第46話 初めての……女の子の部屋

 さて……。

 普通ならここで、僕は思いがけず、生まれて初めて女の子の部屋に入るというドキドキのシチュエーションが待っているのだが、世の中はそんなに甘くない。


「あのさ、真崎……」


 かすみセンパイは少しでも僕を見まいとでもするかのように、眼鏡を外して目を閉じた。


「はい……」


 僕も、センパイの顔を正面から見られなかった。

 なぜなら。

 今日は、こともあろうに連休5日目の朝だった。

 薄いピンクの壁紙。

 薄いブルーのカーテン。

 うっすらとモスグリーンのかかった絨毯。

 そして……木目の麗しい、真っ白なシーツのかかった、ベッド。


「何見てる」


 かすみセンパイが背後から僕の後頭部をしばき上げた。


「いえ……」

 

 妄想を膨らませているヒマなどなかった。

 センパイは僕の背中をどんと突くと、部屋の中に踏み込んで、机の前の椅子を指差す。


「そこ座れ」


 言われるままに、椅子に座った。机の上には、電源の入ったノートパソコンがある。

 センパイは、僕の背後に立った。あの上から目線を頭のてっぺんに感じる。

 僕は、久しぶりのプレッシャーに首をすくめながら尋ねた。


「あの、御両親は……」


 今朝、帰るとかいう話だったが。


「今晩遅く帰るって。いい年してドコほっつき歩いてるんだか」


溜息ひとつついて、センパイはまた、僕の後頭部を小突いた。


「話をそらすな」

「はい……」


 うなだれながらディスプレイ上のファイルを選択していると、容赦のない追い討ちがかける。


「昨日一日何やってたのよ。ずっと待ってたんだからね。来られないなら来られないで、連絡するのが当たり前でしょう?」

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