第3節 テレビ取材!?
[中都高校_廊下]
章 (はあ。育ちゃんにも憐れまれた……。今日ってなんなの? 厄日ってやつ? 迷ってる間に、部室着いちゃったよ。ラブレターの件は、後にさせてもらおう……)
[中都高校_演劇部部室]
章 「お疲れ様でーす……」
40歳前後のハツラツとした見知らぬ男が部室にいる。
章 「え」
猪狩 「待ってたよ!」
章 「いや、どちら様?」
猪狩 「そういう君は東堂クンだね!?」
章 「そういうあんたは誰!? 怖い! ホント誰!? OBの人!?!?」
総介 「ちょっと年上の新入部員!」
章 「ちょっとじゃなくねえ!?」
章 「……って失礼か! いや、でも…………誰!?」
律 「さすがに新入部員なわけ、ないじゃないですか」
猪狩 「そうだね~、さすがに今から高校生活2周目ってのはキツいな~、はっは!」
総介 「よーっし。アキが来て全員揃ったところで、改めて紹介するよ~。こちら、
猪狩 「どーもー猪狩です。学生諸君には必要ないかもだけど、名刺、配らせてちょうだいね!」
ロキ 「メーシ……? この紙、何に使うんだ?」
真尋 「自己紹介だよ。社会に出てから、名乗る時に交換したりするんだ」
ロキ 「フーン……この程度、一瞬で記憶できるだろ。人間てやっぱ変だな」
衣月 「僕が部長の南條です。でも、テレビ局の方が、どうしてうちの演劇部に?」
猪狩 「うんうん! イケてる部長の南條クン! よくぞ聞いてくれました! 実は今、サクラ演劇コンクールの宣伝の一環で、参加予定校のドキュメンタリーを制作してるんだよね。中でも“2人芝居”でじわじわ話題になりつつある中都をバチコーン! と大きく取り上げたい! 部員のみんなが普段、どんなふうに自分たちの演劇を作っているか、流れを追って紹介したい!」
猪狩 「さてどうしよう、そうだ中都には総介クンがいるゾ! ってことで、声をかけさせてもらったんだよね~」
章 「え……じゃあ、もしかして……取材ってこと?」
総介 「そゆこと。いやー、急に電話かかってきたときはマジで驚いたな。猪狩さんと話すの数年ぶりだし! でもって、テレビ取材って、オレたちで企画立てられるものじゃないじゃん? だから、いい機会なんじゃないかなーって! みんなはどうどう?」
ロキ 「テレビ取材……ってことは俺もテレビに映るのか!? スマホのテレビとか、食堂のテレビとか、寮の娯楽室にあるテレビにも映るよな!?」
猪狩 「うんうん、そりゃもうバチコーンと!」
ロキ 「ハハッ、いいぞいいぞ。俺は賛成だ! テレビで、俺の素晴らしさを知らしめてやる!」
律 「俺は、正直嫌です。映るのも、取材されるのも」
真尋 「俺は……嫌じゃないけど、ちょっと、突然すぎて……」
衣月 「そうだね、戸惑うのも無理はないと思う。でも、宣伝としてはいいんじゃないかな? 総介の言う通り、テレビに出たいと思っても、普通は出られるものじゃない。成功すれば、お客さんが増える。コンクールに向けて、人の目にさらされるのも、いい経験になると思うよ」
総介 「そうそう、そゆこと! まさに、渡りに豪華客船!」
章 (テレビか……。まあ、宣伝になるならいいよな。こういうのは、当然ロキと叶をメインに構成されるだろーから、俺はあんま関係ないし)
猪狩 「中都は、台本も生徒さんが書いてるんだよね? それって、結構ドラマチックだなって思うわけ! 今回は、台本執筆から完成、本番までを主軸に、バチコーン! と密着させてほしいなあ!」
章 「うん。そうそう。台本の執筆から………………って、ええぇええっ!? ちょ、ま! それってつまり……!?」
総介 「そういうこと! アキ、ここは演劇部のために一肌脱いでくれたまえ~☆」
章 「一肌脱げってレベルじゃねーよ!! ……おい総介! ちょっとこっち来い!」
章、総介を部室の隅へ引っ張り、小声でしゃべる。
章 「今度は何考えてるか知らねーけど、なんでターゲットが俺なんだよ! しかもテレビ局まで持ち出すなんて、やりすぎだぞ!」
総介 「えー、なんのこと? 取材は猪狩さんからのオファーだって!」
章 (総介がヘンなことやり出す時は、一応、何か考えがある。それは分かってる。でもテレビって。密着って。こちとら、地味ロードのド真ん中を歩いてきた一般人だぞ……! ただでさえ、まともなの書けるかどうか日々ガチガチなのに、密着なんてされたら……!)
