第12話 背後霊1
「行ってきます!」
ハルはとうとう中学の入学式の日を迎え、これから通う第5中学校の制服を身にまとい、総一郎と桜、ハイテ君に元気よく挨拶をしたのだった。
「制服とても似合ってるよ。行ってらっしゃい。僕も後から行くよ。」
総一郎も保護者として、入学式に参列する予定だった。
桜は無表情で手を振っていた。
ハイテクンは緑のLEDを光らせて、クルクル回っていた。
そして、ハルは学校へと向かったのだった。
「おはよう。ハル。」
道中、遥香が事前に待ち合わせていた場所で待っていた。
「おはよう!遥香ちゃん!…いや、遥香先輩!」
ハルは言い直して、遥香に挨拶した。
遥香はハルの呼び方に違和感を覚えて、ハルに言った。
「う~ん。なんか気持ち悪いから、いつも通りで呼んでよ。」
「…相変わらず、ストレートな表現だね…
分かったよ。正直、私もちょっと言いずらいから、遥香ちゃんにする。」
すると、ヨシコも少し遅れてやってきた。
「おはよ~」
ヨシコは眠たそうな声で二人に挨拶した。
「おはよ!ヨッシー、制服似合ってるじゃん。
てか、やせたよね~」
遥香はヨシコをジロジロと見て、言った。
「そうなんだよ!
冬休みにヨッシーがダイエットしたいって言うから、私と一緒に頑張ってランニングしたんだよ。」
ハルはヨシコと肩を組みながら、遥香に言った。
「へへ~自分に自信を持ちたくて、中学校までに痩せて、友達作りたいな~って思って頑張ったんだ~」
ヨシコは元々の素材が良かったのか、痩せて可愛らしい姿になっていた。
「うん!それはいいことだよ。
これなら友達だけじゃなくて、彼氏だって出来るよ。」
遥香はヨシコがポジティブになった様子を見て、嬉しそうだった。
「い、いや。彼氏は別にいいよ~」
ヨシコは柄にもなく恥ずかしがった。
そうして、三人は学校に向かうのであった。
「なんか久しぶりに遥香ちゃんと一緒に登校してる気がするわ~」
ハルは嬉しそうに遥香に言った。
「そうだね。中学と小学校じゃあ、登校時間が違うからね。」
「登校班もなくなったから、これからは私も一緒に登校できるのは嬉しいかな~」
ヨシコも嬉しそうだった。
そして、横断歩道が赤信号だったので、三人は止まった。
この横断歩道は例の女のお化けがいつも道路の真ん中に立っているのだが、ハルはもう気にする様子はなかった。
その様子を見て、遥香はハルに言った。
「ハル。流石にもうここのお化けには慣れたんだね。
全然普通じゃん。」
「ふふふ。まぁね!
ていうか毎日毎日見えてたら、さすがに飽きたわ。
最近はもうお化けにびっくりすることは少なくなったよ。」
ハルは胸を張って遥香に言った。
遥香とヨシコはおぉ~と軽く拍手した。
しかし、遥香は意地悪そうな顔でハルに言った。
「でも、中学校にはどんなお化けがいるんだろうね~
ハルの反応が楽しみだよ~」
ハルは苦い顔をした。
「…それは私もずっと気にしてたんだよ。
ホント、遥香ちゃんは的確に攻めてくるよね。」
遥香は笑って、ハルの頭を撫でた。
「ははは。大丈夫だって!
