第7話 ハルの決心
「ハルちゃんって、本当に友達いないの?」
ハルが小学4年生の3学期の終業式間近の頃、ハルはトイレの花子さん事件を通して、友達となった同学年の武田良子(タケダヨシコ)と6年生の志岐遥香(シキハルカ)、三人で放課後、遥香の部屋で話していた。
「急にどしたの?」
ハルは遥香の急な質問に戸惑った。
「だって、ハルちゃんと友達になってから半年以上経つけど、かわいいし、外面も良いし、人に嫌われる要素がないんだもん。確かに実際、友達になってみると、ガサツだったりするけど。」
遥香は素直なハルの評価を口にした。
「…それ聞いて、褒められてると思うほど、私バカじゃないよ?」
ハルはなめられてると思い、遥香に文句を言った。
「いやいや。かわいいっていうのは褒めてるでしょ。
でも、ホント分からないんだよ。
ハルちゃんって普通にいい子だし、それなりに礼儀もしっかりしてるし。
なんで、そんなに友達ができないのかなって?」
遥香はぼちぼち失礼なことを純粋な顔をして、聞いてきた。
「…逆にこんな遥香ちゃんがなんでそんなに友達多いのかが分からないよ。」
ハルは若干、皮肉めいたことを遥香に言った。
「それは私は努力してるからだよ!
頑張って勉強して、面倒くさいけど、クラス委員長にもなって、皆に認めてもらうために努力してるんだよ。
素の性格はどうであれ。」
遥香はこういう人だったのである。
ハルの登校班の班長だった遥香は真面目で温厚でなんでも出来て、皆に好かれていて、ハルにとっても憧れのお姉さんだった。
しかし、いざ、心を許すと毒舌というか、正直というか、結構失礼な奴だったのである。
だが、ハルはそんな遥香が大好きなのである。
「…まぁ、それは見てれば分かるよ。すごいなって。
友達が少ないのは、引っ越してばっかりだったのもあるけど、多分…私がちょっと変わってるからだよ。」
ハルは遥香が出してくれたクッキーを頬張りながら、言った。
「まぁ〜でも、ハルちゃんって確かに変わってるよね〜」
ヨシコがぼ~とした声で、ジュースを飲みながら、ハルに言った。
ハルは呆れた顔で遥香とヨシコに言った。
「…前もこんな話したと思うけど、二人ってやっぱり私のことからかってるよね?」
「ギクっ!そ、そんなことないよ〜」
「声にでとるがな!」
遥香とヨシコは笑っていた。
ハルはムッとしながらも、嫌な気持ちではなかった。
すると、ヨシコがハルに言った。
「ハルちゃんは私を助けてくれたでしょ〜
私は嬉しくて、あのことを一生忘れないと思うんだ〜
だから、他の子にも同じように接すれば、簡単に友達できると思うよ〜」
ヨシコはこういう人だったのである。
同じクラスの子にトイレでいじめられていたヨシコは非常におっとりしたおとなしい子で、話し方がゆっくりで、よく言えば落ち着いている、悪く言えばとろくさい、そんな女の子だった。
しかし、嘘をつかない純粋なヨシコのことがハルは大好きなのである。
「ヨッシーはホントいい子だな~」
そう言って、ヨシコに抱き着いて、ハルはヨシコの頭を撫でながら言った。
「うんうん。
ハルちゃんって、ちょっと私達以外に対して、一歩引いてるというか、臆病っていうか、そういうとこ直したら、私みたいに友達いっぱいできるよ!頑張って!」
遥香はハルに偉そうにアドバイスをした。
ハルは微妙な顔をして、遥香に言った。
「ホントにどうして、それで友達がいっぱいいるんだ…」
「ははは〜大丈夫!
