第45話 衝撃の一言

「そう、人の話は最後まで……電車来ます」


 複雑なジグソーパズルの最後のピースがはまって、僕もセンパイをからかうくらいの余裕を感じていた。

 言い負かされて、センパイは恥ずかしそうにうつむいた。

 やってきた電車に乗り込むと、結構混んでいた。並んで吊革につかまると、至近距離でかすみセンパイは、すうっと息を吸い込んで言った。


「ここで肝心なことを相談するんだけど」


 やっぱり、うつむいたままだった。顔が赤かった。冷房が利いているのに。

 センパイはしばらく黙ったままだった。僕も黙って次の言葉を待った。

 無言で電車に揺られ続けているうちに、いくつもの駅が僕たちの前を通り過ぎた。その度に、目の前に座る乗客は入れ替わった。


「明日……」


 やがて、かすみセンパイは思い切ったように口を開いた。ささやき声が、ためらいがちに聞こえる。


「アタシの家に来ない? 両親とも朝まで帰ってこないの。それも夜遅く……」


 かすみセンパイの口から、まさかそんなベタなお誘いの言葉が……。

 僕の心臓がドキっと鳴った。


「え……!」


 え? これ、ひょっとすると? ひょっとすると?

 かすみセンパイは、僕をキッと睨む。


「最後の詰め! 誤解しないで!」


 その目つきに、悩ましい不届きな妄想は粉砕された。

 そりゃ、そうだよな……。

 何でも両親共に観劇が趣味で、かなり遠方のマイナー劇団の公演まで泊りがけで見に行くことがあるという。

 小学生までは一緒に旅行していたセンパイも、中学生の頃は吹奏楽部に入って練習に忙しくなり、一緒に行くことはなくなった。

 留守を守るうちに、たいていの家事はできるようになったのだという。

 それでも、このとき僕は、「もしかして手料理ぐらいご馳走になれるかな」などという、様々な意味で「甘い」期待をしていたのだった。

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