もう人に変に思われても良いって言ってたじゃん。
私たちがいるんだしさ。」
「そうだよ~むしろ、ハルちゃんが人気者になったら、私嫉妬しちゃうよ~」
ヨシコも微妙なニュアンスでハルを励ました。
「…ヨッシーって、ホント正直だよね。
そこがいいんだけど。」
そんなこんなで三人は学校に着いたのだった。
校門から入ってすぐの掲示板にクラス分けの紙が張り出されていて、ハルとヨシコは一緒に自分たちの名前を探した。
「やった!ヨッシー、私と一緒で2組だよ!」
いち早く自分の名前とヨシコの名前を見つけたハルは喜んで、ヨシコに伝えた。
「ホントだ~よかった~
何気に初めておんなじクラスになるね~」
ヨシコもおっとりと喜んでいた。
しかし、後ろの方でひそひそ声が聞こえてきた。
「…げっ、あいつと一緒じゃん…最悪…」
ハルが振り返ると、小学4年生の頃にヨシコをいじめていた3人組がこちらを見ていた。
どうやら、同じクラスだったようだ。
ハルはため息をついて、3人組に近寄り、ニコッと笑って、3人に挨拶した。
「これからよろしくね。」
3人組はまさか挨拶されるとは思わず、何も言わずに向こうの方に言ってしまった。
ヨシコはハルに近寄って、驚いた顔をして、ハルに言った。
「すごいね。ハルちゃん。
堂々としてて。」
「こういうのは初めが肝心かなって思ってさ。
まぁ、できるなら皆と仲良くしたいしね。」
ハルはまっすぐ前を見据えていた。
そんなハルを見て、ヨシコも頑張ろうと思ったのだった。
そして、指定されたクラスの教室に向かった。
担任の先生からの簡単な指示を受けて、体育館へ行き、入学式が始まった。
在校生代表では遥香がスピーチをしていて、ハルはなんだか誇らしい気持ちになったり、校長先生の長い話を聞きながら、ハルはどんな中学生活になるだろうとワクワクしていた。
しかし、ハルには二つ、気になることがあった。
一つは前の方にいたいじめ三人組の一人がちらちらとこちらを見ながら、ひそひそ話していたことだ。
何を話していたのかは分からなかったが、ハルはおおよそ察しがついていた。
(こりゃまた、友達できなさそうだな~
まぁ、なんとかなるか~)
これはハルにとってはいつものことだったので、あまり気にはしていなかった。
それよりも、もう一つのことが気になってしょうがなかった。
ハルの前にいる男子生徒の後ろに思いっきり、お化けが張り付いていたのだ。
そのお化けは首に縄で縛ったようなあざのある中年の男で、ひたすら男子生徒に向けて、ぶつぶつ呟いていたのだった。
その風貌から間違いなく「悪いお化け」であることは分かった。
(…なんか、早速、前途多難な感じだな…)
ハルは大きなため息をついたのだった。
入学式が終わり、生徒たちは各クラスの教室へと向かった。
ハル達、2組の生徒も教室へと戻り、担任の先生から軽くこれからの説明を受け、各自、簡単な自己紹介を一人づつすることになった。
ハルは相変わらず、前の男子生徒についているお化けが気になって、中々、集中できなかった。
そして、前の男子生徒の番になり、ゆっくりとその男子生徒は立ち上がった。
「…太田大輔(おおた だいすけ)です…
…よろしくお願いします…」
男子生徒は言葉少なく、すぐに自己紹介を終えて、席に座った。
ハルは思った。
(ひょっとしたら、お化けのせいで、暗くなっちゃってるのかな?
だとしたら、かわいそうだな…)
「…加藤さん?次は君の番だよ?」
ハルは太田を気にするあまり、自分の番が来たことを忘れていて、慌てて、立ち上がった。
「あっ!すみません!
えっと、加藤春です。空手やってます。
あと、え~と…」
ハルは言おうと思っていたことを忘れてあたふたしてしまった。
すると、例のいじめ三人組の一人がまたもひそひそと嫌な笑い顔で話していたので、ハルはムッとして、胸を張って言ってやった。
「実は私、お化けが見えます!
だから、時々、変に驚いてしまうかもしれませんが、気にしないでください!
