第4節 遊園地

[遊園地]


ロキ   「止めても無駄だ! この俺様を怒らせたこと、後悔するといい……!」

真尋   「ちょっ、待……っ!!」

ロキ   「ロキ様の炎で、すべて塵に帰してやる……!!」

真尋   「ダメだってばー!!」

ロキ   「そこを退け! 真尋! お前は特別に燃やさないでいてやる!」

真尋   「他の誰かを燃やすなら、むしろ俺にして! というか、まず燃やしちゃダメだよ! お化け屋敷に、おもちゃの蛇が出たくらいで……!!」

ロキ   「蛇くらい!? くらいって言ったか、この裏切り者!! 俺が蛇大嫌いだって知ってるだろ! やっぱりお前は、俺より人間の味方なんだな!」

真尋   「俺はいつでもロキの味方だよ!」

真尋   「でも、お化け屋敷に入るまで、ロキも笑ってただろ? 燃やしちゃったら、遊園地ごと閉鎖になっちゃうよ!」

ロキ   「……。……それは困る」

真尋   「でしょ? ……ふう。なんとか落ち着いてくれた……。驚いたよ。途中までは全然怖がらなかったのに、蛇が出てきたとたん、抱きついてくるんだから」

ロキ   「死者も化け物も怖くなんてない。あんなのでギャーギャー言うのは人間だけだ。でも、蛇だけは別だ……蛇だけは許せない……アイツを見ると、身震いがする……!」

真尋   「本当に苦手なんだね……」

ロキ   「……そういう真尋は、人間のくせに驚かなすぎだろ。途中から、生首持って追い掛けてきたヤツ困ってたぞ」

真尋   「うーん……驚いてはいたんだけどね。それ以上に、驚くリアクションってどういう動きをすればいいのか、とか、そっちに頭がいっちゃって」

ロキ   「芝居バカめ。うー、怒ったら喉が渇いたぞ! 何か飲ませろ!」

真尋   「はいはい。あっちに売店があったよ。ジュースもあったし、ポップコーンも売ってた」

ロキ   「ぽっぷこーん? なんだそれ! 美味いのか?」

真尋   「うん。味がいろいろあるよ。甘いのもね。できたてがすごく美味しいんだ」


 走り出すロキ。


ロキ   「ぽっぷこーん! どっちだ? あっちか!?」

真尋   「あ、ロキ! 1人で先に行ったら、またはぐれるよ!」

ロキ   「ヘヘッ、早く来いよ、真尋! 置いてくぞ!」

真尋   「……ふぅ……。妹と来る時みたいに、手を繋いだ方がいいのかな」


真尋   (ロキをアッと言わせるようなすごいものっていったら遊園地しか思い浮かばなかったけど……ロキ、喜んでるみたいでよかった。チケットをくれた南條先輩には感謝しないと。この遊園地、子どもの頃に来たことあったけど、NANJOグループが運営してるなんて知らなかった……)


ロキ   「真尋ー!」

真尋   「わ、もうあんなところ……いま行くよ!」




ロキ   「これがポップコーンか! うまいな、真尋! お前のバター醤油も食わせろ」

真尋   「ロキのキャラメルもちょうだい。もぐ……ほんと、美味しいね。前に食べたときよりも美味しい気がするよ」

ロキ   「んっ! こっちも美味いな。他の味も食べてみたい!」

真尋   「また今度ね。今日はアトラクション全制覇するんでしょ?」

ロキ   「そうだった。食べたら行くぞ、真尋!」


 その後、ジェットコースターに乗り終えた2人。


ロキ   「フハハハハ! 面白かったな、ジェットコースター! スカッとした! もう1回乗ろう!」

真尋   「すごい速さだったね。ロキ、ずっと笑ってたし。でも、もう1回は、いいかな……」


 


