第14話 恋とは?

 

「…はぁ…恋って何なんだろうね?」


 ハルが中学生になって初めての夏休みの初旬頃、ハルの屋敷でハルとヨシコは夏休みの宿題、遥香は受験勉強をしていた。

 そんな中、不意に遥香が呟いた。


「…現実逃避してないで、集中しなよ。

 遥香ちゃん。」

 ハルは宿題をしながら、遥香に注意した。

「えぇ~もっと事情とか聞いてきてよ~

 つまんないじゃん~」

 遥香は机に乗り出して、ハルに言った。

 ハルはため息をついて、遥香に言った。

「いや、別に私は夏休みの宿題なんて、別の日にやればいいだけだからいいけど、遥香ちゃんが一人じゃ集中できないって言ったから、こうやって一緒に勉強してるんじゃん。」

「それはお母さんに対する方便でさ~

 私、普段コツコツやるタイプだから、別に追い込まれてるわけじゃないし。

 要は一緒に楽しくおしゃべりしながら勉強したかっただけなんだよ。」

 遥香はこともなげにハルに言ってのけた。

 ハルはそういうことかと納得した顔で遥香に言った。

「…まぁ、確かに遥香ちゃんって賢いから、急に一緒に勉強しようって言いだしたのは変だなとは思ってたんだよ。

 じゃあ、休憩がてら話を聞いてあげるよ。」

「私も別にいいよ~」

 ヨシコも賛同したのだった。

 遥香は嬉しそうな顔をして、再び、少し上を見ながら、呟いた。


「…恋って何なんだろうね?」


「知らないです。」

「私も分かんない~」


 そして、話が終わってしまった。


「ちょ、ちょっと待って!!

 流石にそれは寂しすぎる!!

 もうちょっと話を膨らませる努力をしてよ!!」


 遥香は焦った様子で二人に言い寄った。

「そんなこと言ったって、私とヨッシーに聞く時点ですぐ終わるの分かってたでしょ。

 別に好きな人もいないしさ。」

「そうだよね~」

 ハルとヨシコは遥香に冷たく言った。


「…最近、二人の私に対する扱いがどんどん雑になってきてる気がするんだけど…」

 遥香は珍しくしょんぼりしている様子だった。

 その様子を見て、ハルはしょうがないなと遥香の頭を撫でて、優しく笑って言った。


「身から出た錆っていうんだよ。こういうのは。」


「全然、励ましになってない!!

 びっくりするわ!!」


 遥香はすぐさま突っ込んだのだった。

 ハルとヨシコはケラケラ笑っていた。

 ハルは笑いが落ち着いた頃に遥香に聞いた。


「でも、急になんでそんなこと言い出したの?」


 遥香は少し恥ずかしそうな顔をして、ハルに答えた。

「…えっと、実はこの前の終業式の日にさ。

 告白されてね。まぁ、断ったんだけど。」


「えぇ~また~?ホント、遥香ちゃんってモテるんだね~」

「まぁね~でも、いつもと違って、その男の子が食い下がってきてさ。

「他に好きな人がいるのか?」って聞かれて、「いない」って言ったんだけど、「じゃあ、一回遊びに行かない?絶対俺のこと好きになるから」って言われたんだよ。」

「すごいね~一回は断られてるのにメンタルが強いね~」

 ヨシコも驚いていた。


「私、なんか怖くなってさ。

「いや、いいです。」って言って、終わったんだけど…

 今思えば、そこまで必死にアピールしたいくらい人を好きになれるっていいな~って…

 ちょっとうらやましく思ったんだよね。

 振った私が言うのもなんだけどさ。」


 遥香はいつもと違い、物憂げな様子であった。


「それで、恋するってどんな感じなのかな~って興味が沸いたっていうかね。

 だから、聞いたの。」


 ハルは遥香の話を聞いて、う~んと考えた。

「じゃあ、遥香ちゃんはどんな人が好きなの?」

「顔がかっこいい人。」

 遥香は平然とした顔で即答した。

 ハルは呆れて、遥香に言った。

「だから、そういうこと言うから、話終わっちゃうんだよ。」

「だって、本当にそうなんだもん。」

 遥香のきょとんとした顔に少し苛立ったが、ハルは頑張って話を広げようと遥香に言った。

「え~じゃあ、顔はまぁかっこいいとして、どんな性格の人が好きなの?」

「ん~そうだな~無難に優しい人かな~

 後、いじっても怒らない人。」

 遥香は性格の悪そうな回答をハルにした。

 ハルは頭を抱えて、遥香に言った。

「…遥香ちゃんって、Sだよね…」

「はは~どっちかっていうとそうだね~」

 遥香は楽しそうに笑っていた。

 すると、ヨシコがジュースを飲みながら、ハルに聞いた。


「ハルちゃんはどんな人が好きなの~」


「えぇ~私?」

 ハルは不意に聞かれて、戸惑った。

「そうだよ。散々、私のことバカにしてたんだから、そりゃ参考になることを言ってくれるんでしょう。」

 遥香はハードルを上げたのだった。

 ハルはぐぬぬっとなりつつも、考えて答えた。


「そうだな…

 私の場合、まず第一にお化けが見えることを認めてくれるのが、大前提としてあるよね。

 あとはまぁ、正直になんでも話してくれる人がいいかな?

 遥香ちゃんと違って、顔は別に好みとかはないよ。」


「…普通だな。」

「そうだね~普通だね~」

 遥香とヨシコは真顔でハルの答えの感想を言った。

「普通ってなんだよ!!

 こちとら頑張って考えて答えたのに!!」

 ハルは二人の感想に怒った。

 そして、ハルはヨシコに同様の質問をした。

「ヨッシーはどうなんだよ~ヨッシーは~」

 ヨシコは笑いながら、ハルに答えた。


「私はハルちゃんみたいにかっこいい人が好きだよ~」


 そんなヨシコの答えにハルは嬉しくなり、ヨシコを抱きしめながら、言った。

「ヨッシーは本当に可愛いな~」

 一方、遥香は少し引いた顔をしていた。

「…ヨッシーって結構危ういことを言うよね。」


「そうだ!

 ここは人生経験豊富な桜さんに聞いてみよう!!」


 遥香が思いついたように二人に提案した。

「えぇ~桜おねぇちゃんが話してくれるかな~」

 ハルがヨシコから離れて、机に片肘をつきながら、遥香に言った。


「何の話ですか?」


 すると、突然、机の中から桜が顔を出した。

「うわっ!!