よろしくお願いします!」
ハルはそう言って、ドカッと席に座った。
クラスがざわついていた。
「…やべぇやつがいるよ…」
「…でも、面白そうな人じゃない?」
「…てか、結構可愛いな…」
どうやら賛否両論のようだが、何故だかハルはすっきりした顔をしていた。
(どうせ、あの三人組から変な噂流されてるだろうし、初めから言っとけば、悩むこともないでしょ。
それに…)
ハルは三人組の嫌がらせへの対抗措置としての自己紹介だったが、前の男子生徒、太田の反応も気になっていた。
もし、太田がお化けのことを認知しているなら、自分になにかしらのアクションを起こすのではと考えていたからだ。
しかし、太田は無反応でこちらに振り返ることは無かった。
どうやら、太田はお化けに気付いているわけではなさそうであった。
その後、滞りなく自己紹介が終わり、その日の行事は全て完了したのであった。
「ハルちゃん。すごかったね~
カッコよかったよ~」
ヨシコは一緒に下駄箱で靴を履き替えながら、ハルに言った。
「そう?半分やけくそだったけどね。
すっきりしたよ。」
ハルも靴を履き替えて、ヨシコと一緒に校門前に向かった。
校門前には保護者達が大勢待ち構えていて、校門の「入学式」と書かれた看板の前で写真を撮ったり、親御さん同士で話していたり、わいわいとにぎやかだった。
「ハル~~ヨッシ~~」
その大勢の中から、遥香が手を振って、ハルとヨッシーを呼んでいた。
そこには遥香と総一郎、そして、遥香とヨシコの母親二人、計4人が集まっていた。
「おぉ~遥香ちゃん!」
ハルとヨシコは小走りでその4人と合流した。
「遥香ちゃん、スピーチすごかったよ!
流石だね!」
「まぁね~こう見えても生徒会長だから。」
「ホント、普段からは想像できないよね~」
「…ヨッシーもなかなか言うようになったね。」
三人は楽しそうに話していた。
三人の会話がひと段落した後、ハルとヨシコは遥香とヨシコの母、総一郎に挨拶をした。
「遥香ちゃんとヨシコのお母さん、こんにちわ!
遥香ちゃんのお母さんも来てたんだね。」
「こんにちわ~」
ハルは遥香とヨシコの家にはしょっちゅう行っていたので、二人の母とも仲が良かったのだった。
遥香の母はハルとヨシコに笑顔で答えた。
「こんにちわ。ハルちゃん。ヨシコちゃん。
遥香が在校生のスピーチするって言ってたしね。
それにハルちゃんの叔父さんがすごいかっこいいって聞いてたから、見てみたかったのよ。
それにしても、ハルちゃん、こんな素敵な叔父様がいるなんて知らなかったわ。
もっと早く紹介してくれたらよかったのに。」
遥香はどうやら、母親似のようだった。
「志岐さんの旦那さんだって、素敵じゃない!
何を贅沢なこと言ってるのよ~
ということで、加藤さんは私がもらうわね~」
ヨシコの母はヨシコとは顔こそ似ているが、性格はまるで違うようだった。
「ははは…」
総一郎は苦笑いをしながら、愛想を振りまくしかない様子だった。
遥香とヨシコの母親は妙に気が合うのか、プライベートでも遊ぶような仲だったのだった。
「これから武田さんとお茶しに行くんだけど、あなた達もどう?
加藤さんも是非来てくださいよ。」
遥香の母親の提案にまず総一郎がいち早く答えた。
「本当に申し訳ないんですが、昼から仕事があるので、また、今度の機会にでも。」
「あら、それは大変ね~お仕事頑張ってくださいね。
あなた達はどうする?」
ハルと遥香とヨシコはこの二人に付き合っていると、時間がいくらあっても足りないと知っていたので、遥香が代表して言った。
「えっと、これから三人でハルの家に行く約束してたから、また、今度の機会にでも。」
「…あんた、加藤さんのパクってんじゃないよ。
はいはい。分かりましたよ~
あんまり遅くならないようにね。」
遥香の母はうっとおしがられていると感じたが、すんなりと受け入れた。
「分かってるって。お母さんもあんまり遅くならないようにね。」
遥香が嫌味っぽく、母親に言った。
「…やっぱり、私の子だわ。この子は。
気を付けて言ってらっしゃい。」
そうして、遥香とヨシコの母と別れて、ハルと遥香、ヨシコ、総一郎の4人はハルの屋敷に向かったのだった。
「しかし、遥香ちゃんとヨッシーのお母さんって、随分仲良くなったよね。」
ハルは屋敷に向かう道中、遥香とヨシコの二人に言った。
「基本的に二人ともおしゃべりだから、気が合うんだろうね。
…決して巻き込まれたくはないけどね。」
遥香はうんざりした様子で言った。
「そだね~うちのお母さんもなかなかのおしゃべりさんだからね~」
ヨシコは巻き込まれても常にマイペースを保てるからか、それ程気にしている様子ではなかった。
「総一郎さんも戸惑ったでしょ?