こういうのはよっぽど気を許してる人にしか言わないから。空気は読む方だからね〜」
そう言って、ハルに抱き着いて、遥香はハルの頭を撫でるのであった。
ハルは満更でもない顔をしていた。
「そういや空手の道場にも友達いないの?」
遥香はそのまま頭を撫でながら、ハルに聞いた。
ハルは少し考えて答えた。
「う〜ん…道場はほとんど男の子だし、なんだろ?
友達というか、仲間って感じかな?
こんな仲良く遊んだりはまったくしないね。」
「逆ハーレムじゃん!!そこに恋心はないのかね?ん?」
遥香はハルのほっぺをつつきながら、おちょくるように言った。
「つつくのやめれ!別にそういうのはないかな。
全然考えたことないや。」
ハルはつつかれてむすっとしながら、照れる様子なく、答えた。
「ん〜まだハルちゃんには早いか〜まぁこれからだね〜。」
遥香は随分な高みからハルを見下ろしているようだった。
「じゃあ、遥香ちゃんは好きな人いるの?」
ハルは調子に乗っている遥香に反抗するように聞いた。
「さぁ…どうだろうね〜私もわかんないや。
強いて言うなら、総一郎叔父様かな〜」
遥香はうっとりした顔でハルに言った。
「だから、やめといた方が良いって!」
「なに〜ひょっとしておじさんを取られたくないの〜?」
遥香はハルの顔を指でうりうりした。
ハルは神妙な面持ちで遥香に言った。
「…別にいいんだけど、これだけは覚えててね。
私は止めたからね…」
「な、なんかマジじゃん…
でも、流石に歳の差ありすぎるから、そんな本気じゃないって〜
私もまだ、恋愛とかは分からないしね〜」
遥香はハルの様子を見て、少し戸惑いながら、言った。
「まだまだ私達は子供なんだよ〜」
ヨシコがジュースをずずずと飲みながら言った。
「まさか、ヨッシーが締めてくれるとは…」
ハルと遥香はヨシコに話をまとめられたのが可笑しくて、笑ったのだった。
「…てか、遥香ちゃん、もうすぐ卒業だね。
せっかく仲良くなったばっかなのに〜」
ハルはすねたように遥香に言った。
「そだね〜でも、まぁ家は近いし、中学校は小学校のすぐ隣だし、わりと簡単に遊べると思うよ。」
遥香は寂しい様子を全く見せず、ハルに言った。
「そっか〜中学生か〜大人になるんだね〜」
ヨシコは親戚のお婆さんのように呟いた。
「じゃあ、中学生になってもちゃんと私達と遊んでよ〜」
「もちろん!先輩として、指導してあげるよ〜」
「おねがいしま〜す」
三人はまったりと女子トークを楽しんだのだった。
ここまで心を許して話せる友達が今までいなかったハルは本当に幸せだった。
二人のことを大事にしたいと心から思っていた。
だか、ずっと心に残っていることがハルにはあった。
それはお化けが見えることを二人に話していないことだ。
ハルは一人になるといつも桜と龍の言葉を思い出すのだった。
「嫌われるのが怖いから本当のことが言えない臆病者」
「俺はお前のダチが欲しいから、ダチに合わせるって考え方が大っ嫌いだ!」
その言葉を思い出す度に言わないといけないと思うのだが、どうしても話せなかった。
(やっぱり、変な目で見られちゃうよな。)
(最悪、嫌われちゃうかも。)
(もし、二人に嫌われたら、私…)
(大好きな二人とこのままの関係でいたい!)
