SUB2 漢のケジメ
[中都高校_廊下]
雄一 「てめえ……分かってんだろうなァ?」
雄二・雄三「「分かってんだろうなァ?」」
男子学生 「ひっ……わ、分かってるよっ!」
雄二 「分かってるなら、もう一度、兄ちゃんが頼んだもの繰り返してみなよ」
雄三 「ちなみに兄ちゃん、頼んだもの間違えたら、すっげー怒るからね~?」
雄三 「こないだも、頼まれたのコーラだったのにメロンソーダ買ってきて殴られちったし!」
雄一 「それは殴るだろうが! 味が全然違ぇよ、色もよ! ……まあメロンも嫌いじゃねえけどな!」
男子学生 「分かってるって! 業務用の木工ボンドと、ステンレスボードと、追加のネジ100本だろ!」
雄一 「分かってんじゃねーか。てめぇで行けなくて悪ぃな、手が離せなくてよ。……釣りは取っとけ」
雄三 「早く帰って来いよ~!」
雄二 「急ぎすぎて事故るんじゃねーぞ」
雄一 「1人で持てなかったら、ダチでも呼べよ」
男子学生 「わぁかってるって! 行ってきます!」
雄一・雄二・雄三「「「行ってらっしゃい!」」」
雄三 「あ~あ。でもさぁ、なんで俺らが手伝わなきゃいけないんだよ~、兄ちゃ~ん」
雄二 「うちの廃材渡すだけかと思ったら、ガッツリ作るの手伝ってるじゃん、兄ちゃん」
雄一 「ブーブー言うな。
雄一 (……フン。これが南條の策だってのは、俺にだって分かってんだよ)
――――――
[回想]
夏休み前、廊下でばったり遭遇する雄一と衣月。
雄一 「……チッ。会いたくねえ奴に会っちまったぜ」
衣月 「
雄一 「待てよ。素通りするんじゃねぇ。……こないだのお前らの芝居。海賊のやつ。観たぜ」
衣月 「うん……知ってるよ。兄弟でいつも観に来てくれてるよね」
雄一 「……! 気付いてたのか……」
衣月 「大道たちは目立つしね。それだけ? だったら、もう行くけど」
雄一 「俺は……一言、お前に言っておかないとならねえ。……衣装、すげぇ……よかった」
衣月、少し驚く。
衣月 「……ありがとう。まさか、大道にそんなことを言ってもらえるとはね」
雄一 「自分の胸にグッと来たことは、きっちり言葉にするのが漢のスジだ。その。…………悪かった。あんなにすげぇ舞台、めちゃくちゃにしようとして。最初は演劇なんて興味なかったし、お前はいつも本気が見えなくて、イラついてたんだ。……けど、この間の海賊の話は、気付いたら、のめり込んで観てた」
雄一 「……お前の本気、ガチですげぇじゃん」
衣月 「大道……」
衣月 (……今回のことがなかったら、僕はずっと、本気になれなかったかもしれない……。みんなの痛みにも気付かないままだった。……大道があんなことをしたのは、僕のせいでもある。……でも、今、お礼を言っても喜ばないだろうな。謝るのも、責めるのもきっと違う……。だったら──)
雄一 「……チッ……。そんだけだ! 邪魔したな」
衣月 「待って。……みんなにも僕にも、あんなに迷惑が掛かったのに、そう簡単には許せないな。謝罪なら、態度で示すのが大道らしいと思うよ?」
雄一 「なっ!? ……態度って、どういうことだよ。頭でも丸めりゃいいのか?」
衣月 「まさか、そんなことはさせないよ。大道には、今の髪型が合ってると思うし」
雄一 「は? ……じゃあなんだ! もったいつけねえで早く言いやがれ!」
衣月 「うちの演劇部は、知ってのとおり部員が少なくてね。自分たちの役割だけで手一杯なんだ。だから、今回大道具を壊されたのはかなり効いたよ。……そこで、大道。ご実家が工務店なんだって?」
雄一 「協力って……てめえ、まさか」
衣月 「そう。手一杯な僕らの代わりに、大道具や小道具を作ってくれないかな」
雄一 「……手ぇ抜いて作って、またお前らの舞台をめちゃくちゃにするかもしれねえぜ?」
衣月 「それが、君の言う“漢のスジ”なら、そうすればいい」
雄一 「……ッ!」