あの二人、いっつもあんな感じだよ。」
「…そうだね。別に嫌ではないんだけど、僕、ああいうのに慣れてなくて。
正直、今日、午前半休だけにしておいて、本当に良かったと思ってるよ…」
総一郎は微妙な笑顔で、変な汗をかいていた。
ハルと遥香とヨシコはそんな総一郎の様子をみて、笑ったのだった。
「えぇ~!!自己紹介でお化けが見えるって宣言しちゃったの!?」
屋敷に着いて、お菓子を食べながらハルの自己紹介の話を聞いて、遥香が驚いた。
「そだよ~堂々としててカッコよかった~」
ヨシコは呑気にハルを褒めていた。
「いやいや、ていうか、どうしてまたそんなことしたの?」
「いや~ヨシコをいじめてた三人組と一緒のクラスになっちゃってさ~
こっち見ながらひそひそやってるから、なんかむかついて、やっちゃった~
でもまぁ始めに言っとけば、変な噂流されても、本人が言ってるんだし、これ以上何か言われることはないかな~って。」
ハルはすっきりした顔で遥香に答えた。
遥香はハルの言葉を聞いて、ぷっと笑った。
「ハルも随分強くなったもんだよね。
いいんじゃないかな。信じてくれる人も出てくるかもしれないしね。
あんなに引っ込み思案だったハルも成長したもんだよ!」
「…遥香ちゃんは私の師匠かなにかなの?」
ハルは呆れた顔で突っ込んだ。
「ところで、結局、学校にはお化けはいたの?」
「うん。思いっきりいたよ。
私の前の席の太田って人の後ろに張り付いてた。」
ハルは特に怖がる様子もなく答えた。
「えぇ~!!ホントにいたんだ!!
てか、よりにもよって前の席ってめっちゃ気になるじゃん!
大丈夫なの?」
遥香は驚くと同時にハルを心配した。
「まぁ、無視しとけば、大丈夫じゃないかな?こういうの慣れてるし。
それよりも大田って人が心配だよ。
なんか悪そうなお化けだったし。」
ハルは自分よりもその太田という男子生徒のことを心配していた。
「ん~太田君ってあの暗そうな人か~
多分、南小学校の子だよね~
見たことなかったもん。」
第五中学校は基本的にハル達が通っていた西南小学校と南小学校からの生徒が集まる学校だった。
そのため、南小学校から来た生徒はハルとヨシコにとっては初対面であった。
「…気になる男子がいたか聞こうと思ってたけど、それどころじゃなかったのね…残念。」
遥香は恋バナをしたかったのか、少し残念そうだった。
「いや、そんな初日で気になる男子なんて普通できないでしょ。
まぁ、別の意味で気になる男子はいたけども…
遥香ちゃんはどうなの?