そんな考えがグルグルと回って、話せなかったのだった。
「じゃ、また明日ね。」
そう言って、ハルは遥香の家を出た。
「うん。また遊びに来てよ。じゃあね〜」
遥香は手を振って答えた。
「ヨッシーもまたね。帰り道、気をつけなよ〜」
そして、家が逆方向のヨシコにも若干心配しながら、ハルは言った。
「うん。バイバイ。ハルちゃん。」
ヨシコは少し寂しそうな顔をしながら、帰っていった。
その帰り道、ハルはまた考えるのであった。
(…今日も言えなかったな…)
「ハル!」
ハルの後ろで総一郎が手を振っていた。
「総一郎!今日は早かったんだね。」
「うん。早めに仕事が終わってね。ラッキーだったよ。」
二人は家まではそんなに距離はなかったが、一緒に並んで帰った。
「志岐さんちで遊んでたんだね。
ホントにいい友達を持って良かったね。」
「うん!ヨッシーもいい子だしね!でも、遥香ちゃんって、私のこといっつもからかってくるんだよ〜困ったもんだよ!」
「ははは。志岐さんってそんな子だったんだ。意外だね。」
総一郎は笑っていた。
ハルは笑いつつも、少しうつむいて、考えていたことを総一郎に聞いた。
「あのさ。総一郎。
お化けが見えるって、二人に話した方がいいかな?」
総一郎はやや考え込んでいる様子のハルを見て言った。
「そうだね。難しいね。なかなか。
前に言った「墓場まで持ってく」って言葉覚えてる?」
ハルは総一郎を見上げて言った。
「もちろん!忘れたことないよ。
あの時、総一郎は「墓まで持っていってもいい」って言ってくれて、すごく楽になったもん。
でもさ。あの二人には隠し事したくないんだ。」
総一郎は笑ってハルに言った。
「ハルはさ。すごい幸せ者だと思うよ。」
「急に、何さ。」
ハルはややむくれて、総一郎に言った。
総一郎はハルの頭をなでて、優しく言った。
「どうしても言えない、言いたくないことは誰だってあると思うけど、それを話したい、分かってほしい人がいるってのはあまりないんじゃないかな?
自分の全部を知ってほしい人がいるっていうのは、それだけその人のことが大好きだからで、そういうのは幸せだと思うんだよ。
なんたって、「一緒に墓まで持っていきたい」程の友人ができたんだからね。」
ハルは総一郎の言葉を聞き、何かむずがゆくなり、顔を赤くした。
「あとね。僕も幸せ者だよ。
ハルが勇気を出して、お化けが見えることを言ってくれたのが、本当にうれしかったからね。
僕のこと信頼してくれてるんだって。
だから、志岐さんも武田さんもきっと、僕と同じ気持ちになると思うよ。」
総一郎はいつもの笑顔でハルに言った。
ハルは嬉しかったが、なんだか恥ずかしくなってしまった。
「…総一郎ってさ。結構恥ずかしいこと平気で言うよね。
クサいというか、なんというか。」
ハルは強がって、総一郎に言った。
「そ、そう?確かに時々言われるかな?
思ったことなんでもしゃべっちゃうタイプだからな~」
総一郎は頭を掻きながら、照れて言った。
「おかげで、総一郎って隠し事なさそうだから、安心できるけどね。」
ハルは笑いながら、総一郎に言った。
「まぁ、とにかくゆっくりでいいから頑張ってみてもいいと思うよ。
失敗しても僕と桜さんがいるし、ハイテ君だっているし。
だから、当たって砕ける気持ちで言ってみたら?」
「いや、砕けたくはないから、困ってるのに…
ホントそういうとこだわ。総一郎は…」
そうして、二人は屋敷に着いたのだった。
「遥香ちゃんとヨッシーをこの屋敷に呼びたいんだけど、いいかな?」
夕飯後、ハルは決心した面持ちで総一郎に聞いた。
「もちろんだよ。僕はいつでも大歓迎だよ。」
総一郎は喜んでハルの提案を聞き入れた。