 だから、そういう登場の仕方やめてよ!!

 マジでびっくりするから!!」

 桜はふふふと笑って、悪びれもせず、ハルに言った。

「驚かそうとしてるんだから、しょうがないじゃないですか。

 …で、何の話を私に聞きたいんですか?」

「えっと、所謂恋バナなんだけど、桜おねぇちゃんは恋って何だと思う?」

 ハルはとりあえず、桜に聞いてみた。

 すると、桜は意外にもちゃんと話を聞いてくれるようで、少し考えた後にハルに答えた。


「…そうですね。

 その人のためなら死んでも良いと思える程、心酔することなのではないでしょうか。」


「重い!!

 桜おねぇちゃんの場合はそうかもしれないけど、中学生には重すぎるよ!!それは!!」


 ハルは桜の怖い回答に声を張り上げて、突っ込んだ。

「桜さんはなんて言ったの?」

 ハルが一人で突っ込んでる様子を見ていたが、遥香はもう見慣れたのか、特に気にする様子もなかった。

「…なんか、その人のためなら死んでもいいって思えるくらい好きになることみたいに言われた。」

「そ、それは流石に重いね…」

 遥香は普通に引いていた。

「…折角、答えてあげたのに中々ひどい反応ですね。」

 桜は無表情ながらも、少しがっかりしている様子であった。


「きっと、私たちは男子との接点が少ないんじゃないかな~

 私なんてほとんどしゃべったことすらないもん~」


 ヨシコはお菓子を食べながら、ゆったりと言った。

 遥香とハルは確かにと納得していた。

「…ヨッシーって何気にまとめるの上手いよね。」

 ハルは感心しながら、ヨシコに言った。

 ヨシコはいや~と照れながら頭を掻いた。

 そして、遥香が思いついたように声を上げた。


「それなら、男子と遊んでみよう!!

 所謂、合コンというものをやってみよう!!」


「…また急に合コンて。

 そんなのどうやってすんの?」

 ハルは合同コンパについては大学院生の瀬戸や神山から聞いていたので、意味は知っていた。

 ヨシコは合コンとは何だろうと分かっていない様子であった。

 遥香は急にハルの手を握って、ハルにお願いした。


「ハルって、何気に空手の道場とか、大学生とかの男の人に対して、顔広いじゃん!

 ちょっと、遊びに誘ってみてよ!お願い!!」


「えぇ~私が集めるの~

 嫌だよ~めんどくさい~」


 ハルはうっとおしそうな顔をした。

 遥香はニヤッと笑って、ハルに言った。


「桜さんとも外で皆と遊んでみたくない?

 それに男子を連れて来てくれるだけでいいんだよ。」


 ハルは遥香の提案を聞いて、チラっと桜を見た。

 桜はほぉ~と言った顔で満更でもない様子だった。


(確かに桜おねぇちゃんと皆で遊ぶのは楽しそう…)


 ハルにとっても正直、遥香の提案は魅力的だった。

 しかし、ハルは頭を掻きながら、遥香に言った。


「でもなぁ~

 桜おねぇちゃんを驚かない男子の知り合いは少ないからな~

 何人かは心当たりあるけど。」

「まぁ、とりあえず3人いたらいいんじゃない?

 女3男3の合コンで桜さんが保護者として参加みたいなね?」

「…私が保護者ですか…

 まぁ、別にいいですけど。」

 桜は特に嫌がる様子もなかった。

 桜の様子を見て、ハルはしょうがないかとう~んと言いながら、ハルは中学生になって総一郎に買ってもらった携帯を見て、誰を呼ぶかを考え始めた。


(まっ、この機会に桜おねぇちゃんを紹介したい人を呼んでみるか…)


 そして、ハルはその3人を決めて、遊びに誘うメールを送ったのだった。




 合コン当日、ハル、遥香、ヨシコ、桜の女子4人組は少し早目に待ち合わせ場所に向かっていた。


「…今日来る男の子って、どんな感じの人なの?」

 遥香は当日までハルに秘密にされていたことを聞いた。

「えっと、一人は私と同い年の子で落ち着いた子かな。

 もう一人は遥香ちゃんと同い年の先輩になるね。

 最後の一人は社会人なりたての人を呼んでみたよ。

 合コンについて良く知ってるかなって思って。」

「中々バリエーション豊かな人達だね。」

「うん。

 実は3人ともお互い面識ないから、早めに待ち合わせの場所に行っとかないと超気まずいんだよね。」

「…良くそんな人達を呼べたもんだね。」

 遥香は少し呼ばれた3人を気の毒に思った。


 そして、待ち合わせの場所に到着すると、ビシッと黒のジャケットを腕まくりして、七分丈のズボンのポケットに片手を突っ込みながら、携帯をいじってそわそわしている眼鏡の男が立っていた。


「神山さん~早いね~久しぶり~」


 ハルはそのどこにでもいるような大学生ファッションの男、神山に声をかけた。


「お~久しぶりだな~

 あれ?てか、その子達は?」


 神山は久しぶりに会ったハルに挨拶をしながら、何故か不思議そうな顔をして、遥香とヨシコを見た。


「中学三年の志岐遥香です。

 今日はよろしくお願いします。」

「ハルちゃんと同い年の武田良子です~

 よろしくお願いします~」

 遥香とヨシコは神山に挨拶した。

「あ、あぁ、こちらこそよろしく。

 えっ?あれ?

 今日ってハルとハルのお姉さんが来るんじゃなかったの?」

 神山は二人に挨拶されたものの腑に落ちていない様子でハルに聞いた。


「あれ?

 二人が来るって言ってなかったっけ?」

「聞いてないよ!!

 お姉さんを紹介してくれるって言うから来たのに!!

