第13話 背後霊2


(…勢いで誘ったものの、気まずいな…)


 お化けに取り憑かれている太田と梅野橋大学に向かう道中、ハルは無言のままでいたたまれない様子であった。


 とりあえず、このままではとハルは太田にお化けに取り憑かれた経緯を聞くことにした。


「…太田君。いつ頃から、楽しくなくなったとかはわかるの?」


 太田は俯いていた顔を少し上げて答えた。


「…5年生くらいの時です。

 …でも、誰かに何かされたとか、特に理由もなく、突然やる気というか元気がなくなってしまった感じです。」

「そっか〜なんか心霊スポットとかに行ったりはした?」

「…いえ。僕も怖がりなので、そういうとこには極力行かないようにしてます。」

 ハルは太田の説明を受けて、お化けの中には理由もなく取り憑くものもいるのかなと、う〜んと考えていた。

「…お父さんに怒られたとか、そういう些細なことでもいいんだけど…」

「父さんはとても優しく、怒られる時もありますが、理不尽な怒り方は決してしないです。

 尊敬できるいい父親だと思っています。」

 太田は今までと違い、随分とはっきりとハルに答えた。

 よほど父親のことを慕っているようだった。

 その様子に少し面食らったハルは太田に聞いた。

「お父さんは何してる人なの?」

「…医者です。」

「ホントに!?お医者さんなの!!すごいじゃん!!」

 ハルは素直に驚いた。


「…でも、父さんがすごいだけで…僕はこんな状態になってしまって…

 すごく心配されてるんです…

 だから、可能性が少しでもあるなら…」


 太田の思い詰めている様子を見て、ハルは思った。


(私の話を聞いてこんなにすんなりついてきたのは、きっと藁にもすがる思いだったんだろうな…

 何とかできたらいいけど…)


 その後は二人とも言葉少なく、梅野橋大学に向かった。




「こんちわ~」


 ハルは慣れた様子で梅野橋大学の「上田研究室」のドアを開いた。


「ハルちゃん!久しぶりだね~」


 そう言って、瀬戸がハルをいつも通り抱きしめた。

「あ、愛さん。まだ、研究室にいたんだ。」

 ハルは瀬戸に抱きしめられて、ぐえっとなりながら失礼なことを言った。

「ひどいよ~ハルちゃん~

 言っとくけど、留年とかじゃないからね~

 ドクターを取ろうと頑張ってるんだよ~

 知ってるくせに~」

「そ、そうだったね。ごめんごめん。」

 瀬戸は修士課程を修了して、就職はせず、博士課程へと進学をしたのだった。

「でも、神山さんは就職したから、やっぱりいないんだね。」

 ハルは中学生になって、初めて大学に来たので、いつもいた神山がいなくて少し寂しく思った。

「あんな奴はどうでもいいでしょ。

 ちゃっかり、大手メーカーに就職しやがって~くそ~」

 瀬戸はハルから一旦離れて、何故か悔しがっていた。

 ハルはその様子を見て不思議に思った。


「あれ?二人って結局、付き合ってるんだよね?

 彼氏が無事就職できたんなら、よかったじゃん。」


 神山と瀬戸は大学院2年の時にお互い就職活動で苦しんだことがきっかけで、付き合うことになったのだった。

「まぁ、そりゃそうなんだけど。

 でも、私が失敗して、あいつが成功してるのが、何か腹立つんだよね~

 まぁ、私の場合、ドクターを視野に入れてたから別にいいんだけど~」

 瀬戸は苦し紛れの言い訳をした。


 太田は二人の様子に面食らって、黙っていた。

 瀬戸はそんな太田を指さして、ハルに言った。


「それはそうと、この子は一体何?

 まさか、ハルちゃんの彼氏!?

 私は許さないよ~!!ハルちゃんにはまだ彼氏は早いよ!!」


 ハルはため息をついて、瀬戸に言った。

「絶対、そんなこと言うと思ってたよ…

 全然そういうのじゃないから。

 えと、とにかく相馬さんはいる?」


「こんにちわ。ハルさん。」


 ハルの言葉を待っていたかのように、相馬が座っていた席から立って、返事した。

 ハルは不愛想な様子で、相馬に挨拶した。


「…どうも、こんにちわ。」


 相馬は笑って、何もかも分かっている様子でハルに言った。


「うん。その男の子のことだね。

 ここではなんだから、場所変えようか。」


 瀬戸は何やら怪しんで相馬に聞いた。

「何々?相馬君、ハルちゃん連れてどこ行くの?