ロキ   「真尋! あれ乗ろう! あの、ぐるって一回転する船みたいなやつ!」

真尋   「ああ、バイキングのこと?」

ロキ   「ヴァイキング……? あはは! ほんとだ! あいつらの船を真似てるのか! なんで!?」

真尋   「そういえば、なんでだろう。よくある遊具だから、深く考えたことなかったよ。でも……観覧車にしない? あの奥にある大きな円形の遊具」

ロキ   「観覧車? あんなの後でいいだろ? ヴァイキング乗ろうぜ、バルト海に出発だ! あはは!」

真尋   「うぅ……絶叫系連続はキツイなぁ……」


 ロキと真尋が少し離れると、2人の男がロキに話しかける。


男1   「わ、君、可愛いね? 1人? 友達と一緒?」

男2   「俺らと遊ばない? お友達がいるなら、その子も一緒にさ」

ロキ   「フン……どこにでも涌くんだな。こういうの。ま、俺様の美しさなら当然だ」

男1   「オッケーってこと? それじゃあ……」

真尋   「すみません。俺、“彼”の友達なんですが、“彼”が何かしましたか?」

男2   「……彼!? 男かよ、マジかー……でも、これならアリかも……」

男1   「やめとけ、“彼氏”付きだ。行こうぜ」


 男たち、立ち去る。


ロキ   「誰が彼氏だ。ったく、下手なナンパだな。身の程知らずめ」

真尋   「大丈夫だった? ロキ」

ロキ   「フン。あんな風体で気安くこの俺を誘うとは、あっちの頭が大丈夫じゃない」


真尋   (こんな風に言われてるとは、彼らも思ってないだろうな……)


ロキ   「お前がいるんだ。あんなヤツらどうでもいい。次行くぞ、次!」




ロキ   「あっはっは! 着ぐるみが風船配ってるぞ! 遊園地って、ホント面白いな!」

真尋   「ロキは、他の国の遊園地とか、行ったことないの?」

ロキ   「あるぞ。でももっと小さかった。移動遊園地ってヤツ。こっちの方が派手で俺好みだ!」

真尋   「移動遊園地か。はは。こっちの方がバーン、でドーン?」

ロキ   「そう! この大がかりな機械が気に入った。これも、この国のいいところだな!」

真尋   「ロキが楽しそうでよかったよ」

ロキ   「おう! こうして2人で遊び歩くのは久しぶりだけど、相手がお前なら悪くないな!」

真尋   「久しぶり……? そうなの?」


 慌てて口を抑えるロキ。


ロキ   「……っ。別に……俺は、1人でいる方が好きだからな。ずっと前から」

真尋   「そう、なんだ……」


真尋   (そういえば、ロキが神様の世界にいた頃の話って、ほとんど聞いたことがないな。虹架にいる神様たちのことも。ロキが喋りたくなさそうなのもあるけど……。でも、いつも気になってた。こういうことを話すとき、ロキはいつも寂しそうだ。……どうしてだろう。聞いてみたいな。ロキのこと、もっと知りたい。……今日はお互いのこともっとよく知るために来たんだ。聞いても、いいのかな……?)


真尋   「その……。ロキは……」


真尋   (でも……なんて聞けばいいんだろう。嫌なこと、思い出させちゃうんじゃないかな)


真尋   「…………」

ロキ   「ん? なんだよ。さてはついに、俺様に惚れたか?」

真尋   「ついに……? 俺は、出会ったときからロキのこと好きだよ」

ロキ   「……お……おう。当然だな」

真尋   「うん……そう、だから知りたいんだ。ロキがよければ、教えてくれる?」


 真尋、ロキにまっすぐ向き合う。


真尋   「俺と出会う前、どんな風に生きてきたのか」

ロキ   「──っ。なんで、そんなこと……」

真尋   「そうだね。急にごめん。俺は、今までずっと、演じる役のことばっかり考えてきた。だけど、誰かのことをこんなに知りたいって思ったのは、ロキが初めてなんだ」

ロキ   「……芝居のためだろ」


真尋   「ううん。役者じゃなくて、ただの叶真尋として、もっと、ロキのことが知りたい」


ロキ   「…………。……そんなこと言ってきた人間、初めてだ。全部語るなんて、お前らの時間、何年使っても無理だぞ」


真尋   「全部じゃなくていいんだ。教えて、ロキ」


 ロキ、少し身じろぐ。


ロキ   「…………。少しだけだ。……俺は、元々アースガルズの神々とは敵対する一族に産まれたんだ。けど、オーディンに誘われて、アイツの義理の弟としてアースガルズに住むようになった。……今思えば、なんでそんなことしたんだか。やめておけばよかったぜ」

