SUB2 漢のケジメ

[中都高校_廊下]


7章サブ2


雄一   「てめえ……分かってんだろうなァ?」

雄二・雄三「「分かってんだろうなァ?」」

男子学生 「ひっ……わ、分かってるよっ!」

雄二   「分かってるなら、もう一度、兄ちゃんが頼んだもの繰り返してみなよ」

雄三   「ちなみに兄ちゃん、頼んだもの間違えたら、すっげー怒るからね~?」

雄三   「こないだも、頼まれたのコーラだったのにメロンソーダ買ってきて殴られちったし!」

雄一   「それは殴るだろうが! 味が全然違ぇよ、色もよ! ……まあメロンも嫌いじゃねえけどな!」


男子学生 「分かってるって! 業務用の木工ボンドと、ステンレスボードと、追加のネジ100本だろ!」

雄一   「分かってんじゃねーか。てめぇで行けなくて悪ぃな、手が離せなくてよ。……釣りは取っとけ」

雄三   「早く帰って来いよ~!」

雄二   「急ぎすぎて事故るんじゃねーぞ」

雄一   「1人で持てなかったら、ダチでも呼べよ」

男子学生 「わぁかってるって! 行ってきます!」


雄一・雄二・雄三「「「行ってらっしゃい!」」」



雄三   「あ~あ。でもさぁ、なんで俺らが手伝わなきゃいけないんだよ~、兄ちゃ~ん」

雄二   「うちの廃材渡すだけかと思ったら、ガッツリ作るの手伝ってるじゃん、兄ちゃん」

雄一   「ブーブー言うな。おとこなら黙って手ぇ動かせ!」


雄一   (……フン。これが南條の策だってのは、俺にだって分かってんだよ)



――――――

[回想]


 夏休み前、廊下でばったり遭遇する雄一と衣月。


雄一   「……チッ。会いたくねえ奴に会っちまったぜ」

衣月   「大道だいどう……。……」

雄一   「待てよ。素通りするんじゃねぇ。……こないだのお前らの芝居。海賊のやつ。観たぜ」

衣月   「うん……知ってるよ。兄弟でいつも観に来てくれてるよね」

雄一   「……! 気付いてたのか……」

衣月   「大道たちは目立つしね。それだけ? だったら、もう行くけど」

雄一   「俺は……一言、お前に言っておかないとならねえ。……衣装、すげぇ……よかった」


 衣月、少し驚く。


衣月   「……ありがとう。まさか、大道にそんなことを言ってもらえるとはね」

雄一   「自分の胸にグッと来たことは、きっちり言葉にするのが漢のスジだ。その。…………悪かった。あんなにすげぇ舞台、めちゃくちゃにしようとして。最初は演劇なんて興味なかったし、お前はいつも本気が見えなくて、イラついてたんだ。……けど、この間の海賊の話は、気付いたら、のめり込んで観てた」


雄一   「……お前の本気、ガチですげぇじゃん」

衣月   「大道……」


衣月   (……今回のことがなかったら、僕はずっと、本気になれなかったかもしれない……。みんなの痛みにも気付かないままだった。……大道があんなことをしたのは、僕のせいでもある。……でも、今、お礼を言っても喜ばないだろうな。謝るのも、責めるのもきっと違う……。だったら──)


雄一   「……チッ……。そんだけだ! 邪魔したな」

衣月   「待って。……みんなにも僕にも、あんなに迷惑が掛かったのに、そう簡単には許せないな。謝罪なら、態度で示すのが大道らしいと思うよ?」

雄一   「なっ!? ……態度って、どういうことだよ。頭でも丸めりゃいいのか?」

衣月   「まさか、そんなことはさせないよ。大道には、今の髪型が合ってると思うし」

雄一   「は? ……じゃあなんだ! もったいつけねえで早く言いやがれ!」

衣月   「うちの演劇部は、知ってのとおり部員が少なくてね。自分たちの役割だけで手一杯なんだ。だから、今回大道具を壊されたのはかなり効いたよ。……そこで、大道。ご実家が工務店なんだって?」