 せっかく来たばっかなのに。」

「いや、この前、ハルさんにこの男の子の相談に乗ってあげてほしいって言われてたんですよ。

 ちょっとプライベートな話にもなるから、瀬戸先輩には申し訳ないけど、ちょっと二人を借りますね。」 

 相馬は息を吐くように嘘を言った。

「そうなんだ。そっか、お寺的なあれか~

 まぁ、しょうがないか。

 ハルちゃん!終わったら、また来てよ~」

 瀬戸はあっさりとだまされた。

 ハルは呆れながらも、瀬戸に答えた。

「うん。また来るよ~

 じゃあね~」

 そう言って、ハルと太田と相馬の三人は上田研究室を出た。



「じゃあ、人のいなそうな…

 そうだな。あの林道のところに行こうか。せっかくだしね。

 もうあのお化けもいないしね。」


 相馬は意地悪そうな笑顔でハルに提案した。

 相馬の指定した場所は過去にハルと桜が相馬と対峙した場所だった。


「…せっかくって…別にいいけど、あなたって本当やな奴だよね…」

 よりにもよって、そこをチョイスするかとハルは嫌な顔をした。

「はっはっは~人の多い大学で唯一人がいなさそうなところがあそこしかないからね。

 まぁ、許してよ。」

 相馬は変な笑い方をして、ハルに理由を説明した。


「…あのさ。今、あなたって院の2年生で就職活動真っ最中じゃないの?

 自分で呼んどいてなんだけど、大丈夫なの?」

 ハルは相馬に精一杯の嫌味を言った。

「僕も瀬戸先輩と同じドクターに進学予定だから、特に問題ないよ。

 修論もほとんど完成しているしね。」

 残念ながら、ハルの嫌味は優秀な相馬には通用しなかった。

 太田は二人の微妙な空気におどおどしていた。



 そうして、例の林道の脇道を逸れた静かな場所へと三人は到着した。


「…さて、一応聞いておくけど、その男の子に憑いているお化けを除霊してほしいって話だよね?」


 相馬はハルと太田に話を切り出した。


「そうだよ。この子は太田君。

 前は明るかったんだけど、このお化けのせいで気持ちが落ち込んじゃってて、それをどうにかするためにこのお化けを除霊してほしいの。」


 ハルは相馬に除霊してほしい理由を説明した。

 相馬は少し考えて、ハルに言った。


「…本来、こういう除霊ってお金をもらうんだけど、加藤先生の姪っ子さんの願いだし、聞いてあげようかな。」


 ハルはいちいち回りくどい言い方をする相馬に少し苛立ったが、一旦深呼吸して、落ち着いてから相馬に言った。


「…とりあえず、除霊してくれるみたいで良かったよ。じゃあ…」

「ただし、これだけは言っておくよ。

 僕はお化けの話を聞いて、除霊するに値するものだけを除霊するのを信念にしている。

 話を聞いて、除霊しなくてもいいと判断した場合は僕は決して除霊しないから。」


 相馬はハルの言葉をさえぎるように食い気味に言った。

 ハルは相馬の説明を聞いて、驚いて太田についているお化けについて、説明した。


「いや、それは私もいいことだと思うけど、お化けの話を聞くって、このお化けは無理だよ!!

 私も聞こうとしたけど、「死ね」しか言ってないもん!!」

「えっ!僕に憑いてるお化けってそんなこと言ってるの?」


 太田はそんなことを言われていたのかと驚いた。

 ハルはしまったとあたふたしながら、言い訳をしようとした。

「えっと、なんていうか。そういう怨念的なね?

 で、でも大丈夫だよ!

