第7節 裏方会議
[中都高校_演劇部部室]
数日後
衣月 「真尋とロキは、買い出しに行ってるのか。それじゃ、今のうちに、稽古の状況を共有しておく?」
総介 「ツッキー、以心伝心! オレもそう言おうと思ってた! 公演本番まで、ラストスパートの時期だからね。いったん整理しときましょう!」
章 「叶は、ロキがどう来るかのパターンをあれこれ想像してるみたいだ」
総介 「ロキたんはビックリ箱みたいだからね。楽しみながら、役を重層的に作り上げていってる。ロキたんがどんな芝居で来ても、問題ないと思うよ。芝居以前の棒読みにも、バッチリ対応してるしね!」
章 「おまっ、今それ言うか!? じゃあ、お前が代わりに読めよ! 元子役のくせに!」
衣月 「はは。章はどう? 真尋の相手してて」
章 「そうっすね……すごい役者ってのは分かってても、改めて前に立ってみると、少し怖いですね」
律 「怖い……?」
章 「見えない相手の姿を追い求めてる叶が、たまに、本当に何年も投獄されてる囚人に見えるんだよ。人に飢えてるっていうか、希望に飢えてるっていうか。俺も叶の息苦しさに引っ張られて、苦しくなる」
総介 「ヒロくん自身が……記憶の囚人──だったからね。長い間恐怖に縛られて、逃げられなかったんだもん。今、ヒロくんは穴を掘ってる最中なんだよ。囚人と通じるところがあるんじゃないかな?」
総介 「さて、それじゃあ、ロキたんの様子も聞かせて~? どんな感じ?」
律 「真尋さんと並べられるかって言ったら、全然ダメです。相手が、自分の行動に対して、どんな感情になってどう反応するかっていう想像力が足りてません」
章 「あー……他人の感情は思い通りにするか、ぶん投げるかって感じだもんな」
総介 「あはは。さすがロキたん。それで、本人はどうしてる?」
律 「あいつなりに考えてはいるみたいですけど、どうもうまくいかないみたいで、イライラしてます」
章 「そういえば、南條先輩が厳しい、みたいなことロキがこぼしてるって聞いたんですけど……」
衣月 「厳しくしてるつもりはないんだけど……ロキが考えるべきことを促してるだけだよ。答えを教えてあげるのは簡単だけど、それは僕の答えであって、ロキの答えじゃないからね。それに、イライラしてたのは確かだけど、この間の休みから、少し雰囲気が変わったかな。一度、休憩するか聞いてみたんだ。そうしたら──」
――――――
[回想]
ロキ 「……真尋だったら休まない。俺とあいつの2人で2人芝居なんだ。俺だけが見劣りするわけには、絶対いかない」
――――――
[中都高校_演劇部部室]
衣月 「──って」
章 「おおお! 成長してる!!」
衣月 「うん。あれは苛立ちじゃなくて――そう、負けん気だね」
章 「……ってか、この間の休みの日って、あいつら、“ところざわゆうえんち”に行ったんだっけ? 珍しいよな。そういうイベントに総介が「オレも行きたい!」って言い出さなかったの」
総介 「えぇ~? だって、愛し合うご両人を邪魔しちゃいけないと思って!」
章 「何そのテンション……」
総介 「ありがとねツッキー、チケット協力してくれて。おかげで、2人いい感じだよ」
衣月 「どういたしまして。招待券をねだったのは初めてだったから、むしろ両親もちょっと喜んでたよ。珍しく頼ってくれたって」
律 「でも、あの2人──特に真尋さんは、2人きりにしたら絶対稽古してますよ? よかったんですか?」
総介 「それも承知で2人きりにしてあげたんだよ。遠距離恋愛だって、まったく会わないより、ごくたま~に会った方が燃え上がるでしょ?」
章 「お前が恋愛のこと語るとはな」
総介 「芝居・映画・ドラマから得たオレの知識量にお任せ! 想像ってのは人類に与えられた特権だよ? んでもって、役者陣もだけど、みんなも首尾よく進んでる~?」
章 「特に北兎。大丈夫か?」
律 「は? 何がですか?」
章 「だって、最近ノルッパなんて持ち歩いてるだろ? 今日だって持ってきてるし……」
ノルッパ(オーディン)「……」
章 「総介に無理な注文つけられたストレスとかなら言えよ? 幼なじみとして、責任持ってシメてやるから」
総介 「あは♪ できると思ったことしか注文してないよー♪」
律 「っ、ストレスとかじゃありません! ノルッパは……! 東堂先輩には全く関係ありませんから!!」
章 「そ、そんな力一杯否定しなくても……まあ、大丈夫ならいいんだよ。俺も今回ちょっとぶち当たったっていうか……今までどれだけ2人に頼ってたか思い知ったぜ。これまでは、真尋とロキの演技に応じて台本にも修正入れてただろ? けど今回は……クオリティー上げたいと思っても、下手にいじったら、ガタガタになっちゃう気がしてさ」
衣月 「僕も2人の演技に刺激されてたから、分かるよ。……僕らは、まだまだ足りない。この間の合宿で、虹架の衣装の素晴らしさを見て痛感した。コンクールで虹架と競うためには、今のままで満足してちゃいけない」
