第10節 光の見上げる光

[虹架高校_演劇部部室]


探偵(バルドル)『――つまり、ここにいる4人の皆さん全員が容疑者ということになります。ああ、どうぞごゆるりと。慌てる必要はないですよ。僕には、事件を解決する才能はあっても、逮捕する権利はないんです。ただの、しがない探偵ですので』

容疑者A(ヘイムダル)『た、探偵だと!? 聞いてないぞ、なんでそんな奴がこの館に来てるんだ!』

容疑者B(ブラギ)『ふん。彼の身分などどうでもいい。だが、“ここにいる4人”とは、ずいぶん勝手な言い分だ。お前も容疑者の1人。状況を鑑みれば、自然とそうなるはずでは?』

容疑者C(トール)『まあ、そうカッカしなさんな。俺らが揉めたところで仕方ないだろ。仲間割れなんてしてると、そのほころびを突いてまた1人殺されるかもしれないぜ? ……なあ、お前もそう思うだろ』

容疑者D(有希人)『……そう……だね。ふふふ。ふふ……僕は、おかしくて仕方ないんだ』


容疑者D(有希人)『よりによって、10年ぶりに集まった僕たちの前で、彼女が殺されてしまうなんて――これが、彼女なりの歓迎パーティーなのかもしれないね?』


鷹岡   「めろ」


8章10節


鷹岡   「神楽。お前、今のシーンどう思った」

有希人  「……今の俺にできることを、務めたつもりです」

鷹岡   「俺が聞いているのは、お前の芝居じゃない。お前ら5人全員で作る芝居がどうかって話だ」

有希人  「……あ……」

鷹岡   「夏合宿以降、今のお前は悪くない。身のこなしもセリフも、いい緊張感でピンと張って客の視線を逃さない。だがその分、周りの4人とちっともなじんでいない。まるで、お前1人で舞台に立ってるみたいにな」

有希人  「……」

鷹岡   「答えろ、神楽。お前はどこを見て、誰と芝居をしている」

有希人  「……それは……」

トール  「タカオカ。今のシーンは俺からのセリフの掛け方でもっとよくなるはずだ。それに有希人は、昨日からほとんど寝てない。少し休憩を挟んで、もう一度やらせてくれないか」

鷹岡   「……いいだろう、10分だ」


 部室から出ていく鷹岡。


バルドル 「有希人くん、お疲れさまです。お水どうぞ」

有希人  「ありがとう。ごめん、俺のせいで中断しちゃって」

バルドル 「そんな。僕は有希人くんの今のお芝居、すごく好きです。とても素敵だと思います! もしなじんでいないというなら、僕がもっとがんばって、有希人くんに追いつくべきなんです。有希人くんと一緒に舞台を踏める幸運、ちゃんと活かさないといけません!」

有希人  「……いつもありがとう、バルドル」

バルドル 「あ……! すみません、僕、つい勢い込んでしゃべってしまって。でも、すべて本心ですから。精一杯がんばります。文化祭公演、楽しみですね」

有希人  「……うん。俺も、楽しみだよ。……」


有希人   (どこを見て芝居をしてる……か)


有希人  「……ふ」


 有希人の口角が上がる。


トール  「有希人……?」

有希人  「……トール。俺、先に稽古に戻るね。鷹岡さんに、さっきと同じ芝居は見せられないから」


バルドル 「……ねえ、ブラギ。最近の有希人くん、どうしたのかな? いつも芝居には真摯な人だけど……最近はどこかつらそうで、見てると胸が痛くなる。僕に、何かできることがあればいいのに……」

ブラギ  「……まるで、叶わぬ恋をする乙女のようですね、兄さん。あのオーディンが褒めそやす花のような瞳に、あらぬ波を立たせるとは」

バルドル 「そんな、恋だなんて。僕は有希人くんのお芝居を……有希人くんのことを尊敬しているだけだよ。だから、力になりたいんだけど……ダメだなあ。うまくいかなくて、不甲斐ないや。“光の神”のくせに、大事な人1人照らせない。むしろ、道を照らしてもらってるのは僕の方だ。まだまだ、修行が足りないね」

ブラギ  「……兄さん……」


ブラギ  (貴方は、誰に対しても公平だ。誰にでも等しく光を注ぐ――影たる私にも。あの忌々しいロキにすら。けれど、その貴方はあんなちっぽけな人間を光と仰ぐのですか)


ブラギ  (……皮肉だ。いっそ、詩になるくらいに)


バルドル 「? どうしたの、ブラギ――」

ヘイムダル「なあなあ! 文化祭って、夏祭りの時みたいに食いもんの屋台とかたくさん出るんだろ!? すっげー楽しそうなのに、たった2日やそこらしかやらないなんてもったいない! 毎日すればいいのに!」

バルドル 「ふふ。日常の中で、たまにあるから楽しいんだと思いますよ」

ヘイムダル「そっか。そうだな。バルドル、いいこと言うな! ……あ! でも、中都にもあるんだよな、文化祭。行こうぜ! ほら、あれ。テキジョーシサツってヤツ!」

トール  「敵情視察ね……もっともな意見に聞こえるが、お前の場合、ロキに会いたいだけじゃないのか」

ヘイムダル「おう! ロキと勝負もしたいし、テキジョーシサツもするぞ!」

トール  「やれやれ……。まあ、指令をこなすには必要か。あとで有希人に相談するとしようぜ」

ヘイムダル「へへっ。よーし! 待ってろよ、ロキ!中都の文化祭、まるごと遊び尽くしてやる!!」


<第8章 本編終了>

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