「ありがと。じゃあ、早速、今週の土曜日にでも誘ってみるよ。
…で、桜おねぇちゃんのことなんだけど…」
ハルはゲームをしている桜に目線をやった。
桜はハルの意図を察して、ゲームをしながら、無表情でハルに言った。
「…分かってますよ。初めての時くらいは水を差さないようにしてあげますよ。」
何回目かは意地悪するのかとハルは少し思ったが、しかし、ハルは桜に全く逆のお願いをした。
「…ううん。そうじゃなくて、二人に桜おねぇちゃんのこと紹介したいんだけど…
ダメかな?」
桜は驚いて、思わずゲームから目を離して、ハルを見つめた。
ハルの覚悟を決めた真剣な様子を見て、桜は一瞬間をおいて、ハルに答えた。
「…分かりました。いいでしょう。
まぁ、安心しなさい。私も元使用人ですからね。
ゲストであるご友人に失礼な態度はとりませんよ。
但し、向こうがどう思うかは知りませんがね…」
そう言って、桜はゲームに戻った。
ハルは若干、私にも失礼な態度をとるなよと思ったが、それは言葉には出さないようにした。
「ありがと。桜おねぇちゃん。
じゃあ、明日、誘ってみるね。」
ハルにはもう迷いはなかった。
「ハルちゃんち、でっか〜い!」
土曜日の朝、ヨシコはハルの屋敷を見て驚いていた。
「でしょ〜このオンボロ屋敷はここら辺では結構有名なんだよ。
一度入ってみたかったんだ〜」
遥香も屋敷を見上げて、失礼なことを言っていた。
ヨシコは遥香に視線を移して、言った。
「それにしても、今日の遥香ちゃん、なんかいつもより可愛いね〜」
「そ、そう?いつも通りだよ〜
とにかく、インターホン押すよ。」
遥香は総一郎に会えると思い、おめかししてきたのだった。
そして、ごまかし気味に門の横についているインターホンを押した。
すると、屋敷の中からドタドタと聴こえてきて、玄関のドアから、ハルが顔を出した。
「遥香ちゃん!ヨッシー!いらっしゃい!どうぞ〜入って〜」
遥香とヨシコはハルに促されて、屋敷の中に入った。
「お邪魔しま〜す。」
中に入った二人は屋敷の中を見回して、おぉ〜と感嘆の声を上げていた。
すると、ハイテ君がハルのそばにやってきた。
「あっ!これ自動で掃除してくれるやつじゃん!
いいなぁ〜」
遥香はハイテ君を見て、羨ましがった。
「うん。ハイテ君って言うんだよ。」
「?そんな名前だったっけ?
しかし、なんかハルの後ろばっか掃除してるね。」
遥香は少し不思議に思った。
「ハイテ君、ごめん。台所掃除してて。」
ハルはハイテ君に申し訳なさそうに台所の掃除をお願いした。
ハイテ君は言われると指示通り台所へと向かった。
その様子を見て、遥香とヨシコは驚きながら、興奮して言った。
「あの機械ってこんなことまで出来るんだ…
めちゃくちゃすごいじゃん!!」
「いいなぁ〜なんかペットみたいで可愛い。」
ハルはちょっと嬉しくなって言った。
「そうかな?まぁ、とにかく二階の私の部屋に行こう。」
三人はハルの部屋に向かった。
遥香は気になっていたことをハルに聞いた。
「今日、総一郎さんはいないの?」
「いるよ〜。でも、休日は起きるの遅いからね。
まだ、寝てるんじゃないかな?
そだ!みんなで起こしに行こうか!?」
ハルは遥香とヨシコに提案した。
「面白そ〜」
ヨシコは話に乗った。
「いや、それはちょっと失礼ていうか、怒られないの?」
遥香はドギマギしながら、ハルに聞いた。
「むしろこんな時間まで寝てるのを怒らないといけないよ!
てか、いつもこの時間に起こしてるしね。」
ハルは怒った顔をしながら、遥香に言った。
「そ、そうなの?じゃあ、お言葉に甘えて。」
遥香は少し照れながら、ハルに言った。
(お言葉に甘えて、何する気だ?遥香ちゃんは?)