 どう考えても除霊の対象だもん!!こんなの!!」

 太田はハルの慌てている様子を見て、おびえるのではなく、どちらかというと混乱していた。


 すると、相馬はフッと笑って太田の背後に近づいた。

「大丈夫。僕は話すというより感じることができるから…」

 そう言って、相馬は太田に憑いている中年お化けの頭に手をやって、目を閉じた。


 数十分はそうしていただろうか、随分長い間、同じ体制で黙ったままだった相馬がようやく目を空けて、ハルの方を向いて真剣な顔つきで言った。


「…結論から言うと、このお化けは太田君のお父さんに小さい頃にいじめられていたお化けだ。」


「えっ!!」

 ハルと太田は驚いて、ほぼ同時に声を上げた。

 そして、相馬は話しを続けた。


「このお化けは太田君のお父さんにいじめられて、そこから生まれた劣等感を持ったまま大人になってしまったようだ。

 友人や頼れる家族もいなくて、仕事にもありつけず、何もない日々を過ごしていた。

 一方、いじめていた太田君のお父さんは順風満帆な生活を送っている様子をどこかで見つけてしまった。

 そうして、こんな苦しい人生になった原因が何も不自由のない幸せな生活を送っていることに絶望して、首をつって自殺したようだ。

 その恨みのような怨念が太田君に憑りついたというわけだ。」


 太田は相馬の話を聞いて、顔面蒼白になりながら、呟いた。


「…父さんが…いじめ…そんな…」


 ハルは太田の様子を心配そうに見ながら、相馬に聞いた。

「ほ、ホントにそんなことまであなたに分かるの?

 信じられないんだけど…」

 相馬は軽蔑したような顔でハルに言った。


「よく君にそんなことが言えるね。

 それは散々、君が言われてきたことだろ?

 信じないなら、これで話は終わりだよ。」


 ハルは相馬の言葉に胸が詰まったような思いになった。

 しかし、ハルは負けじと相馬に問い詰めた。

「でも、どうして太田君に憑りついたの?

 普通なら本人、太田君のお父さんに憑りつくんじゃないの?」

「そこまでは分からないけど、それはお父さんに憑りつくよりも、息子に憑りついた方がお父さんにダメージを与えられるからじゃないかな。

 それか同じ年頃の頃にいじめられたから、息子に自分と同じ目にあってほしいとか。」

 相馬はまっすぐにハルを見て、答えた。

 ハルは相馬の説明に納得してしまい、何も言い返せなかった。

 太田はまだ気持ちに整理ができていない様子だった。


 そして、肝心なことをハルは相馬に聞いた。


「…で、除霊はしてくれるの?」


 相馬はハルに答えた。


「まぁ、自業自得なんじゃないかな。

 はっきり言うと、除霊する気は起きないね。」


「なっ…!!」

 ハルは明確に除霊を否定されて、言葉を失った。


「この手のお化けは気が済んだら、勝手に成仏するよ。

 大丈夫。死ぬまでのことは無いから。

 ただ、ちょっと暗い気持ちになるくらいだよ。」


 相馬はなんてことは無い顔をして、ハルと太田に言った。

 ハルは無神経な相馬の一言に怒った。


「そんなのおかしいでしょ!!

 あんたは太田君がどれだけ苦しんでるか知ってるの!?」


 相馬は笑って答えた。

「生きてる人の気持ちなんて、分からないよ。

 大体、今日初めて会って、話すらほとんどしてない人の気持ちが分かる訳ないよ。」


 ハルはこれまでになく怒った様子で大きな声で相馬に反論した。

「それでも、太田君は苦しんでるんだよ!!

 尊敬してるお父さんに心配されてるのが嫌だし、そんなお父さんがいじめをしていたなんてことを知って、しんどいわけないでしょ!!

 それを助けてやろうって気持ちにはならないの!?」


 相馬はうんざりした様子で、ハルに答えた。

「だから、因果応報なんだって。

 お父さんがいじめなんてしなければ、こんなことにはならなかったんだよ?

 この中で一番苦しんでいるとしたら、このお化けだよ。

 そんなお化けを志半ばに除霊しようっていう方がおかしくない?」


「そうかもしれないけど、絶対に全部が全部、太田君のお父さんのせいなんかじゃない!!

 大体、人を恨むなんてことが正当化されるなんて、私は全く思わないよ!!」


「もういいよ!!加藤さん!!」


 相馬とハルが言い合っているところに太田が声を上げて止めた。

 太田は一旦深呼吸して、落ち着いてから、話し出した。


「…ありがとう。加藤さん。

 僕のためにそこまで言ってくれて。

 正直、父さんがいじめをしていたなんて、まだ信じ切れていないけど、それは帰ってから本人に聞くよ。

 それよりも本当に原因が父さんにあるのなら、僕は甘んじて、この状況を受け入れるよ。

 …多分、それが一番、まっとうなことだと思うから。」


 太田の言葉を聞いても納得できていないハルはまだ怒った様子で言った。


「だから、おかしいって!!!そんなの!!!

