第47話 最初の期待はあっさりと……。

 センパイの怒りはもっともである。僕は待ちぼうけを食わせながら、電話の一本も入れなかった。

 原因は、オフクロである。

 部活だとは言えなかった。言えば、目の前で電話を入れて断れということになる。

 かすみセンパイに電話を入れれば、会話の内容を不審がられるだろう。部活なんか本当はないのだから。

 そんなわけで、僕は、唯々諾々とオフクロの言いなりになるしかなかった。やっとの思いで宿題を徹夜で片付け、今朝早く、部活と偽って脱出してきたのである。


「そういうわけです。すみませんでした」


 以上の言い訳を、僕はパソコンを打ちながら述べ立てた。傍目から見れば横着な態度だが、そのくらい時間が惜しかったのである。

 考えてみればセンパイが僕の自宅に電話してこなかったのは幸運だったが、その理由を尋ねる勇気はなかった。

 僕が電話をかけてくるのを、この部屋でじりじり待っている先輩の姿……

 想像するだけで背筋が凍った。

 それでも怖いもの見たさで、今のセンパイの顔色を伺おうと振り向く。

 タンクトップ姿のセンパイが、不機嫌全開で僕を見下ろしていた。


「お茶なんか出さないからね。昼はカップ麺もって来てやるから。夕方までひたすら書き続けること。いい」

 

 僕はパソコンの画面に向き直るしかない。


「はい……」


 そうつぶやきはしたけれど、なんだかものすご~く損をしたような気分になっていた。

 それでも僕なりに、気遣って聞いてみる。


「センパイは」


 かすみセンパイもカップ麺では済まない、と思ったのだ。ところが、センパイは悪戯っぽくニヤっと笑った。


「自分で作って食べる」


 はいはいそ~ですか。気を遣った僕がバカでした。


「アタシの手料理でも食べられると思った?」


 ちょっとだけ期待してました……。

 うなだれる僕にセンパイは人差し指を突きつける。


「待ちぼうけの罰」


 やっぱり損したな、僕。

 それでも覚悟を決めてキーボードを叩き始める。

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