第9節 成功の陰で

[中都高校_視聴覚室]


 鳴り止まない拍手。


草鹿   「んー。純粋で、泥臭くて、いい台本だったなぁ。ね。育ちゃん」

竜崎   「……“ひいでたとこない”、ね。どの口が言うんだか。けっこうでかい才能だぜ。ひたむきに努力できるってのは」


 笑顔が光となり、ロキの小瓶に集まっていく。


8章9節


真尋   「ああ……すごく楽しかった。やっぱり、東堂の書くセリフは気持ちがいいね。舞台の上でも、客席でみんなが次の展開をドキドキして待ってるのが伝わってきた」

ロキ   「フン。ま、それをこんなに素晴らしく演じる俺と真尋がすごいんだけどな! “心からの笑顔”もまた増えたし! お手柄だぞ、章!」

章    「はは……。お褒めに預かり光栄です。俺の台本、確かに、叶とロキを想定して書いてはいるんだけど……。2人の芝居は、いつも俺の想像を簡単に……遥かに超えてくるんだ。セリフひとつひとつに命が吹き込まれて、登場人物の感情が、全身で伝わってくる……」


章    「自分で書いたってこと忘れるくらい、すげー感動する。いつも思ってるけど、改めて、言わせてくれ。……ありがとう、2人とも」


律    「……はぁ。鈍感先輩」

章    「ここで新たなバリエーション! なんだその呼び方!?」

律    「なんだも何もないです。鈍感だから、鈍感先輩。それだけ。真尋さんとロキは素晴らしい役者ですけど。役者だけでは、芝居は成立しません。2人が最高の芝居を作れるのは、東堂先輩の台本だからってこと、そろそろ自覚したほうがいいですよ。一時は本当に……どうなることかと思いましたし」

章    「北兎……。心配かけてゴメン」

律    「してません」

章    「いや、今、どうなることかと思ったって言ったよね?」

律    「でも心配はしてません」

章    「ったく、お前は……可愛い後輩だな」

律    「は?」

章    「叶。ロキも。心配かけてごめんな。もう、大丈夫だと思う……多分!」

真尋   「うん。東堂なら、大丈夫。これからもよろしくね」

ロキ   「次ジッカに帰る時は俺に言えよ。また切符買わせてやるから!」

章    「買わないし! どうせ高額だし! ってか帰るなら1人で帰るから!」

ロキ   「地味母の地味料理を独り占めする気か! ずるいぞ、章!」

章    「ずるいってなんだよ!? 人のオフクロの味、横取りしないで!?」

真尋   「ふふ。……あれ。そういえば、西野と南條先輩は?」




[中都高校_廊下]


衣月   (総介、公演後から姿が見えないな。どこに……あ、いた)

衣月   「総介、みんなと一緒に――」


猪狩   「いや~本番の公演もよかったよぉ! これは本気で本気ね!」


衣月   (……? あれは……)


 衣月、柱の影で立ち止まる。


猪狩   「いいも撮れたし、これで撮影はひとまず終了! 連絡はまた後日ね~」

総介   「はい。無理言って番組ねじこんでもらって、ありがとうございます」

猪狩   「いやいや、総介クンの頼みだからねぇ。これで、かずさサンにもちょっとはいい顔できるかな~なんて!」

総介   「もちろん言っときます。猪狩さんの新しいドラマ、前向きに出演検討してねって」

猪狩   「はは、サンキューでーす!」


衣月   (……どういうことだ? 総介、今回の取材は、あちらからのオファーだって言ってたはず……)


猪狩   「でも東堂クン大丈夫? 無理させちゃって、潰れてないといいけどね~?」

総介   「あざす。でもこれ、必要な試練ってヤツなんで。あいつもこれで、コンクールに向けて座付き作家の自覚、強まったでしょうから」

猪狩   「それならいいけどね~! じゃ、いったん局戻るから。お疲れちゃ~ん!」

総介   「うっす。どもっす!」


 猪狩が立ち去る。


8章9節


総介   「……。アキは、これで大丈夫だよな。……よかった。よし。次は文化祭だ。対策立てないと。できるだけ客を入れたい。ああ、虹架の文化祭の演目も、そろそろ出る頃だ。ちゃんと見とこ」


総介   「……コンクールまで、あっという間だ。気を抜くな。絶対。何があっても、最優秀賞を取る。そのためなら……なんだってする」


総介   「オレにできること、なんでも」




衣月   (……総介……)

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