素の遥香ちゃんはモテなさそうだけど、普段、猫かぶってるからモテるんじゃないの?」
ハルは余計な一言を加えて、遥香に聞いた。
遥香はフフフと笑って、ハルに答えた。
「もちろん。告白されたことは結構あるよ。
でも、やっぱりまだ好きとか分かんないから、付き合ったことはないね。
…それに告白されるっていうのがまた、なんて言ったらいいのか…
すごい優越感というかなんというか、たまんないんだよね~」
遥香は気持ち悪い顔で浸っていた。
ハルは遥香の様子を見て、お菓子を食べているヨシコに言った。
「…ヨッシー…遥香ちゃんて、私達三人の中でぶっちぎりでやばいよね。」
「そうだね~ちょっと心配になるレベルだよね~」
ヨシコは笑いながら、答えた。
翌日、相変わらず、太田に憑いているお化けが気になり、授業に集中できなかったハルはどうしたものかと困っていた。
休憩時間、疲れてうなだれていたハルに後ろの席の木村紗枝(きむら さえ)が声をかけた。
「加藤さん。なんかすごい疲れてるけど大丈夫?」
ハルは少し慌てて、愛想笑いを浮かべて、木村に返事をした。
「だ、大丈夫大丈夫。ちょっと、眠たかっただけだよ。
ありがと。」
「ははは。そうなんだ。
ちょっと、声かけるの遅くなったけど、隣の席どうし、これからよろしくね。」
木村は笑って、ハルに言った。
ハルはあの変な自己紹介をしたのにも関わらず、気軽に声をかけてくれたことが嬉しかった。
「こちらこそよろしく。木村さん。
まさか声かけてくれるなんて思わなかったよ。
あんな自己紹介だったしさ。」
「あれはよかったよ~インパクトあってさ~
私は面白かったよ~
だから、話したかったんだよ~
南小には加藤さんみたいな人はいなかったし。」
「自分で言うのもなんだけど、そりゃいないだろうね。
私みたいな変な人は。」
「はは~それ自分で言う?
やっぱり、面白いね。加藤さんは~」
木村はテンション高めの人みたいだ。
ハルは前の席の太田がどこかに行っていることを確認して、木村にこっそりと聞いた。
「あのさ。南小出身だったら、知ってるかな?
太田君ってさ。どんな人?」
「太田君?ちょっと、暗いよね~
でも、前まではあんな感じじゃなかったんだけどね。
もっと明るくて元気だったんだけど、なんか急に暗くなっちゃったんだよね。
中二病?ってやつなのかな。」
「そうなんだ。
前は明るかったのか。ふ~ん。」
ハルは木村の説明を聞いて、恐らく、ある時にあのお化けに憑りつかれてしまい、お化けの悪い感情にあてられてしまったのかと考えた。
何かを考えているハルの様子を見て、木村は不思議な顔をして言った。
「何?どしたの?
太田君のことがそんなに気になるの?
もしかして…」
ハルはまだ考えてる顔をしながら、木村に言った。
「まぁ、気になるのは気になってるんだけど、ちょっと方向性が違うというか…
とりあえず、本人にも声かけてみるよ。
教えてくれてありがと。」
「ははは~何それ?
ホント加藤さんて面白いわ~」
そうして休憩時間が終わったのだった。
「ハルちゃん、一緒に帰ろ~」
授業が終わって、ヨシコがハルに声をかけた。
「ごめん。ちょっとだけ待ってくれる?」
ハルは太田を見ながら、ヨシコに答えた。
ヨシコは何となく察して、ハルに言った。
「うん。分かったよ~
じゃあ、門の前で待ってるね~」
「ありがと。できるだけすぐ行くよ。」
そして、ハルは帰ろうと席を立った太田に声をかけた。
「太田君。ちょっといい?」
太田はハルの方を振り返った。
始めて太田の顔を面と向かって見たが、前髪が長く、目を伏し目がちにしていて、第一印象はやはり暗いといった感じだった。
「何ですか?」
太田に返事をされ、ハルは声をかけたもののどういったらよいものか考えておらず、困ってしまった。
「え~とね~まぁ~なんていうの?
前後の席になった縁というかなんというか…
太田君とちょっと話してみたくてね。」
ハルは訳の分からないことを言った。
「はぁ…そうですか。」
ハルはどうしたものかと考えていたが、周りに人が多すぎて、ここではまともに話せないと困った。
「すみませんが、急いでいるので…」
「あっ!ちょっと!」
ハルが止める間もなく、太田は帰ってしまった。
ハルは後先考えずに声をかけてしまった後悔と、折角中学生活が始まったばかりなのに、ずっとお化けに気を取られたままではたまらないという思いから、諦められずにいた。
(こうなったら、一人になったところで話しかけよう!)