衣月 「強制はしない。手伝って欲しいのは夏休み明けの公演だ。考える時間はある。どうする? 大道」
雄一 「ハッ! そこまで言われて引けるかよ。てめぇでしたことのケジメはきっちり付ける。それが大道雄一だ!」
――――――
雄一 (チッ。借りを返す場所まで用意させちまって、情けねえったらねえぜ。……だが)
雄一 「いいモン作るしか、返す方法はねぇ。やるからには、本腰入れるぞ、お前ら!」
雄三 「やるけどさー。でもさー、絶対南條サマに上手く乗せられてんじゃん、兄ちゃ~ん」
雄一 「馬鹿野郎! 道に外れたことをしたのはこっちだ。文句垂れてねぇで、黙って手伝え!」
雄二 「……まあ、俺はいいと思う。工具貸してくれって頼みに行った時、なんか父ちゃん嬉しそうだったし」
雄一 「……う、うるっせえ! 工具やら廃材は借りても、俺は大道工務店を継ぐ気なんかないからな!」
雄二・雄三「「兄ちゃん、また言ってるー」」
男子学生 「はい、頼まれてた業務用の木工ボンドと、ステンレスボードと、追加のネジ100本!」
雄一 「おう、戻ったか。悪かったな、頼んじまって。……ん? それ、なんだ?」
男子学生 「演劇部に飲み物の差し入れ!」
雄二 「頼んでない。ていうか、なんでお前が演劇部に差し入れなんてすんだよ?」
男子学生 「オレ、わりと演劇部応援してるんだ。これまでの公演もけっこう観てるしさ」
雄三 「ふーん。でも、1、2、3……えっと、9本! 9本もあるぞ。演劇部は6人だろ?」
男子学生 「ついでにお前らにも差し入れ。大道具、がんばれよ。お前ら、話しづらいかと思ってたけど、いい奴だし! んじゃな!」
男子学生が去っていく。
雄二・雄三「「……漢じゃん」」
雄一 「金は俺らのだけどな」
雄二・雄三「「そうじゃん!」」
雄一 (チッ、ムカつくぜ。南條の奴……俺らの居場所を作ることさえ狙いだったのかよ。俺らは、あんなことしたってのによ。返す分以上に、デケェ借りができちまったな……)
雄一 「……お前ら、分かってんだろうな。中途半端なもん作ったら、あいつに笑われるぞ!」
雄二・雄三「「おうっ!!」」
衣月と律が部室から出てくる。
律 「声、無駄にでかいんですけど」
衣月 「お疲れ様。今日も元気だね、3人とも。みんな、大道具作るなら、部室の中でやりなよ。わざわざ、廊下に新聞敷いて作らなくてもいいんだよ?」
雄一 「いや。俺らにもケジメはある。部室は部員の物だからな」
律 「ありがたい気もしますけど、部室の中まで声響いてるんで、外でやってる意味は正直ないです」
雄二 「俺らのせっかくの遠慮を……。あ、そうだ。はい、飲みもんの差し入れ」
律 「え。なんで大道兄弟が。……怖いんですけど」
雄三 「オレらじゃないよ! パシリが買ってきたやつ! 演劇部のファンなんだって!」
律 「ちょっと、ファンをパシリにしないでよ。助っ人でも、うちの大道具を名乗るなら、ファンを大事にしてよね」
衣月 「……いいセットができてるみたいだね。すごい迫力だ」
雄一 「俺らが本腰入れりゃ、こんなもんだ。ダテに工務店の息子やってねーよ」
衣月 「うん……ありがとう、大道」
雄一 「フン! これから部活だろ。とっとと部室に入れよ、南條サマ!」
衣月 「そうさせてもらうよ。でも、南條サマはやめて? 衣月でいいよ」
雄一 「……。フン。誰がそんな、なれなれしい真似するかよ」
衣月 「ふふ。おいおいね。行こう、律。今度の公演も、本気でやらなきゃね」
律 「はい……! 大道兄弟……手、抜かないでよね」
雄一・雄二・雄三「「「おう!」」」
衣月と律、部室に戻る。
雄一 「……よし。あいつは本気で芝居をやる。なら俺らは、本気で大道具を作る。―――それが、漢のケジメってやつだ!」
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