、こら、ポケットに手ぇ突っ込むな! あはは! やめ……うひゃひゃひゃっ……──あ」
パサリと床に手紙が落ちる。
章 「ヤベ、落ち……! いや、それは叶とはなんの関係もない! 落ち着いて、こっちに渡……!」
ロキ 「なんだこのピンクの封筒? ……まさか、地味助、お前――真尋にラブレター書いたのか!?」
章 「違うよ! 勘違いが神級だよ!! これは、他校の女子に頼まれて!! ……あ」
ロキ 「は? 女が真尋にラブレターなんて書くはずない! さては、このロキ様と真尋を間違えたんだな!」
章 「いや、逆立ちしても、ロキと叶は間違えねえだろ!」
ロキ 「それはそうだな。俺は美しいもん」
章 「はいはいそうです。あーもう、返せよ、叶に渡す。ヘンな口出しするなよ!」
ロキ 「分かった。けど口は出す」
章 「分かってないよね、それ!? ちょ、おい! 何、開けようとしてるんだよ!?」
ロキ 「どうせ寝不足の女が、寝ぼけて書いたに決まってる。俺がしっかりチェックしてやる」
章 「いや、ちゃんと起きてたに決まってるし、チェックってどの立場から!? だーめだって! 渡さないからな!」
ロキ 「んで、チェックしたらちゃーんと書き直してやるよ。ラブレターは山ほどもらってきたから、コツは分かる!」
章 「勝手に読んだ上に書き直す気!? あ! こら、返せってば! 開~けーるーなー!」
ロキ、手紙を読み始める。
ロキ 「『真尋くんへ』──宛名からなれなれしいぞ!」
章 「宛名からつっかかんのかよ! おいそれ以上読むなよ! 名も知らぬあの子がかわいそすぎるだろ!」
ロキ 「往生際の悪い地味助だなっ。手を離せ! 読めないだろ!」
章 「だから、人の手紙を読むなっつの!! あっ……待て! ロキ!!」
ロキ、少しだけ宙に浮いて高速で逃げる。
[中都高校_2年廊下]
章 (はあ、はあ……全っ然追いつけねえ……! あいつ──あいつ、ちょっと浮いてる!?)
[中都高校_1年廊下]
ロキ 「どけどけ、お前ら! 邪魔するヤツは吹っ飛ばす!」
章 (クッ……1年生の目が痛い。ごめんな、2年なのに1年の廊下爆走して……!)
律 「…………げ」
ロキ 「あ、律。俺様をかくまえ! んでもって、書き直し用のペンをよこせ!」
章 「北兎ー! ロキを捕まえてくれ! あと、ペンは死んでも渡すなー!」
律 「は? どっちにも関わりたくないんだけど」
章 「叶の……っ、叶の大切なものを、ロキが奪って逃げてるんだ!」
律 「……大切なもの? 選ぶしかないなら、東堂先輩側につきます。ロキ、真尋さんから何を奪ったって?」
律、ロキを捕まえる。
ロキ 「うわっ……律のくせに首根っこを掴むな! 離せ!」
章 「はぁ……ありがと、北兎。追いつけなかったら俺、土下座しても許されないところだった……」
律 「東堂先輩、何があったんですか? 迷惑をかけるのは、西野先輩までにしてください」
章 「できるなら俺もそうしたかったよ……。場所移そうぜ? ここじゃ、ちょっと……」
[中都高校_演劇部部室]
律 「真尋さん宛のラブレター? それが、大切なもの……ですか」
章 「大切だろ、ラブレターなんだから! なのにロキの奴、チェックして書き直すとか言うし!」
律 「書き直す? ロキが? …………なんで?」
ロキ 「俺の方が絶対うまく書ける!」
律 「上手く書いてどうするわけ。真尋さん宛のラブレターの出来なんて、ロキに関係ないでしょ」
ロキ 「そ、それは……あるんだよ! ほら初めてのラブレターの中身が残念だったら、真尋がかわいそうだろ!?」
律 「真尋さんがどう思うかは真尋さん次第だし。それに、初めてじゃないかもしれないだろ」
ロキ 「……え? 初めてに決まってる! 真尋なんて、絶対、それが初めてのラブレターだっ!」
真尋が笑顔で部室の扉を開ける。
真尋 「俺がどうしたって?」
章 「ヒッ、か、叶……! いいところに! いや、悪いところになるのか、これは!?」
真尋 「ロキと東堂が追いかけっこしてるって、クラスメイトに聞いたんだ。ロキがまた、イタズラでもした?」
ロキ 「まだしてない。それより真尋。お前、ラブレターなんかもらうの、初めてだよな?」
真尋 「ラブレター……?」
章 「その……これ、かなり前に、他校の女子から、叶に渡すように頼まれてたんだ。くしゃくしゃだし、渡すの遅くなって、ごめん」
章、手紙を真尋に渡す。
真尋 「手紙? 俺宛ての? ありがとう、読ませてもらうね。……」
章・律 「……」
ロキ 「…………」
真尋、ラブレターに目を通す。
その様子を固唾を呑んで見守る3人。
真尋 「…………うん」
章 「う、『うん』? 『うん』って? 綴られた愛へのお返事的な感じ!?」
真尋 「ううん」
ロキ 「ううんってなんだよ! 煮えきらないヤツだな! そんなんだから、女にも男にもモテないんだぞ!」
律 「ロキは、真尋さんにモテてほしいの? ほしくないの?」
真尋 「俺がモテないのは、みんな知ってるでしょ。うんって言ったのは、心を決めたからだよ」
章 「え……こ、心を決めた……って……!? 叶お前まさか……」
真尋 「ロキ。稽古しよう」
ロキ・章・律「「「稽古しよう!?」」」
章 「ラブレター読んで第一声が『稽古しよう』!? どこをどう繋げたらそうなるの!?」
ロキ 「ワケわかんないぞ。真尋。なんて書いてあったか教えろよ!」
真尋 「何が書いてあったかは言えない。感想も言わない。俺は、恋愛のことは正直まだよく分からないけど……。それが、相手への誠意だと思うから。これだけは、ロキでも譲れないよ」
ロキ・章・律「「「……!」」」
真尋 「彼女に向けてもらった想いを、同じ形では返せない。……その分、俺の答えは、芝居で見せたいんだ。だから、ロキ。稽古しよう。彼女にも、他の誰にも、恥ずかしくない芝居をしたい」
ロキ 「……フン! やっぱり芝居バカだな、真尋はっ! 結局、俺がいないとダメってことじゃん!」
真尋 「うん。そうだよ。ロキがいないと、最高の2人芝居はできないからね」
ロキ 「よーし! そうと決まれば、さっさと始めるぞ!総介と衣月はまだ来ないのかー!?」
律 「……東堂先輩。俺、さっきの真尋さんを見て、ちょっと思ったんですけど……。真尋さんって、普段はふわふわしてるけど、いざという時ちゃんと男らしいっていうか、相手の女の子のことも大事にしそうっていうか、もし本気で恋愛したら、相当カッコいいんじゃ……」
章 「俺も、思った……。この手紙が最初で最後かと思ったのに……! ……ううう。南條先輩やロキ宛のラブレター渡しに、今後は叶も追加かよ!? っていうかみんな俺に渡すんじゃなくて、直接本人に渡して! 虚しいから!」
律 「自分宛てのをもらうっていう選択肢が出ないところがさすがの地味先輩ですね」
章 「言わないで! 言葉にされると泣いちゃうから!!」
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