 …まさかと思うけど、あいつも今日来るとかはないよな?」

 神山は聞いていた話と違っていたことに驚いたことと、「あいつ」、即ち、彼女である瀬戸もひょっとしたら来るんじゃないかと、恐る恐るハルに確認した。

「大丈夫。

 愛さんも呼んでみたけど、バイトで来れないんだって。」

「そ、そうだよな。

 良かった良かった…」

 神山は彼女がいるにも関わらず、女の人を紹介してもらうという行為が瀬戸に知られたら、まずいと思っていたため、安心した。


「でも、桜おねぇちゃんを神山さんに紹介するって話はちゃんと愛さんにしたよ。」


「僕、何か君に悪いことしたっけ?」


 神山はハルの残酷な宣言にうなだれた。

 そんな話をしているともう一人の男が到着した。


「…お、遅れてすみません!」


「あ、太田君。

 大丈夫だよ。全然遅れてないから。」


 太田はポロシャツにスラックスといったオーソドックスな服装ながらも、流石は医者の息子と言ったところか、いいとこの坊ちゃんみたいな恰好だった。

「やっぱり、太田君だったんだ~

 だって、同い年で接点ある男の子って、太田君くらいしかいないもんね~」

 ヨシコは失礼なことを平気で言った。


 そして、太田に若干遅れて、最後の一人がやってきた。


「思ったより、人多いな。おい。」


「サトにぃが一番最後だよ~遅いよ~」


「遅くねぇだろ!ちゃんと5分前に来てるだろ!」


 最後の一人は総一郎の兄である恵一の息子、聡であった。

 同じ「川田道場」に長年通ってるだけあって、いつしか呼び方が「聡お兄ちゃん」から「サトにぃ」に変化したのだった。

 聡は空手をやっているだけあって、シュッとした体形で、Tシャツにジーパンのすっきりした格好だった。

「あれ?加藤君じゃん。

 加藤君て、ひょっとしてハルの親戚なの?」

「そうだよ。いとこなんだよ。

 そっか、サトにぃも南小出身で同じ中学だもんね。よく考えたら。

 学校で見たことないから、忘れてたよ。」

「忘れんなよ…

 1年と3年で会うことが少ないのは分かるけどもよ。」

 聡は呆れて言った。

 遥香はハルと聡が親戚だったのが、意外で驚いていた。

「へぇ~そうだったんだ~

 3年になって初めて同じクラスなったばかりだから、お互いあんまり話したことないね。」

「そうだな。でも、流石は優等生だな。勉強は余裕な感じなんだ?」

「それを言ったら、加藤君もじゃん。」

「…まぁ、たまには息抜きも必要だろ。」

「そうだよね~分かる~」

 遥香はまだ若干猫をかぶっている様子だった。


「…てか、男もいるんすか…

 何故に僕は呼ばれたんですかね?」


 うなだれていた神山がハルに聞いた。


「えっと、私達は合コンというものをしてみたくて、皆を誘ったんだよ。

 で、神山さんて合コンについて詳しいでしょ?

 だから、合コンの仕方を教えてほしいんだよ。

 あと、ワンチャン社会人だし、奢ってくれるかなって。」


「君は本当に僕のことを何だと思ってるんだ。」


 神山はハルの悪びれもしない態度に呆れた。


「てか、お姉さんも来てないし…

 本当にひどい仕打ちだよ…」


 神山は本当にがっかりしていた。


「桜おねぇちゃんなら来てるよ。

 皆にもちゃんと紹介しておくね。」


「えっ?どこに?」


 神山は必死で回りを見回した。

 そんな中、ハルは持っていたカバンの中からタブレットを取り出して、男3人に見せた。

 神山、聡、太田が不思議そうにタブレットを覗き込むと、触れてもいないタブレットが光って、メモアプリが起動して、文章が書きこまれた。


「始めまして。東雲桜と申します。

 お化けではありますが、以後、お見知りおきを。」


 3人は固まった。


「えっ?なにこれ?どゆこと?」

「ど、どうなってんだよ?これ?」


 神山と聡は慌てふためいていたが、太田は何か納得した様子だった。


「…まぁ、加藤さんにお化けの知り合いがいてもおかしくないか…」


「なんでだよ!?

 普通ビビるだろこんなの!!」


 聡は太田の様子を見て、突っ込んだ。


 そんな驚いている男3人の様子を見て、ハル、遥香、ヨシコはケラケラ笑っていた。


「ほ、ホントに分かんないんだけど、これどうやってるの?」


 神山はどうしても聞かざる負えない様子だった。


「だから、桜おねぇちゃんが操作してるんだって。

 皆には見えてないけど、私には見えてるの。

 今、3人の目の前でふわふわ浮いてるよ。」


 神山と聡はハルの言葉を聞いて、ビクッと一歩後ろに下がった。


「…嘘だろ…お前、ホントにお化けが見えてたってことかよ…」


 すると、聡に返事するようにタブレットに新たに文章が書きこまれた。


「そうですよ。

 ハルからあなたの話は聞いていますし、あなたの空手の試合も何度か見ましたよ。

 いい正拳突きをするじゃないですか。

 今後に期待していますよ。」


 聡は桜の返答を読んで、少し嬉しそうだった。


「…良く分かってる人じゃん。

 まぁ、本当にハルにお化けが見えてるなら、納得できる部分はあるしな。

 ここは男らしく、認めるか。」


「いやいやいや、全然納得できないよ!!