 そんなこと絶対に思ってないでしょ!!」


 相馬は呆れた顔でハルに言った。


「本人が言ってるんだから、いいじゃないか。

 今、一番自分勝手なのは君ってこと分かってる?」


「分かってるよ!!

 全部、自分のために言ってるよ!!

 太田君のお化けが除霊されないと後ろの席の私が授業に集中できないから、除霊してもらわないと私が困るんだよ!!

 それが何か悪いの!?」


 ハルは胸を張って、大胆なことを言ってのけた。

 相馬は嘲笑気味に笑って、ハルに言った。


「それって、所謂逆切れってやつだよ。

 君は自分のためにしか物事を考えられないのかな?」


「そんなの当たり前でしょ!!

 私は桜おねぇちゃんとか遥香ちゃんとかヨッシーに「他人のことを考え過ぎ」っていっつも言われてるんだよ?

 だから、自分のために考えて、生きるように努力してるんだよ!!

 それを私は絶対に否定されたくないね!!」


 ハルはまっすぐ相馬を見て、話を続けた。


「自分のために考えるから、自分のことが好きになれて、成長できて、他人に優しくできるんじゃないの?

 他人のために何かを考えちゃうから、誰かを恨んだり、妬んだりしちゃうんじゃないの?

 そのお化けだって、もっと自分のためだけに生きれば、もっと自分がやりたいことだけやってれば、こんなことにはならなかったんじゃないの?

 太田君だって、お父さんのためって考えすぎなんじゃないの?

 そんな考え方してたら、きっとお父さんのことが嫌いになっていくんじゃないの?

 だから、自分勝手に生きるのは悪くないって、私は信じてるんだよ!!」


 ハルの話を聞いて、相馬と太田は黙ってしまった。


 そして、ハルは最後に相馬に強く言った。


「いいから、私のためにこのお化けを除霊しなさい!!」


 相馬は少し黙ったままだったが、ハルの気迫に根負けしたのか、ため息をつきながら、太田に憑いているお化けに手を当てて、再び、目を閉じた。


 すると、お化けがふっと消えていったのだった。



「…全く。代金は加藤先生にでも請求してやろうかな…」


 ハルは焦って、相馬にお願いした。

「…失礼なことを言って、申し訳ありませんでした。

 お金は勘弁してください。」

 相馬はニヤッと笑って、ハルに言った。

「冗談だよ。

 今回は君に変に納得しちゃったしね。

 負けたよ。

 じゃあ、僕は研究室に戻るよ。」

 そう言って、相馬はその場を後にしようとした。


「ちょっと待って!」


 ハルは立ち去ろうとした相馬を止めた。

「何?ちゃんと除霊はできてるよ?

 君なら分かるだろ?」

 相馬は少しうっとおしそうに振り返って、ハルに言った。

 ハルはずっと聞きたかったことを相馬に聞いた。


「…どうして、そんなにすごい力があるのに、お寺を継がないの?」


 相馬は笑って、答えた。


「僕の家系が嘘つきだからだよ。」


「嘘つき?どういうこと?」


 相馬はまぁいいかといった様子で話し始めた。


「簡単な話だよ。

 住職をしているうちの父さんや爺さん、実はお化けが見えてないんだ。

 ご先祖様までそうだったかは分からないけどね。

 ただ、お化けが見えないくせに除霊とか言って、お金をもらっている姿を子供の頃から見ててね。

 こうはなりたくないと思ったんだよ。

 だから、嘘つきだらけの実家の寺なんてなくなってしまえばいいと思ってるんだよ。」


 ハルは相馬の話を聞いて、ふと気づいたことを更に相馬に聞いた。


「ひょっとして、お化けの話を聞いてから除霊するっていうのはお化けは嘘をつかないから?」


 相馬は感心した様子でハルに答えた。


「さすがは加藤先生の姪っ子さん。

 その通りだよ。

 生きてる人間なんて嘘つきばっかりだからね。

 だから、僕はお化けの意見の方を尊重してるってだけだよ。」


「…あなたって、やっぱりひねくれてるよね。」

 ハルは少し呆れた顔で相馬に言った。


「はっはっは~僕も自分勝手なのかもね。」


 そう言って、相馬は変な笑い声を上げながら、研究室に戻っていった。



「とりあえず、お化けはいなくなってるはずなんだけど、どんな感じ?」


 ハルは除霊が済んだ太田に確認した。


「う~ん…良く分からないけど、少し気持ちは楽なったような気がします。

 …それよりも父さんのことが気がかりで…」


 太田はお化けどうのこうのよりも尊敬している父親がいじめをしていたかもということに対する気持ちが大きかった。

「…そりゃそうだよね…

 でも、まぁあいつの言うことなんて嘘かもしれないしさ!!

