第44話 ジグソーパズルのあとのご褒美

 センパイは舞台の端にナナメ線を引いて、「花道」と書いた。


「第5シーンでは、上手花道に観、下手花道に悠里が立つ」


 濁流に引き裂かれる観と悠里の姿が、目に見えるようだった。

 客席を挟んでお互いの名を呼び合う、ふたりの姿が浮かび上がる。

 舞台両端の外側にあるFS(フロントサイドスポットライト)からの光条ビームが、それぞれの向かいにある上手と下手の花道を照らすのだ。


「そこで悠里と観が花道から去る」


 かすみセンパイの言葉と共に、僕のイメージの中では、観と悠里が闇の中へ溶けて消える。

 やがて、引き割り幕の奥には、再びおおきなマルが描かれた。


「またですか?」


 そうは言ったけど、僕のアイデアを形にしてステージに立ち上げていくセンパイに、実はドキドキしていた。そりゃ、センパイは可愛いけど、そういうのとは何か違う興奮があった。

 かすみセンパイの声も、熱を帯びてくる。


「第5シーン終わったら、残骸の中で締めのナレーション。最後のシーンで引き割り幕が開くと、そこには流された廃屋の残骸。その中に観が立っている」


 かすみセンパイは引き割り幕の奥から、花道へ矢印を引いた。

 せっかくの見取り図が台無しになったような気がして、僕は声を立てた。


「あ……センパイ」


 それ以上は、言わせてもらえない。

 センパイは鋭く言い放つ。


「ここで最初のシーンに戻るの! 話は最後まで……」


 ムッとしてみせる顔は、それでもちょっと笑っていた。どこへ行くのかさっぱりだった演出プランがあっさりまとまって、ほっとしたんだろう。

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