 えぇ~マジでぇ~」


 神山は完全に引いていた。

 桜は神山の様子を見て、しょうがないとタブレットに文章を入力しだした。


「あなたには大変お世話になりましたね。

 おかげ様で「サガスト2」は無事、クリアできましたよ。

 ありがとうございます。

 今日のあなたの服装は素敵ですよ。」


「…この人、いい人だな。

 お化けにもこの服装が分かる人がいるんだな…」

 神山はその文章を読んで、簡単に心を許したのだった。

 ハルもタブレットを覗き込んで、桜の返答を読んで、少し意外に思った。


「桜おねぇちゃんもお世辞って言えるんだね。」

「だから、君はさっきから僕を傷つけることしか言ってないよ?」


「じゃあ、紹介も終わったことだし、神山さん。

 私達、合コンって何したらいいか分かんないから、早速教えてほしいんだけど。

 桜おねぇちゃんはこの町以外は行けないから近場でね。

 ちなみに、神山さんは今日、どこに行くつもりだったの?」


 ハルは神山の突っ込みを軽くスルーして、今後の方針を決めてもらうことにした。


「…結局、中学生6人とお化けが1人か…はぁ…

 いや、僕は今日、お姉さんとハルと3人だと思ってたから、おしゃれなカフェとかに行こうと思ってたんだよ。

 でも、ちょっと人数多いから、騒いでも良いとこじゃないし…

 合コンっていうなら、普通は居酒屋とかだけど、君たち中学生だしな~

 行くとしたら、ボーリングとかカラオケかな?」


 神山は全てを諦めて、付き合うことにして、皆に行き場所の提案をした。


「ボーリングかカラオケかぁ~

 二つともやったことないや。

 でも、楽しそうだね。

 皆どう?」


 ハルは皆に聞いた。

「うん。いいと思うよ。」

「私も~」

「いいんじゃねぇか。」

「…僕は何でも大丈夫ですよ。」

 他の皆も賛成した。


「じゃあ、ボーリングとカラオケどっちにするかだけど、神山さん、どうしよ?」

「…マジで、全部、僕が決めるのか…

 ボーリング場はこっから遠いし、カラオケの方がいいと思うけど。」

 神山はもうどうとでもなれとカラオケを提案した。


 最後にハルは桜に確認した。


「桜おねぇちゃんはカラオケでもいい?」

「別に私に気を遣うことは無いですよ。

 どこでも構いません。

 正直、あなた達を見てるだけで、ちょっと面白いですし。」

 桜は少し意地悪な返答をした。


「よし!じゃあ、カラオケにいこ~!!

 神山さん、場所案内してね~」

「分かりましたよ。

 じゃあ、ついてきて。」


「…しかし、カラオケですか…久しぶりですね…」

 桜は小さな声で呟いた。

「えっ、今なんか言った?」

「別に。何も言ってませんよ。」


 そうして、神山、ハル、桜、遥香、ヨシコ、聡、太田の計7人はぞろぞろとカラオケ店へと向かうのであった。



 カラオケ店への道中、男3人と女4人が別に固まって、歩いていた。

 女4人はべらべらと楽しそうに話していたが、男3人は初対面なこともあり、黙ったままだった。


 神山は聡が自分よりも背が高く、明らかに体育会系の体形と態度であったため、少し警戒…というよりビビっていた。

 聡は神山も太田も今まで話したことのなさそうなタイプだったため、どう話をすればよいのか考えていた。

 太田は元々、話さない方だったので、比較的何も考えていなかった。


 そんな空気にいたたまれなくなり、聡が神山に言葉をかけた。


「神山さん。

 なんか、ハルがご迷惑をお掛けして、色々とすみません。」


 聡は空手をやっているだけあって、上下関係にはきっちりしていた。


「い、いやいや、全然大丈夫だよ。

 こういう扱いは慣れてるしね。」


 神山は少し情けないことを言ったが、聡が礼儀正しく話してくれたことで、少し緊張がほぐれた。


「というか、君達も良く来たよね。

 君達は何て誘われたの?」


「俺はハルに遊びに行こうってメールが来ただけで、他には特に。」

「僕もです。」


 神山は二人の返答に少し呆れて、二人に同じようなことを言った。

「…本当にそれでよく来れたね…」


 神山の言葉に聡は何故か恥ずかしそうにして、神山に返答した。

「い、いや!!

 ちょっと受験勉強にも疲れて来てて、丁度遊びたい気分だったんすよ!!

 ホント、それだけっすよ!!」


 神山は分かりやすいな~といった表情で、少し聡のことが好きになったのだった。

 そして、神山は太田にも聞いた。


「太田君はどうして今日来たの?」


 太田も少し恥ずかしそうにしながら、神山に答えた。


「い、いや…僕は友達が少ないから、遊びに誘ってくれるだけで嬉しかったというか…

 だから、皆さんの楽しそうな雰囲気を見てるだけで楽しいというか…」


 神山はこれまた分かりやすいな~といった表情で、かなり太田のことが好きになったのだった。

 聡もこいつ、いい奴だなと思ったのだった。


「…てか、桜っていうお化けの件…どう思います?」

 聡は正直なところを神山に確認した。

「いや~正直、信じられないけど、あんなはっきり現象として現れるとね。

 信じるしかないというか、なんというか。」

 神山は何とも言えない表情で、答えた。

「僕は初めから信じれましたよ。」

 太田は平気な顔をして言ってのけた。

「そうだ!!太田はなんで、そんなすんなり受け入れることができたんだよ?」

「…実は僕、悪い背後霊が憑いていたことがあって、その除霊をしてもらったことがあるんですよ。

 正確には除霊できる人を紹介してもらったんですけど。」

「マジで!?除霊!?何それ!?」


 なんだかんだ男子は男子で話が弾んだのであった。




 そうして、一行はカラオケ店へと到着した。


「やっぱりここだったんだ。」


 神山が受付をしている間に遥香が呟いた。


「遥香ちゃん、ここ知ってるの?」

「うん。何度か来たことあるよ。

 …でもね…ここって実はお化けが出るって有名なんだよ…」

 遥香は不気味な笑顔でハルに答えた。

「…えっ、マジで?

 もう勘弁してよ〜」

 ハルはすごく嫌そうだった。


「お前、お化けが見えるのに怖いんだな。」

 聡が少し意地悪そうに笑って、ハルに言った。


「見えてる方が怖いんだよ!

 桜おねぇちゃんだって、実は頭から血流してるんだからね!

 桜おねぇちゃんに関してはもう流石に慣れたけどさ〜

 見慣れない血みどろのお化けにはまだビビるよ〜」

「ま、マジか…

 それはなんか、すまんかった…」

 聡はハルの説明を受けて、自分でもぞっとして、素直に謝った。

 その様子を見て、遥香は笑っていた。


「ははは。

 まぁ、よくある話で夜中に勝手に選曲されたり、薄気味悪い女の人の声が聞こえるとかそんなだから、大丈夫だって。」


「いや、全然大丈夫じゃないよ…」

「いや、全然こえぇよ…」

 ハルと聡は声をそろえて、突っ込んだのだった。

 遥香はまた笑って、二人に言った。

「はは~さすがは親戚。息ぴったりだね~」

 聡は少し顔を赤くして、遥香に言った。

「べ、別にそんなそろってねぇだろ!!」

「そんな必死に否定しなくても、いいじゃん。

 別に親戚なんだし。」

 ハルは何ともない顔で聡に言った。

「必死じゃないだろ!