ハルは不思議に思ったが、とにかく総一郎の部屋にノックもしないで入って行った。
総一郎の部屋はハルが掃除してるにも関わらず、服やら本やらが転がっており、汚くなっていた。
そんな中、総一郎はカーテンを閉めた暗い部屋の中のベッドでぐっすり眠っていた。
その様子を見て、遥香はガッカリするどころか、携帯のカメラを構えて、総一郎の寝顔を撮るのであった。
グヘグヘ言ってる遥香を見て、ハルはそういうことかと呆れて、カーテンを開けて、いつも通り総一郎を起こしにかかった。
「総一郎!!起きて!!もうみんな来てるよ!!」
総一郎はう〜んと唸って、寝ぼけ眼で身体を起こした。
「…あぁ…ハル…おはよう…いつも悪いね…」
総一郎はまだ状況を把握してないようだった。
「おはようございま〜す。お邪魔してま〜す。」
「お、おはようございます。」
ヨシコと遥香は総一郎に挨拶した。
「…ん。二人ともおはよう。いらっしゃい…
今日はゆっくりしてってね。」
総一郎は全く慌てる様子もなく、ふぁ〜と立ち上がって、ハルに言った。
「顔洗ってくるよ〜朝ごはんってある?」
「リビングの机に置いてるよ。コーヒーは自分で入れてね。」
「はいはい。いつもありがとね。」
そして、総一郎は洗面所に向かった。
ハルは転がってる服やら本を少しだけまとめていた。
遥香とヨシコはぼ〜とその様子を見ていた。
「あのさ…総一郎さんって、ひょっとして、かなり変わってる?」
遥香は思わず、ハルに聞いた。
「だがら、言ってるじゃん!やめといた方がいいって!」
そして、三人はようやくハルの部屋に入るのだった。
「おぉ〜綺麗じゃん〜ハルちゃんって意外と綺麗好きだよね。」
遥香はハルの部屋を見ながら、言った。
「遥香ちゃんは一言多いんだよな。」
ハルはじとっと遥香を見つめて言った。
「ハルちゃん、これ食べていい?」
ハルは二人が来る前に、部屋のテーブルにお菓子と飲み物を用意していた。
それを見て、ヨシコはハルに聞いた。
「どうぞ。ヨッシーは食べすぎに気をつけなよ。」
ハルは笑ってヨシコに言った。
「うん。じゃあ〜頂きま〜す。」
ヨシコはそう言って、お菓子を頬張った。
「…ちょっと、聞いて欲しいことがあるんだけど…」
ハルは早速、切り出した。
「うん?どしたの?似合わない真面目な顔して〜」
遥香は相変わらず失礼だった。
ヨシコはハルの方を見ながら、お菓子をモグモグしていた。
そして、ハルは勇気を出して二人に言った。
「私…実はお化けが見えるんだ!!」
「あぁ〜やっぱり、そうだったんだ。
そんな感じだったもんね〜」
遥香はあっけらかんとお菓子を食べながら言った。
「うん。そんな気はしてたよ〜
でも、実際にそういう人っているんだね〜」
ヨシコも知ってたみたいな顔をしていた。
ハルは二人の拍子抜けの反応に思わず、聞いた。
「えっと…そんな簡単に信じてくれるの?」
遥香はキョトンとした顔でハルに答えた。
「んっと、お化けが本当にいるのかまでは信じてないけど、私達に見えない物にびっくりしてるんだろなってのは、ずっとハルちゃんを見てて、知ってるからさ。
だから、100%信じてるかって言われたら、そんな信じてないよ。ぶっちゃけ。」
ヨシコもハルに二個目のお菓子を食べながら、ハルに言った。
「私はハルちゃんはずっと何か隠してるなって思ってて、それがこのことだったのか〜て、信じてるっていうか、納得した感じだよ〜」
ハルは二人の言葉を聞いて、嬉しくなって言った。
「二人とも、そんなに私のこと気にかけてくれてありがとね。
なんか、すごい嬉しい。」
遥香はハルに近づいて、意地悪そうな顔で頭を撫でて言った。
「言っとくけど、私もヨッシーもお化けのことを全部信じてるわけじゃないからね〜」
ハルは少しだけ迷った風に遥香に言った。
「…で、なんだけど…実はこの屋敷にもお化けがいるの…」
「えっ?」
遥香とヨシコは驚いた。
ヨシコは少し怯えているようだった。
ハルは用意していたタブレットを二人に見せて、言った。
「紹介します。お化けの桜おねぇちゃんです。」
ハルがそう言うと、タブレットが勝手に起動して、事前に立ち上げていたテキストアプリ上に誰も触れていないのに文字が次々と入力されていった。
「初めまして。東雲桜と申します。以後、よろしくお願いいたします。」
タブレット上に入力された文字を見て、遥香とヨシコは固まった。
ハルはやってしまったかと、内心ビクビクしながら、二人に言った。
「あ、あのね。桜おねぇちゃんはお化けだけど、悪いお化けじゃないから大丈夫だよ!