章 「……出る。口から、心臓が出る」
猪狩 「いやいや、心臓は引っ込めといてよ~、東堂クン。ほら、リラックスリラ~ックス! これまでのお芝居、かーるく見せてもらったけどね。俺も東堂クンの台本はグッドだと思うよ~! なんて、おじさんのセンスじゃいいコメントできなくてごめんね!? とにかくまあ、今のまんまでいいから。いつも通りいい感じにやってくれれば大丈夫だから!」
章 「いつも通り……」
律 「……収録が来ていつも通りにやれるなら、東堂先輩じゃないです」
章 「だ、だよな~!? ありがとう北兎! 押し切られるとこだった! いや……すいません。光栄というか、なんというか、そんな感じではあるんですけど……。正直、俺に密着しても、なんも面白くないっすよ? 見た目も中身も、この通り地味なんで……。つーか、取材とかそんなことされちゃうとその、上手く書けるかどうかも…………その……」
猪狩 「ふうむ、なるほどなるほど……う~ん……? まあ、緊張しすぎて台本上がりませんでした、となると俺の番組のせいで、ゴメイワクおかけしちゃうよねぇ。となると、ふうむ……。じゃあ、こういうのはどう!?」
猪狩 「ズバリ、保険として、俺の知り合いの劇作家の台本を用意する! ベテラン中のベテランだからクオリティーは心配ない。東堂クンが書けなくて困ったら、それを使えばいい! バチコーンと書き上がるようなら、東堂クンの台本とどちらをやりたいか、部員のみんなに選んでもらう!」
章 「……え……?」
猪狩 「お、いいんじゃない!? どうかな、そういうのは! これ本気ね!」
律 「ちょっと待ってください。それってテレビのために、わざわざプロと競わせるってことですか?」
ロキ 「競わせる? なんで。地味助なら、そんなことしなくても面白いのが書けるぞ」
真尋 「うん。俺もそう思う。いつも通りに東堂が書いてくれれば、俺はそれがやりたい」
衣月 「……猪狩さん。保険として、とおっしゃいましたけど、相手方の劇作家さんにも失礼に当たるのでは? もちろん、うちの章にも」
章 「みんな……」
総介 「おっ! 猪狩さんってば、さっすが、名ディレクター! それ面白いっすね、プロと高校生、優れた台本を作れるのはどっちだ!? 的な☆」
章 「え……総介……」
総介 「うちのアキなら大丈夫っすよ! 台本はもちろん、番組も面白くしちゃいますから!」
衣月 「……総介。でも……」
総介 「ツッキー。これ、必要な試練だよ。いつも同じことやってても成長はないっしょ? オレとしては、ここらでいったん外の刺激も取り入れてみたいなって! ね、アキ!」
章 「……」
衣月 「……章がいいなら、サポートはするよ。どうする、章」
ロキ 「おい地味助、嫌なら嫌って言えよ」
章 「いや……はは……。いや、うん……。そう……っすね! 保険があるなら、俺がダメになっても安心っすもんね! 書けたら書けたで、プロと競わせてもらえるなんて、これも、確かにいい機会って気もするし。うん、俺、それならがんばれます! みんなもありがと。でも俺、別に大丈夫だから! 全力でやってみる!」
律、心配そうに章を見る。
律 「……東堂先輩」
章 「いやー、まさか、テレビに密着されるとか! これで、親とかもちょっとは一目置いてくれっかなー! はは!」
章 (……なんだ、これ。俺、どうしてへらへら笑ってんだっけ)
章 (俺なんかが全力でやっても、相手はプロだ。そっちのが、きっといい台本に決まってる。がんばったけどやっぱ書けませんでした、って言ったほうが、丸く収まるんじゃねーの? ……けど……)
――――――
[回想]
男子学生2「で、お前は、演劇部で何してんだ? 雑用?」
雄一 「……誰だっけ」
他校女子生徒「もし直接渡すのが難しいなら、真尋くんと同じ演劇部の人に渡してもらえればいいですから!」
――――――
章 (……これで逃げたら俺、ほんとに演劇部にいる意味、なくないか……? 叶とロキが、他の奴の書いた台本を演る……くそ。俺、一丁前に、嫌だと思ってる。嫉妬してる……相手はプロなのに)
章 (でも……譲りたくない。だって俺には、それしかないんだ。地味で、なんにもできない俺には。……なら、やるしかないじゃんか。プロの台本の前で、「やっぱガキの書くものはダメだ」で終わりたくない)
章 (みんなのためにも、恥ずかしくないものを書かないと。今、俺のできる全力でぶつかるしかない!)
総介 「……まーまー、アキ。1人じゃないんだから、気楽に行こうぜ! あくまで“いつも通り”。今回も、どんなのがいいか、オレとかみんなと相談しながら――」
章 「……いい」
総介 「え?」
章 「今回は、俺1人でやらせてくれ。じゃなきゃ……多分、意味ないから」
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