真尋   「どうして?」

ロキ   「アースガルズのヤツらは、心底つまらなかったからな。ちょっとイタズラしただけですぐに怒るし、俺だけを悪者にしやがる」

真尋   「悪者って……。……家族は一緒に住んでなかったの? 前に言ってただろ、妻も夫も子どもも、たくさんいるって」

ロキ   「おう! 俺様の子どもは優秀なヤツばっかりだぜ。でも、別に、人間みたいな意味の家族じゃない」

真尋   「じゃあ、友達は? 虹架にいた4人の神様は、友達じゃないの?」

ロキ   「……あんなヤツらが友達なもんか。それどころか、あいつらは……っ」


ロキ   (俺の“条件達成”の障害になるために虹架に入った……──なんて言ったら、真尋のヤツ、ヘンに意識してまた、うまく芝居できなくなるかも……)


真尋   「ロキ? どうかした?」

ロキ   「……なんでもない。とにかく、あいつらは友達なんかじゃない。……トールとは、一緒に旅をしてたことだってあるけど……。でも……結局、あいつだって、俺のことなんか、何一つ分かっちゃいなかった。何一つ――」


――――――

[回想]

[アースガルズ]


女神     「……き、きゃぁあああ!」


バルドルがその場に倒れる。


ヘイムダル 「くそっ……オレ、オーディンを呼んでくる!」

ロキ    「……っ!」

トール   「ロキ。俺だけは、何があってもお前の味方だ。だから──」

――――――


[遊園地]


ロキ   「……味方、ね……」

真尋   「ロキ?」

ロキ   「……っ。お前には、関係ない。これ以上話したら……」


ロキ   (これ以上話したら、真尋だって俺から離れていくかもしれない。そんなの……だめだ)


真尋   「……。──関係なくないよ」

ロキ   「……え?」

真尋   「確かに、神様の事情は、人間の俺には分からないかもしれない。でも……それでも、俺は知りたいよ」

ロキ   「なんでだよ。そんなの、知らなくたって──」

真尋   「だって、ロキは神様の世界の話をするとき、いつも寂しそうだ」

ロキ   「……っ!」

真尋   「ロキは演劇部の仲間で、ルームメイトで……俺を救ってくれた、かけがえのない共演者で……今の俺にとって、すごく大切な存在だから……寂しそうな顔なんて、してほしくないんだよ」

ロキ   「……真尋」


7章4節


真尋   (……ロキは自分勝手なところもあるけど、すごくいい奴だ。もし、虹架のあの神様たちがロキを誤解しているなら、それは違うって言いたい。余計なことすんなって、ロキは怒るだろうけど……。……ロキはいつか、アースガルズに帰る。その時、笑顔で迎えてくれる相手は多い方がいい。俺が芝居に戻ったとき、西野たちが、笑顔で迎えてくれたみたいに……)


真尋   「……話したくないことは、無理に話さなくていいよ。でも、これだけは覚えておいて。俺はロキの味方だよ。何があっても。ロキが元の世界に戻れるように、一緒にがんばるから」


ロキ   「……」


真尋   「…………」

ロキ   「っ……、分かった分かった。今度話す! お前、本っ当に変な人間だな!」

真尋   「うん。待ってるね」

ロキ   「……それより! 次のアトラクションに行こうぜ! 帰るまでに全部制覇するんだから!」

真尋   「全制覇まで、まだ道は遠そうだね。次はどこに行こうか。そうそう、園内地図を……」


 ロキ、下を向いたまま小さくつぶやく。


ロキ   「……ありがとな」


真尋   「え? 何か言った?」

ロキ   「……っ別に! ほら、置いて行くぞ!」

真尋   「ロキ」

ロキ   「なんだよ」

真尋   「俺も、ありがとう」

ロキ   「っ! 聞こえてたのかよ!!」

真尋   「あはは! 置いてくよ!」

ロキ   「あ、待て!! 真尋のくせに!! 俺様より先に行くなんて、100年早いぞ!」


 2人、走り出す。

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