でも、もし怖かったら言って!」
「そりゃ、怖いよ!!てか、どうやってるの?」
遥香は思わず、ハルに突っ込んだ。
ヨシコはタブレットを見ないよう顔を手で覆っていた。
「えっと、お化けって、こういう電気機器を扱いやすいらしくて、桜おねぇちゃんが操作してるの。
やめてもらおうか?」
ハルは一応、遥香に説明して、聞いた。
遥香は何が何だかといった感じで混乱していたが、ハルに答えた。
「い、いや、とりあえず、もう少しだけ。
ど、どうして、その桜さん?はここにいるの?」
すると、タブレットが動き出して、桜の返事が入力された。
「それはハルを呪い殺すためです。げっへっへっへ。」
「ひっ!!」
遥香はぞっとして、のけぞった。
遥香の様子を見て、おかしいと思い、ハルからはタブレットの画面が見えなかったので、画面をのぞき込むと、恐ろしい文面が入力されていた。
「桜おねぇちゃん!!悪ふざけはやめてよ!!
シャレにならないから!!」
ハルは桜に怒った。
桜はニヤニヤしていた。
すると、タブレットにまた桜の言葉が入力されていった。
「申し訳ありませんでした。お茶目な冗談です。
「げっへっへっへ」で気づいてくれるかと思ったのですが、甘かったですね。」
「ほら、大丈夫だよ!!桜おねぇちゃん、意地悪で、からかっただけだから!!」
遥香は怖がりながらも、タブレットの文面を見て、少しだけ安心したようだった。
「…ホントにシャレにならないよ…にしても、すごいな。
さすがに、信じるしかなさそうね。」
遥香は変に感心していた。
ヨシコは相変わらず、顔を手で覆っていた。
「実は、「トイレの花子さん」の時に言ってたのが桜おねぇちゃんだったの。」
「あぁ、そういえば言ってたね。ニートのお姉さんがいるって。
まさか、お化けだったとは…」
「で、ヨシコがいじめられてる時に助けてくれたのも桜おねぇちゃんなの。」
ヨシコは顔を上げて、ハルを見た。
「あっ!あの時、トイレの水を流したのが、そうなの?」
「うん。そういうこと。」
ヨシコはずっと不思議に思っていたことが、こんなところで分かるとはと、変な気持ちになっていた。
「え、えっと、その節はありがとうございました。」
ヨシコはとりあえず、桜にお礼を言った。
すると、タブレットにまた、桜の言葉が入力された。
「いえいえ。こちらこそ、こんなハルと仲良くしてくださって、ありがとうございます。
大したおもてなしはできませんが、ごゆっくりしていって下さい。」
遥香とヨシコは桜の言葉を読んで、どうやらそんなに怖いものではないんだと分かった。
「なんか、あれだね。確かにハルのお姉さんって感じだね。
桜さんって、どんな姿してるの?」
「メイドさんの姿をしてるよ。黒髪ロングのきれいなおねぇちゃんだよ。
ただ、頭から血を流してるけど。」
「何それ!?やっぱ怖いじゃん!!」
「いや、慣れたら平気だよ!!」
「…ハルちゃんって、やっぱり変わってるよね~」
気づくと、4人は楽しく話したのだった。
桜との話が一段落して、ハルは二人に気になっていることを聞いた。
「あのさ…こんな私だけど、やっぱり気味悪くなった?嫌いになった?」
すると、遥香は珍しく怒った様子で、ハルに言った。
「ハルはさ。嫌われたくないから私達といるの?」
ハルは慌てて遥香に答えた。