 …ほら、受け付け終わったみたいだし、行こうぜ!」

 聡は何故か言い訳するように二人を急かした。


 遥香は聡の様子をニヤニヤしながら、見ていたのだった。



 そうして、皆は受付を済ませた神山に連れられて、指定された部屋へと入った。


 部屋は8人くらいが入れるくらいの人数の割には広めの部屋だった。


「おぉ~~結構広いね~」

「そうだね~すごい機械がいっぱいだ~」


 初めてカラオケの部屋に入ったハルとヨシコは周りを見ながら、楽しそうに話してながら、適当に隣どうしに席に座った。

 そうすると、自然に女子3人と男子3人が向かい合うように座ることになっていった。


(…合コンなら席順とか重要なんだけどな~

 こんな簡単に決めてくれるなら、楽でいいけど…)


 神山は思っていたことを口には出さないようにした。


「飲み物は飲み放題で受付のところにあるから、適当に持って来たらいいよ。」


「すごい!飲み放題なんだ~」

 ハルは驚いていた。

(…子供は本当楽でいいな…)

 神山はこんなに気楽な合コンがあるだろうかと内心思っていた。


 そして、神山の指示に従って、各々、好きな飲み物を持ってきた。


「じゃあ、誰から歌う~?」


 皆が席に着いたところで、ハルが話を切り出した。


「主催者なんだから、お前から歌えばいいだろ。」

 聡はハルを指名した。

「やだよ!!はずいし!!

 大体、主催者じゃないし!!

 主催者っていうなら、遥香ちゃんから歌ってよ~」

 ハルは遥香を指名した。

「私は別にいいけど、そもそも合コンのカラオケってそんなに歌うものなのかな?

 そこらへんどうなんですか?神山さん?」

 遥香は優等生らしく、冷静に神山に聞いた。

「え~と、そうだな~

 まぁでも、始めの方は適当に歌うかな~

 そんで、慣れてきた頃に歌うのやめて話す感じだよ。」

 神山は自分の経験してきた合コンの説明をした。

「流石、経験豊富ですね~

 大人の男って感じで素敵です~

 そんな神山さんの歌声聞いてみたいな~」

 遥香は猫なで声で神山にお願いした。

「そ、そう?

 じゃあ、歌っちゃおうかな~」

 神山も悪い気がしなかったのか、曲を選び出したのだった。


「…これ、合コンじゃなくて、接待じゃね?」


 聡は小さな声で呟いた。


 そして、神山は若い子でも分かるような今時の曲を選曲して、歌った。

 歌い終わった後、皆は拍手をして、各々感想を述べていった。


「すごいじゃん!アニソン歌うかと思ってたのに!

 普通に上手なんじゃない?」

「そうだね~普通だったね~」

「素直な感じで素敵でしたよ~」

「まぁ、ちょっと特徴がないけど、普通に上手でしたよ。」


「…そうなんだよ。僕、普通すぎて、歌い方がつまらないって言われるんだよ。

 …どうしたらいいんだろうね…」


 神山は皆の感想を聞いて、何故か落ち込んでいた。

 そんな神山の様子を見て、隣に座っていた太田が神山を励ました。

「そんなことないですよ!

 とってもきれいな歌声でしたよ!!」

 神山は本当にこの子は良い子だなと改めて思ったのだった。


「じゃあ、神山さんから時計周りに歌っていこうよ~

 次、太田君ね~」

 ハルは何の気なしに提案した。

「え、僕ですか?

 …わ、分かりました!」

 太田はハルに言われるがまま、曲を選んだ。


 太田は見た目によらず、ビジュアル系バンドの曲を選んで、歌った。

 歌い終わった後、皆は神山の時よりも大きな拍手をして、太田の歌声を絶賛した。


「すごい!!

 びっくりするくらい上手いじゃん!!」

「ホントだね~すごい上手だったよ~」

「いやいや見た目に騙されたな~

 ホントうますぎて、笑っちゃったよ~」

「マジで、うめぇな…」

「…僕の後に歌うのはちょっとやめて欲しかったよ…」


「い、いや~なんだか、恥ずかしいな…

 実は僕、一人カラオケとかが好きで、時々、歌ってるんだ。」

 太田は照れて、頭を掻きながら、少し大胆なことを言った。

「だから、そんな上手なんだ~

 意外な趣味を持ってたんだね。」

 ハルは素直に称賛したが、他の皆は若干、悲しそうな顔をした。


「じゃあ、次はヨッシーだけど、私とヨッシーはカラオケ初めてだから、一緒に歌お~」

「それいいね~よかった~私、一人は恥ずかしいもん~」


 ハルとヨシコは勝手に二人で歌うことにして、一緒に曲を選んだ。


「なんかずるくねぇ?別にいいけども。」

 聡は若干不満げであった。

「まぁまぁ。おいおい慣れてったら一人づつ歌ってもらいましょう。」

 遥香はそんな聡をなだめたのだった。


 そして、歌いやすそうな流行りの女性アーティストの曲を慣れない様子で二人は一緒に歌った。

 遥香以外の皆は拍手して、感想を述べていった。


「うん。十分、上手だよ。

 初々しくてほほえましい感じだね。」

「まぁ、いいんじゃなかったのか。」

「上手だよ。二人とも~」


 しかし、遥香は何故か難しそうな顔をして、ハルに言った。


「…ハル。あんた、ほとんど歌ってなかったでしょ?」


 ハルはギクッとして、遥香に言った。

「そ、そんなことないよ~一生懸命歌ったよ~

 やだなぁ~遥香ちゃんは~」

 遥香は真面目な顔をして、同じ曲を機械に入力して、送信した。


「ハル。今度は一人でちゃんと歌ってみなさい。

 ズルはダメです。」


「えぇ~勘弁してよ~」

「そんなズルするのは私が嫌なんだよ。全く。」

「わ、分かりましたよ…」


 ハルは遥香に叱られて渋々、一人で同じ曲を歌うのであった。


 ハルが歌い終わった後、拍手はまばらでむしろ、皆、笑いをこらえている様子だった。


「だから、嫌だったんだよ!!」


 ハルは顔を真っ赤にして、皆に言った。


 そう、ハルは音痴だったのだ。


「い、いやいや。良かったよ。

 今までで最高に盛り上がったから…」

 遥香は腹を抱えて、笑いをこらえながら、ハルに言った。

「た、確かに一番面白かったわ…くくく…」

 聡も笑いながら、遥香に賛同した。


「別にいいもん!音痴でも自分が楽しかったらいいんだよ!!」


 ハルは顔を膨らませて怒っている様子だった。

 神山は逆にうらやましそうにハルに言った。


「俺なんかよりよっぽど合コン向きだよ。

 マジで普通にうらやましいもん…

 普通じゃないって、それだけでいいもんなんだよ…

 大事にしなよ…」


「大事にしないよ!!