ハルはそう思い立ち、太田の後をつけることにした。
「ハルちゃん。思ったより、早かったね。」
門の前で待っていたヨシコがハルに言った。
「ごめん!ヨッシー。
これから太田君の後をつけるんだけど来る?」
ハルは急いだ様子で、突拍子もないことをヨシコに言った。
「また、急だね~ハルちゃんは~
でも行く~」
ヨシコは何も疑うことなく、ハルについていくのであった。
そして、ハルとヨシコは一人で帰っている太田の後をつけ、人通りも少なくなってきたところで、ハルは太田に駆け寄って、肩を叩いた。
「太田君。ごめん。
やっぱり、ちょっと話しさせてくれないかな?」
太田は急に声をかけられてびくっとしたが、落ち着いた様子でハルの方に振り返った。
「…まだ、何か用ですか?」
「えっとね…こうなったら率直に聞くけど、あなたの背中にお化けが張り付いてるんだけど、何か心当たりない?」
「ちょ、ちょっとハルちゃん!
それはいくら何でも急すぎない?」
一緒について来ていたヨシコは驚いて、ハルに言った。
当の太田も驚いて、言葉を失っていた。
「もう他に説明のしようがないもん。
別に信じなくてもいいし、失礼なこと言って申し訳ないんだけど、太田君って前までもうちょっと明るかったんだよね?
何か気になることがあるんじゃないの?」
ハルは思い切って太田に問い詰めた。
しばらく黙って固まっていた太田だったが、ハルの方を向いて、口を開いた。
「…お化けがどうかは分からないけど、ある時から急に何もかも楽しくなくなったのはあります。
…病院に言ったこともあるくらいです。
…これって、そのお化けのせいなんですか?」
太田も心当たりがあったようで、ハルに聞いた。
ハルはようやく話しを聞いてくれるようで、少し安心した。
「そっか。ちょっと、待ってね。
そのお化けに聞いてみるから。」
そう言ってハルは太田の後ろに回り込んで、相変わらずぶつぶつ言っているお化けに声をかけた。
「あの~すみません。」
しかし、お化けはハルの言葉に反応する様子もなく、まだぶつぶつと言っていた。
ハルは一体何を呟いているのかが気になり、お化けの方に近づいて、耳を澄ました。
すると…
「…死ね…死ね…死ね…死ね…」
ハルはお化けの怨念のような呟きにぞっとし、体をのけぞらした。
どうやら話ができるようなお化けではないことはすぐ分かった。
「ハルちゃん?大丈夫?」
恐怖で固まっているハルにヨシコが心配そうに声をかけた。
ハルはヨシコの言葉にハッとして、ヨシコに言った。
「大丈夫!大丈夫!!
太田君。ごめん。
話ができそうなお化けじゃないみたい。」
「そうですか…」
太田は少し残念そうな顔をした。
ハルは念のために太田に聞いた。
「中年のちょっと小太りの男の人のお化けなんだけど、何か心当たりない?」
「…全くないですね。」
「そりゃそうだよね…
とても中学生と関係のありそうな人には見えないしね…」
ハルは自分から聞いておいて、お化けを見ながら、そうだろうなと思った。
しかし、このままだと太田にこのお化けのせいで苦しめられてしまう。
そして、何よりも後ろの席の自分が全く授業に集中できなくなってしまうとハルは思って、苦渋の決断をすることにした。
「…あいつにだけは頼りたくなかったんだけどな…」
ハルはそう呟いて、太田に言った。
「今から時間ある?
これからちょっと梅野橋大学に一緒に来てくれない?」
「…今からですか?
でも、どうして?」
太田は感情の起伏が少ないが、少し驚いた様子でハルに聞いた。
「ちょっと、知り合いにお化けを除霊できる人がいるんだけど、その人に相談しようと思って。
どうかな?」
太田は少し迷っているようだったが、ハルに返答した。
「…行きます。」
ハルは少しホッとして、ヨシコにも聞いた。
「ヨッシーはどうする?」
「私は除霊とか怖いのとか無理だから、やめとくね~」
ヨシコは笑って、即答した。
そうして、ハルと太田は二人は梅野橋大学の「上田研究室」に向かったのだった。
続く
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