「ち、違うよ!!二人と一緒にいると楽しいし、二人のことが大好きだから、一緒にいるんだよ!!」
遥香は少し間をおいて、ニコッと笑って、ハルに言った。
「…そう!それでいいんだよ。
正直、今日のことで少し気味悪くなったし、より一層変に思ったけど、それでも本当のこと話してくれてうれしいし、何よりハルのことが大好きだから、私も一緒にいたいって思うんだよ。
だから、これからはそういうこと聞くのはうざいから、無し!」
遥香はなかなか辛辣なことをハルに言った。
「うん。私も変だとは思ってるけど、ハルちゃんのことが大好きだから、ずっと一緒にいたいと思ってるよ。
もうちょっと私達のこと信じてくれてもいいんだよ~」
ヨシコも正直な思いをハルにぶつけた。
ハルは自分を受け入れてくれたことが本当に嬉しくて、嬉しくて、涙を目に浮かべながら、二人に言った。
「二人ともホントありがとう。ごめん…嬉しかったから、もう一回言ってくれない?」
「なんでよ!!言わないよ!!」
「欲張りすぎだよ~」
遥香とヨシコは笑って、ハルに突っ込んだ。
「今日は楽しかったよ~また、誘ってね。」
「お菓子、ご馳走様~私もまた誘って~」
遥香とヨシコは屋敷の門の前で、別れの挨拶をした。
「もちろん。いつでも来てよ~」
ハルも笑って言った。
「総一郎さんも今日はありがとうございました。」
遥香は上級生らしく、総一郎にもきちっと挨拶をした。
「いやいや。こちらこそ本当にありがとう。また、来てね。」
総一郎は笑顔で答えた。
「桜さんも今度、メールするね~」
遥香は桜にメールのアカウントを作ってあげて、メル友になったのだった。
そして、ハルの持っていたタブレットに桜の言葉が入力された。
「はい。よろしくお願いいたします。」
総一郎は考えた顔をして、つぶやいた。
「…その手があったか…」
「おい。」
ハルは軽く、総一郎に突っ込んだ。
「じゃあね~」
そうして、二人は帰っていった。
「桜おねぇちゃん。今日は本当にありがとう。助かったよ。」
屋敷に戻って、ゲームを始めた桜に向かって、ハルは感謝した。
「いえ。お二人ともハルと違って、礼儀がしっかりしているので、話がしやすかったですよ。」
ハルはムッとしたが、それでも今日のことは本当にうれしかったので、更に続けた。
「本当ありがとう。
この屋敷にいるお化けが桜おねぇちゃんで良かったって、今は心から思ってるよ。」
しかし、桜はゲームをしながら、何故か少し不機嫌な様子であった。
ハルが不思議に思っていると、そんなハルに桜は言った。
「…そういえば、私のことをニート呼ばわりしていたそうですね…」
ギクッと、ハルは身構えた。
すると、リモコンがハルの頭めがけて飛んできた。
「あたっ!!」
ハルは頭にリモコンを受けて、うずくまった。
「痛いな!!もう!!成り行き上、そう言うしかなかったんだよ!!」
桜は無視して、ゲームを続けた。
ハルはくそぅと思いつつも、自分が悪いとは思っていたので、飛んできたリモコンを元の場所に戻しそうとした。
すると桜は小さな声でつぶやいた。
「お二人ともとても優しい方です。
大事にしなさい。」
ハルはリモコンを元の場所に戻して、笑って答えた。
「うん!何度も言うけど、ありがとね!」
続く
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