第7節 追い詰められた凡人
[中都高校_演劇部部室]
章 「──すみませんでした!!」
猪狩 「おっと、どしたのどしたの~頭なんて下げちゃって! あ、カメラ一応回しとくね?」
律 「ちょっと。こんなところまで撮るなんて非常識すぎませんか」
章 「北兎、サンキュ。でも、撮ってもらっていいです。……今更なのは分かってます。けど、俺にもう一度だけ、チャンスをください!」
衣月 「章……」
章 「このあいだ出した台本。正直言って俺、なんも見えてなかった。プロに負けたくない、プロみたいなすごいのを書くんだって頭で先走って……俺にできることを、やりたいことを、完全に見失ってた」
真尋 「東堂にできること……」
章 「うん。俺がほんとに書きたいのは、“すごい”とか“プロみたいな”とか、そんな台本じゃない。役者を……叶とロキを一番輝かせる台本だって、そのことを思い出したんだ」
章 「1日でいい。新しいのを上げるから、もう一度だけ、俺の台本、読んでください!」
律 「東堂先輩……」
総介 「……」
真尋 「うん。……俺も、東堂の台本が読みたい」
ロキ 「フン。最初から、俺と真尋のためだけの台本を書けばよかったんだ」
ロキ 「自分の欲に惑わされやがって。そんなの全然、地味助らしくないぞ」
猪狩 「そっかそっか、なるほどなるほど~! もがく姿も、これまた青春って感じでいいかもねぇ!」
猪狩 「予定変更! 東堂クン、バチコーンとよろしく頼むよー! これ本気ね!」
章 「……はい! がんばります!」
律 「……やる気があるのはいいですけど、1日って、さすがに無理しすぎじゃないですか」
衣月 「うん。公演までの日数を考えると、仕方ないかもしれないけど……。衣装と違って、台本は手伝えることがないから心配だね。章、本当に大丈夫?」
章 「ありがとうございます。でもこれは、俺がやらなきゃいけないことだから」
猪狩 「じゃあ、東堂クンが執筆に入るあいだ、他のみんなは個別でインタビューを撮っちゃおうか~!」
律 「はぁ。インタビュー……本当にやらなきゃダメですか」
ロキ 「フフン。この俺が律に変身して、あることないこと言ってやろうか?」
律 「絶対やめて」
総介 「どーしたのアキ。珍しいじゃん、こういう場で食い下がるなんてさ~」
章 「……おう。俺も珍しいと思う。けど……。他のものはどうでもいい。成績も運動も見た目も、女の子にモテるかどうかも、この際諦めてもいい。だけど、叶とロキのための台本を……。総介、“お前が目指す芝居の台本”を書くことだけは、諦めたくない。そう思ったんだ。……そうでなきゃ俺、中学の時の自分のことも、裏切ることになるから」
総介 「!」
総介、心底嬉しそうに笑う。
総介 「……うん。それが、俺の好きなアキだ」
[瑞芽寮_章と総介の部屋]
その日の夜
章 「…………~~~~~~っだぁ!!! 詰んだ! この続きが思いつかねぇえええ!!!!」
総介 「4度目!! お隣からクレーム来てる、叫ぶだけ体力減ってる! あ、韻を踏んでる! 今の俺、ラッパーっぽくなかった? ねえねえ」
章 「総介お前ふざけてる!」
総介 「お、ウマイ! DJアキラ、ヘイ・メーン! インダハウッ!」
章 「あーもう……絶好調にうるさい」
総介 「でもさ。思いつかね~って言った10分後には書き進めてたりするから、やっぱアキはすごいよ。オレには真似できねーもん。思いつかねえ! ってなったら明日のオレに任せて遊びに行っちゃうかも」
章 「それで間に合うならそうしてーよ……。俺の場合、明日の俺が困るだけだし」
総介 「そこでがんばれるのがすごいって話。で? どんな話になりそうか、そろそろ聞いていい?」
章 「ロキと叶が演じる、俺が見たい話だよ」
総介 「ええ~、それだけ? オレには教えてくれたっていいじゃん!オレとアキの仲じゃん! アイシアッテルじゃん!」
章 「やめろ、気持ち悪い! ……お前だから言えないんだよ。いま話したら、アドバイスくれとか、絶対甘えちゃうと思う。俺、お前と……書くってことだけは、対等でいたいから。だから今は、1人で書く」
総介 「……アキ……分かった。オレ、見守る。ふみぽよになる」
章 「ならんでいい!」
総介 「ママと呼んでいいのよ?」
章 「呼ばない! もういい、お前うるさい。集中して書くから、邪魔するな!」
21:00
章 「……ぐぁあああああ! ダメだ、降りてこない!」
総介 「はーい、7度目のぐあぁあいただきましたー!」
0:00
総介 「ぽん、ぽん、ぽん、ぱーん! 西野総介くんが日付変更をお知らせしまーす」
章 「知らせなくていいから……! うう……朝までならあと7時間! 放課後までならあと15時間……!」
総介 「え、授業は?」
章 「……間に合わなかったらサボる!」
総介 「んまあ! お母さん、そんな風に育てた覚えはないわよ!」
章 「お前に育てられた覚えはない!」
総介 「ふみぽよ~!?」
章 「感嘆詞みたいに使うな!」
2:00
章 「……うぐぅ……もう、2時……。眠いけど、まだまだ……」
部屋の扉が開く。
総介 「ほい。自販機でコーヒー買ってきたよん♪」
章 「あ、サンキュ……つーか、お前はもう寝ろよ」
総介 「えー? それは断る方向で~。今夜はアキとオールナイでパーリナイ☆」
章 「……なんだよ、それ」
4:00
章 「……よし。あと……1シーン」
総介 「……すぅ……」
章 「……もうすぐ朝だもんな。さすがに寝たか。自分のベッドで寝りゃいいのに。机に伏せてたんじゃ休めないだろ。……おい、総介。あっちで寝……」
総介 「断る……。朝まで……アキと……オール……むにゃ……」
章 「……」
章 (総介、寝てると、ガキの頃と同じ顔だな。こいつがこんな顔で寝るなんて、他のみんなは誰も知らないんだろうな……)
6:00
総介 「アキ! がんばれアキ! 負けるなアキ! もうちょっとだアキ! ゴールはそこだぞアキ! あ、チェッカーフラッグ用意しとく!? パーティークラッカー、どこしまったっけ!」
章 「なんっであのまま寝なかった! なんっっっっっで今が一番元気なんだよ!!」
カーテンから朝日が差し込み、窓の外から鳥のさえずりが聞こえる。
章 「……できた……」
総介 「……はっ。…………で? できた? マジで! アキ! やった! やったじゃん! さすがアキ、やればできる子! よーしよしよし!」
章 「……おう……。……はは、やればできるんだよ」
章 「……追い詰められた凡人はな……あぐらかいた天才より、強いんだよ。……多分……」
章、総介にもたれかかる。
総介 「!? うわっ、重……」
章 「……すぅ。……すぅ」
総介 「まさしく泥のように眠る、だな。……お疲れ。アキ」
章 「……そー、ちゃん……」
総介 (あらら、ガキの頃と同じ顔で寝てら。アキがこんな顔で寝るなんて、知ってるのはオレだけってね。……今のところは)
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