 くそ~その内、絶対にうまくなってやるんだから!!


 ハルは神山の励ましに余計に苛立ち、もっと練習しようと思ったのだった。


「じゃあ、次、遥香ちゃんだよ!!」


「はいはい。分かりましたよ。」


 遥香はまだ笑いが収まっていない様子だったが、ちょっと古い難しそうな曲を選んで歌った。

 それはもう美声で、きれいな歌声であった。

 遥香が歌い終わった後、ハル以外の皆は大きな拍手をして、称賛の声を上げた。


「マジで、めちゃめちゃうめぇな。」

「すごいよ!本物の歌手にも劣ってないんじゃないの?」

「ホントに上手~流石遥香ちゃん~」

「…本当にきれいな歌声で僕、ちょっと感動しちゃいました。」


「いや~それ程でも~

 ハルはどうだった?私の歌。」


 ハルはむぅとして、遥香に言った。


「…ホント、遥香ちゃんは何でもできるよね…

 なんかムカつく…」


 遥香は笑って、ハルに言った。


「ははは。ハルくらいだよ。

 そう言ってくれるの。」


 ハルは遥香の言葉を聞いて、どうしてか少し嬉しかった。


「じゃあ、最後は俺だな!」


 聡は既に決めていた曲を選曲して、意気揚々とマイクを持って立ち上がった。


 すると、小さな子供から大きな大人まで、皆が知っているヒーロー物のアニメの曲が流れ始めた。


「えぇ~なんでこれ~」


 ハルはイントロで既にびっくりしていた。

 聡は誰よりも大きな声で歌い、周りを鼓舞するようにジェスチャーした。

 皆もそのジェスチャーにつられて腕を上げて、盛り上がるのだった。


 その曲は決して、そんなに盛り上がる曲ではなかったが、聡の熱唱により、この日の最高潮を迎えたのだった。


 そうして、聡の熱唱が終わった。


 皆は盛り上がりすぎて、はぁはぁと息を上げて、拍手もまばらだった。


「…いや、上手いとか下手とかじゃなくて、良く分かんないけど、楽しかったわ。」

「でも、疲れたよ~」

「なるほど…こうやって、盛り上げるのか…勉強になるよ…」

「すごい…カッコよかったです。」


 聡は皆の様子を見て、満足げだった。


「はっは~カラオケなんて、要は盛り上がったもん勝ちなんだよ!」


 皆は落ち着いて、各自飲み物を飲むのだった。

「…はぁ、これで皆一通り歌ったね。

 次、どうする?」

 遥香はハルに落ち着いた頃に聞いた。


「フフフ…遥香ちゃん…一人、忘れてないかい?」


 ハルが遥香に言うと、遥香はハッと何かに気付いた。


「桜さん!」


「そう!最後は桜おねぇちゃんに歌ってもらいましょう!!」


 ハルはそう言って、桜の方に手をやった。


「私ですか?分かりました。

 では、歌わせて頂きましょう。」


 桜は無表情のまま、慣れた手つきで曲を選曲し始めた。


 勝手に入力されていくタッチ式のタブレットを見て、男子三人はまだ少しビビっていた。


「マジでか…お化けって歌えんのか?」


 聡はハルにおっかなびっくりしながら、聞いた。

「う~ん。私も初めてだから、分かんない。

 てか、えらい慣れてるけど、桜おねぇちゃんってひょっとして、カラオケ来た事あるの?」

 ハルは不思議に思って、桜に聞いた。

「はい。何度か来たことありますよ。

 なんせ、夜中なんて何もないから暇でしょうがないですから。

 その点、カラオケ店は夜中も開いてますしね。」

 桜は気にする様子もなく、ハルに答えた。

 ハルは全てを納得して、桜に言った。


「遥香ちゃんが言ってたお化けって、桜おねぇちゃんのことだったんだ。」


「恐らく、そうだと思いますよ。」


「えっ!そうだったの?」

 遥香は驚いて、ハルに聞いた。

「どうやらそうらしいよ。

 お化けのくせに桜おねぇちゃんって結構いろいろやってるからね。」

「そうなんだ。

 もう全く怖くもなんともなくなっちゃったね。」

 遥香は少し残念そうだった。

 ふと遥香は思いつき、桜に言った。

「ちょっと待って。桜さん。

 どうせなら得点でるか試してみようよ。」

「得点ですか?

 そういえば採点はしたことないですね。」

 選曲していた桜はそう言って、タブレットをフワリと動かして、遥香の方にやった。

 遥香は慣れているようで気にする様子もなく、採点ゲームを選択して、送信した。


 男子3人は勝手に機械が動いていたのにかなりビビっていた。


「こ、これはもう信じるしかないね…」


 神山はもう避けることのできない事実として、桜を受け入れることにした。


「これでよしと。はい。どうぞ。

 桜さん。」


 そして、遥香はそう言って、恐らく桜がいるであろう場所付近にタブレットを返した。

「どうも。」

 桜は返されたタブレットで、再び選曲を始めた。

 桜の様子を見て、ハルは桜に聞いた。

「やっぱり、昔の演歌とか歌うの?」

 桜は笑って、ハルに言った。


「ふふふ。まぁ見てなさい。」


 そう言って、桜は曲を決めて、送信した。


 流れてきたのは昨年、最も流行ったアップテンポなJ-POPの曲だった。


「えぇ~!!」


 ハルは驚いて、思わず声を上げたのだった。


 そして、桜は歌いだしたのだが、ハルには遥香よりも上手で、とても気持ちのこもった歌声に聞こえて感動すら覚えたのだった。

 しかし、他の皆には違う聞こえ方をしていたようだった。

 ただ、採点ゲームで出てくる音階に見事に当てはまっていくのを見て、皆はただただ驚いていた。


(なんで何も聞こえないのに、音階合ってんだよ…)

(すごいうっすら聞こえるけど、怖いわ…)

(お化けの声って、こういう風に聞こえるのか~すごいな~)


 男子3人はもう何が何だかと言った感じだった。


 曲が終わり、ハルは大きな拍手をするが、他の皆はあっけにとられた顔をしながら、まばらな拍手となっていた。

 そして、採点結果が発表され、結果、なんと「95点」とかなりの高得点だった。


「すごいじゃん!!めっちゃ上手かったもん!!

 こんな特技があったとは!!