 気にしないで!!」

 ハルは太田を励ました。

 しかし、太田はまっすぐ前を見て、ハルに言った。


「いや。ちゃんと父さんに聞くよ。

 その上で自分で考えて、父さんと向き合うことにするよ。

 自分が納得するために。」


 ハルは太田の様子を見て、安心した。

「大丈夫そうだ。

 ちゃんと、除霊できてるよ。」

 太田は少し恥ずかしそうにハルに感謝した。


「加藤さん。ありがとう。

 その…カッコよかったです…」




「…てなわけで、無事、お化けは除霊できたんだけどね…」


 翌日、ハルは遥香とヨシコと登校中に太田との一件を簡潔に説明していた。

「よかったじゃん。

 なんか考えてることでもあるの?」

 遥香が言いよどんでいるハルに聞いた。

「…いや。あいつの言うことも最もだなって思ってさ。

 あの中で一番苦しんでたのは間違いなく、あのお化けだったから…

 だから、本当に良かったのかなって…」

 ハルは考え込んている様子だった。

 遥香はハルの様子を見て、バンと背中を叩いた。


「痛っ!!何すんの!!」

「いや。そのお化けがハルに憑りついちゃったのかなって思って。

 ほら。背中をたたくと霊が飛んでくってあるじゃん?」

「んなわけないじゃん!!やめてよ!結構本気だったじゃん!!」

 すると、遥香はハルの背中を撫でながら、優しく言った。


「だって、ハルが自分で言ったことと逆のことを早速言っちゃってるから、そのお化けが憑いちゃったのかなって思ったんだよ。

 自分のことを考えることが大切なんでしょ?」


 ハルは背中を撫でられてもまだ少し痛かったので、ムッとして遥香に言った。

「それは分かってるけど、少しはやるせなさ?みたいなのは感じてもいいでしょ~が~」

「ははは~そんな痛かった?

 ごめんって~」

 遥香は笑って、ハルの背中を撫で続けるのであった。


「それにしても、相馬さんってすごいんだね。

 一回会ってみたいわ。」

 遥香は嬉しそうにハルに言った。

「いや。やめといた方がいいよ。

 そんなにカッコよくないし。」

 ハルは遥香に会せたら絶対にめんどくさいことになりそうと思い、ものすごい嘘をついた。

「そうなんだ。じゃあ、別にいいか。」

 ハルの話を聞いて、遥香はあっさりと諦めた。

 ハルは呆れて、遥香に言った。

「…遥香ちゃんて、本当大丈夫なの?」

「遥香ちゃん~外見よりも中身が大事だよ~」

 ヨシコにも言われる始末であった。




 そうして、学校に到着したハルが2組の教室に入ると、前髪を切ってさっぱりした姿の太田がいた。


「お、おはよう。加藤さん。」


 太田はまだうつむき加減だが、しっかりとハルに挨拶した。


「おはよう。太田君。

 …お父さんとは話したの?」


 ハルは席に座りながら、挨拶とともに太田に聞いた。

 太田はうつむきながらも真面目な顔でハルに話した。


「…うん。

 小さい頃、誰かをいじめてたことあるかって。

 そしたら、どうしてそんなこと聞くんだ?って。」

「まぁ、普通そうなるだろうね。」

「…で、人づてに聞いたんだって言ったら、父さんは割とあっさり、そう思われてもしょうがないことはしていたと思うって。

 正直な人だからね。」

「…やっぱり、本当だったんだ。」

 ハルは少しやるせない気持ちになった。


 しかし、太田は顔を上げて、ハルに言った。


「だから、僕は父さんにはっきり言ったよ。

 「僕は父さんを軽蔑する」、「最低だ」って。

 …こんなことでお化けの気持ちが晴れることは無かったとは思うけど、父さんは落ち込んでたし、少しは罪滅ぼしができたんじゃないかなって。

 それに…」


 太田は笑って、元気よく言った。


「それに、父さんのせいでこんな目に会ったんだからね。

 僕のためにも少しは反省してもらわないとね!」


 ハルも笑って、太田に言った。


「まぁ、私のためにもお化けがいなくなって良かったよ。

 お疲れさん。」


 続く

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