第8節 膨らむ気持ち

[中都高校_視聴覚室]


 本番当日。賑わう視聴覚室。


男子学生1「俺、演劇部の公演観に来るの3回目なんだ~」

男子学生2「マジか。いいなー。俺、前の海賊のやつしか見てないよ」

男子学生2「神之がシンデレラやったやつ、面白かったんだろ?」

男子学生1「それもめっちゃ面白かったけど、ロボットのやつも泣けたぜ?」

男子学生1「毎回レベルアップしてるから。今回も楽しみだな!」

 

草鹿   「ふんふん。今回もなかなかいい入りだね~。……叶の様子はどう?」

竜崎   「合宿の後、それなりに注意して見てはいたが、いつも以上に、楽しげに稽古してたよ。今は信じて見守るしかないだろ」

草鹿   「そっか。がんばれよ~、叶。神之も、西野も東堂も、南條も北兎も。みんな、がんばれ!」


7章8節


[中都高校_演劇部部室]


ロキ   「まだ衣装に着替えちゃダメって……マジかよ。そこまで徹底するか?」

総介   「うんうん! その方が、早く相手役に会いたい~! って気持ちが高まるでしょ?」

ロキ   「……まあいいけど。今日は、どのくらい客入ってるんだ?」

総介   「前回よりもまた増えてるよ~。どのくらい入ってるかは、舞台に出てのお楽しみ!」

真尋   「……なんだか、お客さんの前に立つの、すごい久しぶりな気がする」

章    「結局、夏休み中は舞台立ってないもんなぁ。ほんとに大丈夫か? 叶。ロキも」

真尋   「うん。やれることは全部やったから。今は早く舞台に立ちたくてたまらないよ」

ロキ   「俺もだ。早くやろうぜ!」


ノルッパ(オーディン)(私も早く観たい……!)

律    「ちょ、動かないで……!」

章    「ん? 北兎。またノルッパ持ってきてるのか? やっぱり、総介のせいでストレスが……」

律    「違います! 同情たっぷりみたいな目しないでください! 東堂先輩には関係ないって言いましたよね!?」

章    「お、おう……」

衣月   「……みんな。今回は本当に通しもゲネプロもなしで、これが初めて合わせる本番だ。なにか予期せぬアクシデントがあるかもしれないけど──」

ロキ   「大丈夫だ。衣月も俺の稽古、見てただろ?」

衣月   「……うん。だから、心配はしてない、って言おうとしたんだ。僕はすごく楽しみだよ。アクシデントはあって当然くらいの気持ちで、一度きりの本番を楽しもう」

章    「……部長もそう言ってるんだし、俺ももうどーんと構える! 構えるんだ、俺!!」

律    「衣月さんの言う通りです。真尋さんと……それから、ロキを信じます」

衣月   「怖くはないね? 真尋」

真尋   「……はい。この間の合宿の舞台は、“できる”と思って、足元を掬われた。でも今回は、できるかどうかよりも……」


 見つめ合うロキと真尋。


ロキ   「……」

真尋   「今のロキと、思い切り芝居をしたい。ただ、それだけだから、怖くはないです」

総介   「……よし。それじゃあ、2人とも着替えよっか」

総介   「ロキはホワイトボードの裏でお願い。2人とも、なるべく相手の姿を見ないようにね。ヒロくんは着替え次第、舞台に向かおう」


真尋   「……ロキ」

ロキ   「……おう」

真尋   「今からオレたちは、互いの顔も知らない者同士だ」

ロキ   「ああ。……牢獄を出たところで、また会おうぜ」


 2人、頷きあい、視聴覚室へ向かう。

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