 ねぇ?皆もそう思うでしょ!?」


 ハルは興奮しながら、他の皆の感想を聞いた。


「いや、正直こえぇよ!!

 なんも聞こえなかったし!!」

 聡は普通に怖がっていた。

「私も何にも聞こえなかったけど、ただ音階通りにはまっていくのが見えて、何か笑っちゃったよ。」

「私も~面白かったよ~」

 遥香とヨシコは桜に慣れているせいか、面白がっていた。

「僕はすんごいうっすら女性の声が聞こえたけど、それがまた一段と怖かったよ…」

「僕も小さいけど女性の声が聞こえて、お化けの声ってこんななんだと思って、何か勉強になったよ。」

 神山と太田には少しだけ桜の声が聞こえたようだった。


「もったいないな~ホントに上手だったんだから~」


 ハルは何故か自慢げに皆に言ったのだった。

 桜は皆の聞こえ方の違いを感じて、なるほどと言った顔をしていた。


「どうやら、お化けの声の聞こえ方には差があるみたいですね。

 所謂、「霊感」の違いということなんでしょうか。

 中々興味深いものですね。」


「桜おねぇちゃん。総一郎みたいなこと言ってるよ。

 でも、ここに総一郎がいたら、絶対、もっと実験とかしてるよね~」


「確かに。」


 ハルと桜は顔を見合わした。

 ハルにはそれがなんだか面白くて、笑った。



「さて、これで本当に皆一通り歌ったけど、どうしようか?」


 ハルは一旦、まとめて次にどうするかを皆に聞いた。


「まぁ、ちょっと桜さんのインパクトが強すぎて、歌う気分じゃなくなったよね。

 合コンってこういう時どんな事するんですか?」

 遥香は笑いを落ち着かせながら、神山に聞いた。

「いや。僕は正直、桜さんのこと片付けれてないんだけど…

 てか、そもそもなんで合コンなんてしようと思ったの?」

 神山はふと気になって、遥香に聞いた。

「え、えっと~それはちょっと恥ずかしいんだけど…」

 遥香は流石に恋が何なのか知りたいからとは言えず、迷っていた。


「遥香ちゃんが恋ってなんなんだろ~って言い出したことから始まったんだよ~」


 ヨシコは恥ずかしげもなく、遥香の代わりに合コンの目的を言ったのだった。

「ちょ、ちょっと待って。そんなはずいこと言わないでよ!」

 遥香は慌ててヨシコに言った。

「なんでも正直に話さないとダメっていっつも遥香ちゃん言ってるじゃん~

 だから、代わりに私が言ってあげたんだよ~」

「ホント待って。それだと私がマジで悩んでるみたいになってるから!

 そ、そこまで本気じゃないですよ~

 ただ、男の人の意見も聞いてみたいな~って」

 遥香は皆に言い訳のようなことを言った。

 ハルは遥香のめったに見せない焦った姿が面白かった。


「そうそう。恋って何なんだろうな~てね。

 例えば、神山さんって愛さんと付き合ってるじゃん。

 じゃあ、恋ってどんな感じなのか分かるでしょ~

 教えてよ~」


 ハルは実際に異性と交際している神山に聞いた。


「こ、恋って…

 またすごい回答に困る質問だな~

 …まぁ、いっか。

 実は僕、ずっと瀬戸に片思いしてたんだよ。」


 神山は少し悩んだが、本心をハルに言った。

 ハルは驚いた。

「そうだったの!!全然そんな感じじゃ無かったじゃん!!

 むしろ喧嘩ばっかりしてるイメージだったよ。

 正直、付き合ったって聞いた時も驚いたもん。」


「昔からそういう関係性だったからね。

 なんとなく好きだなって思った時も、今までの関係を壊したくなかったし、僕自身、喧嘩してるようでもそんなに嫌じゃなかったんだよ。

 ほら、喧嘩するほど仲がいいっていうじゃん?

 実際、喧嘩する度にあいつがどんなこと考えてるとか、どんなことが嫌いなのかとか分かってくるのがなんか嬉しかったというかなんというかね。

 そりゃ、腹立つことのが多いけどね。」


 神山は少し照れながら、話した。

 他の皆もうんうんと頷きながら、神山の話を聞いていた。


「へぇ~思ったよりいいこと言うね。

 流石は大人だね!」

 ハルは素直に神山を褒めた。

「う~ん。まだちょっと引っかかる言い方をするね。君は。」

 神山はハルに褒められたが、そんなに嬉しくなかった。

「なんかいいですね。そういうなんでも分かってる幼馴染って~

 うらやましいです。

 でも、どんな告白したんですか~?」

 遥香はちょっと意地悪そうな顔で神山に聞いた。

 神山は少し恥ずかしそうにして、悩んだがここまで来たらと話し始めた。


「え~と、就職活動中にね。

 僕は比較的すぐ内定をもらえたんだけど、瀬戸の方が中々うまくいかなくてね。

 かなり参ってたんだよ。

 そんな姿見てさ。まぁ、何だろ…

 ちょっとでも楽になってほしいなって思って、言っちゃったんだよ。

 「僕と結婚する?そしたら、就職上手くいかなくても大丈夫だよ?」って。

 今思うと、かなり微妙なこと言ってるよね。」


「また、大胆な!!

 色々飛ばしすぎじゃない?

 絶対、愛さん怒ったでしょ?」

 ハルは驚いて、神山に聞いた。


「うん。その通り。

 思いっきり、脛を蹴られたよ。

 「ふざけんな!」ってさ。

 そりゃ痛くて、脛を抑えながら、瀬戸の方見たら、泣いてたんだよね~

 そんな瀬戸見たことなくてさ。

 もう脛の痛みとか気にならなくなって、瀬戸の顔見ながら、ちゃんと言ったんだよ。

 「僕はお前がずっと好きだった。だから、お前のそんな辛そうな姿を見たくない。」って。」


 皆はおぉ~とはにかみながら、神山の話を聞いていた。


「そしたら、今度は逆足の脛を蹴られたよ。

「うるさい!」って。

 なんて的確に痛いとこ蹴ってくるんだと、僕は脛をさすりながら、逆に泣かされてたよ。

 そしたら、あいつは僕に手を差し伸べてさ。

 「しょうがないから、付き合ってあげる」って。

 あいつの性格上、絶対に好きとは言ってくれないだろうなとは思ったけど、なんとなく気持ちは伝わったから、それでいいやって嬉しくてね。

 それでまぁ、今に至るって感じかな。」


 皆はニヤニヤしながら、なぜか拍手していた。


「いい話ですね~ほんとうらやまし~」

「神山さん。マジでかっこいいすわ。」

「本当に憧れます!」


「いや~恥ずかしかったけど、今日初めて褒められた気がするよ~」


 神山は年上としての面目を保てたと安堵していた。


「なるほどな~

 で、結局、恋って何なのかまとめてみてよ。」


 ハルは純粋な顔をして、神山に言った。


「ま、まだなんか言わないとダメなの?」

「だって、今までのはどっちかっていると体験談じゃん。

 こう、恋とはこうだ!みたいなのってないの?」

「…君は本当に僕を素直に褒めれない人だな。

 瀬戸に似すぎだよ。」


 神山はうんざりした様子で言った。


「え~恋ってのは気づいたら好きになってるってことじゃないかな?