衣月 「──本気でもまだ足りないんだって、分かった。もう中途半端なことはしないよ。真尋やロキの芝居を助けるだけじゃなくて、自分の衣装でも、勝ちに行くから」
律 「衣月さん……」
総介 「ひゃー! ツッキーカッコイイ! オレの心も、その針と糸で縛りつけてぇ!」
律 「キモ。衣月さんの決意を汚さないでください」
総介 「は~い! 今日の辛辣いただきました!」
律 「……確かに虹架はすごかったです。音楽なんてストックだったのに、学生レベルを超えてました」
章 「そう、それなんだよな! 高校の部活なのに、衣装も脚本も音楽もプロ級のストックで」
総介 「それが虹架の力っしょ。人ってのは、実力のあるところに集まるもんだし」
律 「はい。作業速度や曲数っていう力勝負じゃ当然、勝ち目はありません。でも、1曲当たりのクオリティーなら負けません。台本にとことん向き合った、1曲の密度で勝負します」
総介 「おお……りっちゃんも立派になって……! その旋律で、オレの心もかき鳴らして……!?」
律 「キモい通り越して無理」
総介 「ですよねー!」
総介 「……でも、そうだね。みんなの言う通り、オレたちには足りないことだらけだ。ロキが選ばれなかったことと、真尋がまた舞台に立てなかったことは、オレの責任でもあると思う」
章 「……総介」
総介 「ぶっちゃけ、浮かれてました! 夏休み前までガンガンうまくいってたからね~。このままの勢いで……、なんて思考停止もいいところだった。今のうちに気付けてよかったよ。まだやれることはある。今回の芝居、絶対に成功させて、2人をまた一皮剥けた役者にしたいと思ってるんだ」
総介 「さらに、新しい風! 大道具も、有志数名に手伝ってもらうつもりでーす!」
衣月 「有志? もしかして……
章 「えぇっ!?」
総介 「そ。少し前から『詫びがしたい』って言われてたんだけど、今回から頼むことにしたんだ」
律 「……あいつらですか」
総介 「うん。これまでは、1から10まで自分たちだけで作ろうとしてた。それがいいことだとも思ってた。でも、今はもう、そういう段階じゃない。脚本や音楽や……オレら本来の得意なことにもっと集中する時間が必要。そのために、力を貸してくれる人には、頼ろうと思う。自分のやるべきことに集中しないと、虹架には勝てない。りっちゃんも分かるでしょ?」
律 「……はい」
総介 「努力は報われる、がんばれば夢は実現する──なんて根性論や理想論で勝てる相手じゃない。努力して当然。がんばって当然。その上で何ができるかだ。いいと思ったことは全部やるよ」
章 「総介……」
総介 「ってわけで、その一環として、文化祭とコンクールに向けての宣伝ももっと強化するからよろしくね~」
衣月 「……あんまり無理しないで、手伝えることは衣装以外にも言ってね」
総介 「わ、メッチャ心強い! 大丈夫大丈夫~」
ボソリと。
総介 「……あんだけ言われて、言われっぱなしにはできないしね」
章 「……」
勢いよく部室の扉が開き、ロキと真尋が入ってくる。
ロキ 「おい、お前らっ!」
章 「……っ! なんだよ、びっくりすんだろ!!」
真尋 「ごめん、廊下は走らないようにって言ってるんだけど……」
ロキ 「イイこと思いついたぞ! 今度の公演、もっと人呼ぶための方法!」
律 「……嫌な予感」
ロキ 「遊園地でチラシ撒こう! すげーいっぱい人いたから!」
真尋 「無理だよ、ロキ。許可とかいろいろあるし……」
ロキ 「許可は俺様が出す! いっぱい来た方がいいだろ!?」
衣月 「ふふ。いい考えだけど、今度はいっぱい来すぎちゃうかもしれないね」
ロキ 「じゃあ、もっとデカいところでやればいいだろ? 遊園地の野外ステージなんてどうだ!?」
ロキ 「この間、ショーやってたんだ。な、真尋! 悪者ぶっ倒そうぜ!」
真尋 「ヒーローショーすごかったもんね。確かに、あれはちょっとやってみたい……」
章 「いやいや、遊園地の野外ステージなんて無理だろ。金銭的に。いや……南條先輩に頼めばアリ?」
ロキ 「衣月!!」
律 「……でも、その場合、どっちかがやられ役になるんじゃ?」
ロキ 「あ……じゃあ公平に、グーパージャスで決めるぞ、真尋!」
真尋 「グーパージャスは、2人じゃできないよ」
総介 「はは! ノリノリだねぇ。ロキたん」
衣月 「ふふ。ロキも芝居バカに近付いてきたかな?」
ロキ 「……っ! そんなんじゃない! 手っ取り早く“笑顔”集めるためだ!」
顔を見合わせる一同。
ロキ 「……っ、なんだよ、お前ら! 変な顔で笑うな!」
オーディン(ふ……。いい変化だな。ロキよ。このままいけば、きっと……)
総介 「よーし! それじゃあ、本番まであと少し。手探りな部分も多いけど、最後までやり抜こう」
ロキ 「……またしばらく別々だな。真尋」
真尋 「うん。本番、楽しみだね。ロキ!」
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