雄一   「協力って……てめえ、まさか」

衣月   「そう。手一杯な僕らの代わりに、大道具や小道具を作ってくれないかな」

雄一   「……手ぇ抜いて作って、またお前らの舞台をめちゃくちゃにするかもしれねえぜ?」

衣月   「それが、君の言う“漢のスジ”なら、そうすればいい」

雄一   「……ッ!」

衣月   「強制はしない。手伝って欲しいのは夏休み明けの公演だ。考える時間はある。どうする? 大道」

雄一   「ハッ! そこまで言われて引けるかよ。てめぇでしたことのケジメはきっちり付ける。それが大道雄一だ!」

――――――




雄一  (チッ。借りを返す場所まで用意させちまって、情けねえったらねえぜ。……だが)

雄一   「いいモン作るしか、返す方法はねぇ。やるからには、本腰入れるぞ、お前ら!」

雄三   「やるけどさー。でもさー、絶対南條サマに上手く乗せられてんじゃん、兄ちゃ~ん」

雄一   「馬鹿野郎! 道に外れたことをしたのはこっちだ。文句垂れてねぇで、黙って手伝え!」

雄二   「……まあ、俺はいいと思う。工具貸してくれって頼みに行った時、なんか父ちゃん嬉しそうだったし」

雄一   「……う、うるっせえ! 工具やら廃材は借りても、俺は大道工務店を継ぐ気なんかないからな!」

雄二・雄三「「兄ちゃん、また言ってるー」」




男子学生 「はい、頼まれてた業務用の木工ボンドと、ステンレスボードと、追加のネジ100本!」

雄一   「おう、戻ったか。悪かったな、頼んじまって。……ん? それ、なんだ?」

男子学生 「演劇部に飲み物の差し入れ!」

雄二   「頼んでない。ていうか、なんでお前が演劇部に差し入れなんてすんだよ?」

男子学生 「オレ、わりと演劇部応援してるんだ。これまでの公演もけっこう観てるしさ」

雄三   「ふーん。でも、1、2、3……えっと、9本! 9本もあるぞ。演劇部は6人だろ?」

男子学生 「ついでにお前らにも差し入れ。大道具、がんばれよ。お前ら、話しづらいかと思ってたけど、いい奴だし! んじゃな!」


 男子学生が去っていく。


雄二・雄三「「……漢じゃん」」

雄一   「金は俺らのだけどな」

雄二・雄三「「そうじゃん!」」

雄一   (チッ、ムカつくぜ。南條の奴……俺らの居場所を作ることさえ狙いだったのかよ。俺らは、あんなことしたってのによ。返す分以上に、デケェ借りができちまったな……)


雄一   「……お前ら、分かってんだろうな。中途半端なもん作ったら、あいつに笑われるぞ!」

雄二・雄三「「おうっ!!」」


 衣月と律が部室から出てくる。


律    「声、無駄にでかいんですけど」

衣月   「お疲れ様。今日も元気だね、3人とも。みんな、大道具作るなら、部室の中でやりなよ。わざわざ、廊下に新聞敷いて作らなくてもいいんだよ?」

雄一   「いや。俺らにもケジメはある。部室は部員の物だからな」

律    「ありがたい気もしますけど、部室の中まで声響いてるんで、外でやってる意味は正直ないです」

雄二   「俺らのせっかくの遠慮を……。あ、そうだ。はい、飲みもんの差し入れ」

律    「え。なんで大道兄弟が。……怖いんですけど」

雄三   「オレらじゃないよ! パシリが買ってきたやつ! 演劇部のファンなんだって!」

律    「ちょっと、ファンをパシリにしないでよ。助っ人でも、うちの大道具を名乗るなら、ファンを大事にしてよね」

衣月   「……いいセットができてるみたいだね。すごい迫力だ」

雄一   「俺らが本腰入れりゃ、こんなもんだ。ダテに工務店の息子やってねーよ」

衣月   「うん……ありがとう、大道」

雄一   「フン! これから部活だろ。とっとと部室に入れよ、南條サマ!」

衣月   「そうさせてもらうよ。でも、南條サマはやめて? 衣月でいいよ」

雄一   「……。フン。誰がそんな、なれなれしい真似するかよ」


衣月   「ふふ。おいおいね。行こう、律。今度の公演も、やらなきゃね」

律    「はい……! 大道兄弟……手、抜かないでよね」

雄一・雄二・雄三「「「おう!」」」


 衣月と律、部室に戻る。


雄一   「……よし。あいつは本気で芝居をやる。なら俺らは、本気で大道具を作る。―――それが、漢のケジメってやつだ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る