 僕も別にきっかけがあって好きになったわけじゃないから、難しいよ。

 一緒にいた時間が長かっただけなのかもしれないけどさ。」


「う~~ん。まぁでも、きっとそんなもんだよね~

 サトにぃとかって好きな人いないの?

 実は付き合ってるとか?」


 ハルは神山の答えに納得できず、急に聡に話を振った。


「次は俺かよ…お前にだけは聞かれたくなかったわ…

 別に好きな人なんていねぇよ。

 付き合ってもいねぇし。」


 聡はがっくりしながら、ハルに答えた。

 遥香と神山は可愛そうにと言った顔で聡を見ていた。

 ハルはそんな聡のことを気にもせず、次に太田に言った。

「そっか~じゃあ、太田君はどう?」

「え?僕ですか?

 …残念ながら、僕も女性の方と話す機会が少ないので、あまり恋とかは分からないです。」

「そっか~」

 ハルはあんまり納得できない様子であった。


 そんなハルの様子を見て、コホンと言って、聡が話し始めた。


「…えぇ~これはあくまで神山さんの話を聞いて思ったことだけど、それでいいなら。」


 ハルは興味深々な顔になった。


「聞く聞く~」


「えっとな。

 多分、好きっていうのは普段どんだけ相手のことを考えてるかだと思う。

 神山さんの場合は付き合いが長かったことだったり、喧嘩したりが原因かは分からないけど、相手のことを考えることが多かったんだよ。

 相手のことを考える時間というか量というか、そういうのが積み重なって、好きになるんじゃねぇの?」


 聡は少し恥ずかしそうに話していた。


「でも、喧嘩した時って、相手のことが嫌いってネガティブな考えの方が大きいんじゃないの?」


 ハルは純粋に疑問に思ったことを聡に聞いた。


「俺は考える内容についてはあまり関係ないと思ってるよ。

 憎いって思うのは流石にダメだろうけど、嫌いって気持ちってのは案外、自分の方が悪いことの方が多くね?

 よく考えたら、自分がしていたことが悪かったり、自分の悪いところを指摘されて、むかつくっていうかさ。

 それに気づくと、相手が自分のことをそんだけ分かってくれてるんだって思えるっていうかな。

 なんかうまく言えねぇけど。」


 ハルは確かにと言った顔をした。

 聡は拙い言葉で話を続けた。


「だから、結局、相手のことを考えてる量が増えてくと、一人の時でも、ふと相手のことを考えたり、そいつとどんなことをしたいとか思い始めるんだよ。

 そういうのが恋なんじゃねぇのかな?

 …はい!以上!終わり!!」


 聡は恥ずかしさが限界に近付いて、話を無理やり終わらせた。


 皆は何故か拍手していた。


「いや~良かったよ~

 神山さんの説明より、全然納得できたよ~」

 ハルはすっきりした顔をしながら、聡をほめたたえた。

「だから、君はいちいちやめなさい。

 でも、本当良かったよ。いい考察だったよ。」

 神山もハルに呆れながらも、聡を褒めた。

「すごいです。加藤先輩!

 かっこいいです!!」

 太田は聡を絶賛していた。

「さすが~ハルのいとこだね~」

 ヨシコもゆったりと褒めていた。

 遥香はなにも言わずに笑いながら拍手していた。



 そうして、その後は何曲か歌い、お開きの時間がやってきた。




「いや~今日は本当に楽しかった~

 皆来てくれて、ありがとう~

 神山さんも奢ってくれてありがと~」


 ハルは皆に感謝を述べた。


「まぁ、僕も何やかんや楽しかったしね。

 …ただ、この後、あいつに怒られることを考えると怖いわ…」

 神山は桜を紹介するということをばらされたことに対する瀬戸の怒りが怖くて、うなだれていた。

「大丈夫!私がメールでフォローしとくって~」

「それはマジで、頼むよ!ホント、余計なことは言わないでよ!!」

 神山は切に願ったのだった。


 皆が分かれの挨拶をしている中、遥香はこっそり、聡に言った。


「…流石、本当に恋している人の言うことは違うね…」


 聡はびくッとしたが、強がった様子で遥香に言った。


「な、何のことだよ?」

「まぁ、いとこだし、大変だけど、私は応援するよ。

 頑張ってね!」

「だから、何のことだよ!!」


 聡の慌てふためく姿を見て、あははと笑う遥香だった。


 そうして、皆は別れて、その日は帰宅したのだった。




「いや~今日は楽しかったね~

 桜おねぇちゃんはどうだった?」


 帰宅して、いつものソファーにドカッと座ったハルが桜に聞いた。


「中々、楽しかったですよ。

 採点の仕方も教えてもらいましたし。

 男の子達が慌てふためく姿が非常に面白かったです。」


 桜も満足げだった。


「そりゃ~よかった~また、遊びに行こうね!」


 ハルも桜が楽しそうで何よりといった顔をした。


「…それで、結局あなたに恋というものは分かったのですか?」


 桜は元々の目的の結果をハルに聞いた。


 ハルは笑いながら、桜に答えた。


「多分、今、一番考えてるのは桜おねぇちゃんのことだから、私、桜おねぇちゃんに恋してるのかもね。

 だから、きっとその内おんなじ風に考えられる男の子が出てくると思うよ~」


 ハルの答えを聞いて、桜は呆れながら、呟いた。



「…逆に思われてるとは思わないんでしょうね…この子は…

 …聡とかいう子は可愛そうですね…」



 続く

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