第9節 牢獄の外で

[中都高校_視聴覚室]


 拍手が鳴り響く。


男子学生1「……っは! やべー、息止まってた……。すげーよ。最後、めちゃくちゃ引き込まれた」

男子学生2「あの2人、あんな鬼気迫る演技できたんだな。これまでとも違うっていうか……」

男子学生1「話も面白かったし、音楽も衣装も、なんか全部が光ってた。すげーな、演劇部……」


草鹿   「叶も神之も、いい顔してるな! 2人の掛け合い、すげーよかったじゃん!」

竜崎   「……ああ。正直、思った以上だ。これだから、叶真尋は……」


 鳴り止まぬ拍手。ロキの手元の小瓶に笑顔が光となり、集まる。


7章9節



オーディン(……小瓶はちゃんと機能しているな。“心からの笑顔”も、しっかり集まっている。―――いい芝居だったぞ、ロキ)




[中都高校_演劇部部室]


ロキ   (……まだ、ふわふわしてる。なんだこれ……今までと全然違う……。俺が、俺じゃなくなったみたいな……でも……うん。悪くない。いい、気分だ)

真尋   「ロキ……」

ロキ   「……真尋」

真尋   「……なんだか、不思議だな。ロキとはずっと顔を合わせてたのに──長い間会いたかった親友に、ようやく会えたみたいな気がする」

ロキ   「……お前はすごいな、真尋。ほんとに、すげー役者だ」

真尋   「どうしたの? そんなしみじみと……って、わっ!」


 真尋に抱きつくロキ。


ロキ   「この俺様が本気で褒めてるんだ。もっと嬉しそうにしろ!」

真尋   「ロキ……」

ロキ   「ったく参るぜ。頭の中で想像してた“囚人”と、お前、全然違ったから。俺の想像通りで来いって言っただろ?」

真尋   「あはは。ごめん。でも、ロキだって想像以上だったよ」

ロキ   「……冗談だ。ミラーハウスの時よりも、想像よりも、もっとずっとすごかった。不思議なんだ……。お前が、俺の想像以上の演技をする度に、どんどん楽しくなっていって……じゃあ、どう返してやろうって思って──俺……俺、芝居するの、楽しかった」


 破顔する真尋。


真尋   「俺も、同じだよ。ロキが次、どういう風にセリフを言うのか、一言一言楽しみで仕方なくて……。これまでで一番、楽しかった。夢中だった。ロキ、ありがとう。……俺これまで、ロキにすごく頼ってたって分かった」


真尋   「一緒に舞台に立ちさえすれば、ロキの華がお客さんを惹きつけて、その間に俺を舞台に留め置いてくれる。ロキさえいればって……。俺、きっと、いままでロキを1人の役者として見てなかったんだと思う。俺を舞台に立たせてくれる、魔法使いみたいに思ってたんだって気付いた」


ロキ   「真尋……」

真尋   「だから、合宿の舞台ではうまくいかなかったんだ。当然だよ……。でも、今日は違った。“神之ロキ”っていう役者と一緒にやるのが心底楽しかった。負けたくないと思った」

ロキ   「負けたく……ない?」


7章9節


ロキ   (なんで俺、負けたくないなんて言われて、妙に嬉しいんだ? 人間が俺に負けてるのは、生まれた時から当然のはずだろ? 張り合う方がバカげてる。なのに……嬉しい)


真尋   「ありがとう、俺と2人芝居をやってくれて。きっかけは神様の事情だったけど、今ロキとこうして芝居ができて、本当に嬉しい」

ロキ   「…………俺もだ。真尋。俺だって負けない。神たる俺が本気で芝居をやるんだからな。神級の2人芝居、全世界に見せつけてやるぞ!」

真尋   「あはは! うん。見せつけてやろう」


 2人、微笑み合う。




[中都高校_廊下]


衣月   「総介の狙った通り、一皮剥けたみたいだね」

オーディン「……では、私は帰るとしよう」

律    「……会って行かないんですか?」

オーディン「ロキの成長は順調だ。お前たちには協力を感謝する。ロキは、本当によい仲間を持った……」

律    「あなたが押しつけていったんですけどね。でも……一応、俺たちも、感謝はしてます」

衣月   「ええ。ロキのおかげで止まっていた時が動き出した。ありがとうございます」

オーディン「ああ。……これからも、私の愚弟を頼むぞ」


 あたりが光に包まれる。


律    「オーディン……?」


 ノルッパがただのぬいぐるみに戻る。


律    「……本当に帰っちゃったみたいですね」

衣月   「うん。いいお義兄にいさんだよね」




[中都高校_演劇部部室]


総介   「はーい。ロキたん、ヒロくん。いい雰囲気のところごめんね~!?」

章    「まだ視聴覚室の片付け残ってるんだぞ? 忘れてただろ」

真尋   「あ、そうだった。ごめん、すぐ行くよ」

総介   「廊下のツッキーとりっちゃんもね! そんで、片付け終わったら、今日の芝居の上映会ね~。観たいでしょ?」

ロキ   「観たい! 声は聞こえたけど、姿は見えなかったからな。真尋がどんな動きしてたか、じっくり見てやるぜ」

真尋   「それはこっちのセリフだよ、ロキ。楽しみだね」

ロキ   「おう! そうと決まれば、お前らさっさと行くぞ!」

章    「お前が仕切るなっての!」

総介   「はいはい、ロキたんロキたん」



総介   「……。ふう」


総介   (正直リスキーだったけど、乗り越えたな。また一歩前に進めた。まだまだ、課題は山積みだけど、ね……)


章    「こら、ロキ! 誰もいないからって浮くな!」

真尋   「……あ。思いついた。浮かんでるだけに……うっかり、うかうかしてられないね」

衣月   「浮かんで……うっかり、うかうか……………………くくくくくっ!」

律    「衣月さん……今の真尋さんのダジャレ、これまでの中でもクオリティー最低だと思うんですけど……」

総介   「あは。演劇部は、今日も愉快痛快だね~!」


 一同、わいわいとにぎやかに部室を後にする。

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